序章 3 主従の出逢い
おにーさんズの中で生きているのは強面のお兄さんと、腰を抜かして後退りしていたおにーさんDだけ、お兄さんリーダーとおにーさんC、Eの3人はもう動かない、だって、頭が真後ろを向いてるし、お腹から内臓が飛び出してる、生きてるわけがないよね。
「お兄さん、その人を見捨てて逃げるか、その野獣さんを殺すしか帰る方法は無さそうだけど、どうするの? 私は逃げますけど。」
逃げる最中にもスケープゴートが欲しいから、強面のお兄さんに声を掛けるだけはかけて、私は全力で振り返らずに、一直線に森の出口を目指して走った。
私は勝手にどんどんと進む、おにーさんズには内緒で自分の目線からやや上の枝先を折って目印をつけながら歩いてきたから、それを辿れば森の出口だ、かなり離れた後方ではおにーさんDの泣き叫ぶ声が聞こえてるけど、まぁどうでもいいよね、私は私がかわいい、逃げるのに邪魔な人は置いてくるしかないもの。
おそらく逃げる事にした強面お兄さんも、出口の方向がわからないみたいで、私の後ろからは気配はない、よし、よし、これで野獣が私の方へ来る可能性は半減したね。
そんなこんなで必死に走ること20分、流石に限界が近いなぁ、って所で森からの脱出に成功した私は、逃げ足を抑えて村に向かって進んでいたんだ。
思えばこの時、強面のお兄さんを放置していなかったら、あの人に出会えなかったのかも知れないね、いや? あの人に殺されていたかも知れない、の間違いかな?
村まで後10分くらいかな? なんて考えながら、普通に歩いていた私の後頭部に、いきなり途轍もない衝撃と痛みが走ったんだ、少し考えれば、生き残ってしまった場合、同じ道を同じく逃げ帰る可能性に思い至るはずだったのに、死臭に酔っていたのかな?
「はぁ! はぁっ! げふっ! テメェ、よくも、俺たちを、見捨て、て逃げやがっ、たな、はぁ! おかげさまで俺のツレは全員喰われちまった! せめてテメェの金と装備くらいは貰って行かねぇと、丸損だ、殺しはしねぇが、覚悟しろよコラ!」
人間って、死ぬ程の恐怖には耐えられないんだね、強面のお兄さんは、目が血走ってどこを見てるのかわからないし、殺しはしないって言いながら、私の脚に剣を差し込んでるし、まぁ、支離滅裂な言動って感じだったのかな?
「っ! 痛いんですけどっ、殺さないって、言ってるのに、太腿にそんな物刺したら、治療できるっ! のかわから、ない、あんな村じゃ死んじゃうじゃないですか、、、っ!」
「あ、そうだな、死んじまうかもしれねぇし、止血してやるヨ? あれ? シケツってどうやるンダ? 首締めれば止マるのカナ? ケヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ! なんだカワかんねーけどまぁいイヨナ?」
あーあ、強面のお兄さん改め、壊れちゃったお兄さんだね、ゲームなら治せるかもしれないけど、もうダメかな、うん、手遅れだ。
あまりの痛みに涙が溢れて、良く見えないけど、多分もうあの下品な顔じゃないんだろうな、多分良く言う、鬼気迫る、なんて生やさしい、完全に狂った表情なんだろうなって考えてた。
「シケツ、シケツ、しけつ、止血、シケツ、しけつシケツ止血!」
何度も何度も、同じ言葉しか知らないように呟きながら、お兄さんは私のシャツを引き裂いていく、多分、普通だった頃なら止血のために布が欲しかった、って所? 今は途中から破る事自体が目的に置き換わっちゃったみたい。
「あああ? おっぱい? まま? おんな? ママ?」
シャツと一緒に下着まで破かれた物だから、私の胸が目に入っちゃったんだよね、ママ、ママ、って言いながら、私の胸を吸い始めた、母乳なんて出ないのにね。
「っ! 気持ち悪いですね、マザコンだったんですか? 強面のお兄さんがマザコンだなんて、死んだオトモダチは知ってたんですか? ふふふふふふふふふ。」
「オニイサン? ぼく、オニイサンだから、ママのおっぱいダメなの? そうダナ! 犯そう! 死んじゃった俺のトモダチヲ産んデくれれバ! ママわ許してあげルよ! ボクは大きくなったから、パパにナルンダ! だってなんだかお股がムズムズスルカラ!ママはオカサなくチャ!」
気狂いの唾液で汚されてゆく胸が気持ち悪い、狂ってゆく様を観察するのは楽しいけれど、その犠牲になるのはゴメン被りたい、だから、ズボンを脱ごうとしてお兄さんが離れた瞬間、手につかんだ何かを気狂いの顔面に叩きつける。
「っああああ!!! ママ! パパを殴らないで! ボクはワルイコじゃない! 痛い! いたい? んん、ん? いた、? イタイ?」
嗚呼、なんて愛おしいのか? これほどまでに壊れたオモチャが愉しいなんて! 愛おしさのあまりに石塊を振りかぶる手に熱が篭る、浴びる血糊を口にすれば絶頂すら覚えそうな痺れが走る。
あまりの興奮に我をわすれかけて、ふと、脚に突き刺さったままの激痛に我にかえる、そうだ、こんなに愉しい時間が、頭ばかり壊し続けたらすぐに終わってしまうじゃないか。
元の顔すらわからなくなってしまったオモチャが、不思議そうな眼をして私のことを見上げている、あれ? 私、いつのまにかコレに跨って居たんだろう? まぁ、些細な事だね、これ以上頭を壊すと死んじゃうだろうから、今度は愉しみながら手足で遊ぼう。
「Amazing grace how sweet the sound That saved a wretch like me I once was lost but now am foundWas blind but now I see 嗚呼! 素晴らしきかな人生! アレールヤ!」
気分がいい時に口ずさむ歌が自然と口をつく、歌いながら背中に刺したままの大剣を手に取ると、手を足を、腕を脚を切り刻んでゆく、痛みのあまり数秒正気に戻ってはまた狂う、このオモチャが永遠に壊れないければいいのに、そう願いながら遊んでいた。
「貴女、良い趣味ね、そうよ? せっかく人を壊すなら、神への敬虔なる祈りと共に、感謝を持って、愛おしむが如く殺さなくちゃ、そうよね? あぁ、良いわ、気にせずに続けなさい、貴女が愉しむ事で私も悦ばしい気分に浸れるのだから。」
せっかくの遊びを邪魔された不快感はなかった、殺人を見咎められた危機感すらなかった、ただそこにあったのは至高の美姫に褒められたと言う悦びだけ。
いつの間にそこへ現れたのか、私の側に真紅のドレスに身を包んだ、この世のどんな宝石さえ叶わない、輝くばかりの美しさを持つ少女が、背筋の凍り付くような、微笑みをたたえてこちらを見て居た。
「あら? 貴女の遊びはもう終わりなのかしら? まだその仔羊は生きているわよ? 神が与えたもうた命なのだから、無駄に使ってはダメじゃない、ちゃぁんと、髪の一本、血の一滴まで余す事なく殺さなくちゃ、ね?」
嗚呼! 私の人生はこの至尊の美姫に殺人という歌劇を捧げる為にあるの! そう、今この御方に観劇して頂ける事こそが私の人生! 叶うなら、この先も、死して尚、この方に私のオペラを捧げたい!
そう神に願いながら、命の最期の一滴まで殺人を楽しんで、私は彼女の足下に跪く、そして、私は至高の美姫、エリザベート•レ•ファーニュ様のメイドとなる。
序章2 冒頭でツァーレは自由な世界と言って居ますが、ここまで自由に殺戮が起きるのはこの2人の行くところだけです。