序章 2 ニュービー
ヒロインから既に隠しきれてないサイコの片鱗が、、、
一瞬の眩暈の後、私が目を開くと、そこは別世界でした、絶滅危惧種とされる様々な木々がそこかしこに自生し、現実では映像記録でしか見たことのない農作業をする人々。
「私、本当にリアルを捨てたんだ、ううん、今日からはこの世界が私にとってのリアルなんだよね。 サイッコー! あのウザかった自称友達からも、押し付けがましい自称両親からも解放されて、何をするのも自由なこの世界で生きていけるなんて!」
私の名前は、、、? そうだ! ツァーレ、それが私の名前! 持ち物は、っと、金貨が10枚、銀貨が150枚、それに多分1800年代にあったって言う硬くて黒い、不味そうだけど大きなパンが1ヶ月分、同じく本で読んだ干し肉ってやつも1ヶ月分。
ゲームって事だから、多分、、、あった、この背中に背負ってる大きな剣が初期装備かな? 凄いな、意識するまでは重さなんてなかったのに、認識した途端後ろに転んじゃいそうなくらい重く感じる、本当にリアルだなぁ、五感は再現されてるって言うし、今まで食べたことのない合成糧食以外の食べ物も食べられるかも、ううん、きっと食べられる!
周りを見渡せば、ヨーロッパ風の顔立ちをした人々の中に、キョロキョロと周りを見回す日本人顔の人たちがちらりほらり、よかった、あの会場にいた1500人が一斉にこの辺りに来たわけじゃないみたい。
やっぱり私も目と髪の色、変えればよかったかな? これじゃ日本人です! って、見た目でわかっちゃうよね?
「ねぇ彼女? キミ、俺たちと同じ第五次組だよね? 俺達、みんな知り合いでさ、5人でプレイヤーになったんだけど、やっぱり最初は不安じゃない? よければキミもパーティーに来ない?」
声をかけられてそちらを見れば、説明会の時に騒ぎ始めた軽薄そうなお兄さん、その少し後ろに同じく軽薄そうだけど、少し乱暴そうで怖いお兄さんもいる、正直言ってこの手合いの人は苦手、街に出るとやたらと近づいてくるナンパ君達と変わらない感じがする。
「いえ、誘ってくれるのは嬉しいんですけど、まずはこの辺りで何か仕事がないか探してみてから決めようかなって思ってるんです、ごめんなさい。」
そう言ってやんわりと断ってみたんだけど。
「それなら、やっぱり俺らとおいでよ、もう仕事の口は見つけてきてるんだ、この村のNPCから、野獣退治の依頼取ってきててさ? やっぱ、最初のクエストって言えば近くの森で雑魚狩りでしょ? ぶっちゃけると、キミみたいに立派な剣がない奴もいてさ、ちょっと不安なんだよね。」
え?この剣って初期装備でしょ? って思ってお兄さん達を見てみたら、皆んな装備が違うみたい、弓を持ってたり、小さなナイフしか待っていない人も居るし、声を掛けてきたお兄さんも片手で振るような短い剣、ショートソードって奴かな? 怖そうなお兄さんは丸い盾と長めの片手剣、どっちかって言うと、私の大剣の方が似合いそうだし、もしよかったら交換してもらえないかなぁ?
「兄ちゃん達、その子も連れて行くのかい? まぁ、駆け出しの冒険者って風だし、人数は多い方がいいよ、野獣って言ってもたまに大物もいるし、立派な剣持っちゃいるけど、お嬢ちゃん1人じゃ危なそうだしな。」
村のおじさんが私たちを見てそう声をかけてくれた、そうかあ、確かに近くの森とは言え、危険かも知れないし、肉の盾は多い方がいいかも? それに、五感があるって事はつまり、痛いものは痛いって事だよね? 私は自分の頬を軽くつねりながらそう考える。
「わかりました、パーティーに同行させてもらいます、よろしくお願いしますね。」
なんだか嬉しそうなお兄さん達に続いて村を出る、後ろでさっきの村人Aさんがボソリと何事か呟いた気がした。
「ようこそ、ニュービー」
村から歩いて1時間くらいかな? 舗装されてない田舎の道ってこんなに歩きづらいんだね、村人Aさんが言ってた通りなら30分もかからないって話だったのに、倍の時間がかかってる。
私たちは所詮、現代日本のアスファルトを歩いていた人間、でこぼこしてたり、ぬかるんで滑ったりのこんな道を歩いた事はなかった。
「ったく! やっと森かよ! あのクソジジイ、適当抜かしやがって! 何がゆっくり歩いても30分だ! 足の裏は痛ーし、疲れたし、森に入ったら虫だらけだし、クソッタレだぜ!」
お兄さんリーダーが悪態をつく、言いたい事はわかるけど、この程度で文句たらたらって時点で私の中での評価はマイナス10点、元々の評価が低いから、すぐ0点になりそうだね。
「ツァーレちゃん? 大丈夫?歩ける? なんならおんぶしてもいいんだよ?」
下心見え見えの下品な笑顔でマイナス10点、ほらね、もう0点だよ。
「キング、お前ただこの嬢ちゃんを背負いたいだけだろ? まぁ確かにでるとこでてっから、気持ちはわかるけどよ。」
さして共感してるようには思えない強面のお兄さんが急かす様にリーダーのキングって人を歩かせる、うん、無遠慮な言葉遣いでマイナス5点だけど、見え見えのすけべ心がないからプラス5点のプラマイ0だね。
森に入ってからまた1時間くらい、木のあちこちに何か模様みたいに見えるバッテン数が増えてきた、なんだろう、これ?
「なぁ、なんか変な臭いがしねーか? 鉄っぽいって言うか、なんだか酸っぱいような感じの? 臭えよな?」
おにーさんCお兄さんリーダーに話しかける、うん、この匂い、多分だけどアレだよね? 死臭って奴。
「あぁ? まぁ、臭えな、つか、歩き疲れたし、そろそろ野獣とやら出てきてくんねーかな? ダリィわ。」
そう言ってお兄さんリーダーが目の前の草むらをショートソードで刈ると、黒い毛並みの何か大きな動物の背中が見えた、あれが多分野獣かな? 正直今すぐ逃げ出したいくらいに死の匂いが濃くなってる、おにーさんズは全く気にしてないみたいだけど、私の視界にはちゃんと見えてるよ? 野獣が食べ散らかした、人間の手首。
「お? 居たじゃん、野獣ってもどうせ雑魚だろ? さっさと殺して帰ろうぜ? 酒飲みてーよ。 って事で死ねよ、雑魚。」
無造作に近づいたおにーさんC、D、Eがてんでばらばらに手にした武器で野獣に攻撃しようとしてる、私? 私は足音を立てないように後ろの木の影に隠れたよ。
だって、人間を食べた獣って、人間の美味しさを覚えるんだって、おじいちゃんが言ってたもの、だから、いつでも逃げられるように、音を立てないように、慎重に逃げる準備。
あ、やっぱりね、おにーさんズの攻撃は野獣に掠りもしないで、おにーさんEが首の骨を折られちゃったね、痛そう。
「おいおいおいおい!!! なんだよこれ、 雑魚のはずだろ!? 最初のクエストの雑魚が人間様の首をこんなに簡単にへし折るか?! 普通なら適当にやっても怪我もしねーで終わりだろ?!」
お兄さんリーダーが取り乱したように叫ぶ、やっぱりねぇ、この人たち、まだゲームだと思ったままだったんだ、馬鹿は死んでも治らない、って、本当に死んじゃったんだから、治るわけないよね。
「おい! お前ら、どうせゲームだ!後で生き返らせてやるから、一斉に攻撃仕掛けるぞ! 合図で囲めや!」
お兄さんB、強面のだけあってそれなりに修羅場慣れしてたんだね、立ち直りが早い、プラス5点、でも、これがリアルってわからないお馬鹿さんだからマイナス50点でゲームオーバーかな?
「おい! ツァーレとか言ったか?! お前も攻撃しろよ! おい! どこに行きやがった?! チクショウ! 逃げやがった!」
お兄さんリーダーは、、、もうダメだね、ほぼ錯乱して剣を振り回してるから野獣も距離をとってるけど、疲れて動きが鈍った瞬間を狙ってるんだろうね。
私がまぁまぁタメになる勉強をやめて逃げようとしていた時に、その人が来たんだ。