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序章 0話 説明会

サブタイトル通りの説明回です。

 2050年、初春の事、世界人類学進化推論委員会の発表した議事録にはこうある。


 「人類の肉体的進化は最早望めず、精神的進化により付随的に肉体的な進化を促す環境を構築することを提唱するものである。 現在に於いて、2020年代初期の疫病の蔓延や、戦争の勃発、それらに起因する食糧、エネルギーの各国における不足、そしてその克服、これらは社会学、経済学、自然学、医学、そして科学と化学、全ての観点から人類の環境適応ではなく、知的発展の故に克服された、とされるのが一般的な説である。 これらを鑑みるに、我々人類は最早進化の過渡期を過ぎ、行き止まりに直面している、と断言せざるを得ない状況にある。 この事態は近い未来、未曾有の何かが起こってしまった場合、人類がその環境、事態に適応ができないのではないか? との懸念を強く持たせるに足るものである。 しかし、現在に於いても全てが解明されない精神と言われるもの、この分野においては未だ衰えることなく、新たな精神性、新たな価値観、新たな探究心を生み出し続けている、当委員会はこの精神の進化に伴い、引きずられるかの如くに肉体的な変容をも齎すのではないか? と言う学説に基づき、この提案書を記すものである、これを精査し、賛同する決議がとられたならば、この地球の、全ての学問を結集し、精神の進化を促すプロジェクトを発足するべし、と提唱する、願わくば人類の更なる進化を。」


 2090年代初頭、試作型の精神投影型電脳世界、その世界にダイブするシステム、エニグマが開発されるも、被験者達、1500名の集団的精神不安定性の発見により試作のままで機材は休眠された。


 2098年、正式採用型精神世界ダイブマシン、一般的な宣伝としてはVRダイブとされるこのマシンは、系統樹から名付けられ、【セフィロト】と呼称される事となる。


 セフィロトシステムに於いて、試作されたエニグマとの明確な違いは、生命の維持装置を備え、生涯を装置に繋がれて終えることになるが、完全に構築されたVR世界、言い換えれば別世界とも言えるそれに、五感はおろか、第六感と言われる未知の精神的作用さえ投影することによって、現実との乖離をなくし、精神の崩壊を防ぐ、と言う点である。


 2098年に完成したそれは、それらを作り上げた学者、技術者、医学従事者から、これ以上のものは作り出すことはできない、と言わしめた。


 世界各国で被験者を募ると、一生帰ることのできない片道切符である、と周知したにもかかわらず、希望者が殺到、年末から始動する予定であった一斉ダイブを1年間の選考期間として設け、明くる2099年12月25日、ついに正式にセフィロトシステムが稼働した。


 それから15年の後、箱庭の猫オンラインと称される精神世界は多種多様な進化の可能性達の世界となっていた。


 総プレイヤー数50億人、それぞれのプレイヤーが全てまったく異なる職業クラス、スキル、多種多様な種族へと進化したその世界、アースガルドは、現実世界の学者達を大いに驚嘆させ、またプレイヤーとなることを望む第二次被験者の投入へと踏み切らせる人類にとっての憧れの世界となっていた。




 「それではご説明致します、これから皆様が向かわれる箱庭の猫【シュレーディンガー】オンラインの世界では、職業クラス、正確には称号システムと呼ばれる個別の精神進化の可能性が有ります、これらはダイブ後の皆様の生活態度、精神的変容、それに伴う肉体であるアバターの最適化により種族としての変容が発生し、その変化こそがこのプロジェクトの目的であり、皆様にとっては、あちらでの生き抜く術です。」


 「そんな難しい話はどうでも良いから、早くキャラメイクさせて欲しいんですけど? 一生をあっちで過ごすって言うなら、キャラメイクは重要だろ?」


 一刻も早くダイブしたいのであろう青年が声を上げると、それに続く様に一部の被験者達がさざめき始める。


 プロジェクトリーダーである籐咲と名乗る女性がパンと手を叩き、ざわめき始めた者達の注目が戻ると続く説明を始める。


 「キャラメイク、と言うものは厳密には存在しません、これは精神の進化の可能性、それによる肉体的進化の可能性を探るために現実の容姿を初期アバターとして使用するからです、しかし、初期アバターから各種族へと変容するに伴い、容姿にも変化が現れ、また、各自の行動、精神性に依存する生命活動支援特性、スキルも発現いたします、ですので、初期に設定できる項目では瞳と髪色の変更のみが可能となっております。」


 この説明に、一部不満の声が上がるが、それはこのプロジェクトを遊びの一種であると未だたかを括っていた者達のものであり、既に現世での生涯を捨てると言う選択に覚悟を持って臨む多くのものは納得のいった、と言った雰囲気である。


 「第五次被験者コード1082番〜1124番の方、ご納得頂けない様であればお帰りくださって結構です、あなた方以外にも移住を望む方は多く、はっきり言わせていただくならあなた方は替のきく存在ですので。」


 予想外の発言であったのか、不満の声を上げていた者達が鼻白む気配がハッキリと感じられた。


 「わかったよ! せっかく選ばれたテスターの権利をふいにするなんて勿体無いことはしたくない、その条件で構わねーよ、、、」


 先頭に立って不満を垂れ流していた粗野な印象の青年がそう言って押し黙ると、ざわめきは収まり、その後の説明は滞りなく行われた。





 説明のあった会場から出て、大型のエレベーターに第五次日本国被験者団、1500名、スタッフ20名が乗り込み、地下30階にあるセフィロトシステムの生命維持装置、コクーンへと案内されると、プレイヤー達からは驚嘆の声が上がる。

 名前の通り繭のような形状のそれは、肉体の維持に必要な栄養素、排泄物の処理、不測の事態における人命救急措置が可能なある意味で終の住処となるものである。


 「それでは、最終確認に替えまして、こちらのコンソールに、あちらの世界での名前となる、プレイヤー名をご入力ください、匿名での移住をご希望される方もおりますので、お好きな名前を使っていただいて構いませんが、ダイブ後は現実での実名を入力した方以外は実名を名乗ることができません、と言うよりも、入力された名前を実名であると認識するように設定されておりますので、慎重にお決めください。」


 この説明に長考するもの、あらかじめ名前が決まっていたもの、実名での移住を選択する者、各々がさまざまに反応を見せたが、辞退する者はなく、無事第五次被験者団はアースガルドへと旅立った。

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