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「昔は魔女との関係は良好だったのよ。
今だと教会の騎士たちが『魔女狩り』なんかして大変な目にあってるのよ。そのために『魔女協会』なんて立派なものが結成されて」
「ハァハァ、入ってる?」
「そうよ〜。
魔女は強制的に協会に所属させられるから。いつかナインも行かないとね」
二人は長い長い螺旋状の階段を上っている。
レイアは慣れたもので疲れた様子はない。
しかしナインは体力も脚の筋肉も限界がきていた。
「もう少しよ。頑張って」
しばらくして扉が現れた。
ドアノブを掴み、手の甲に魔法陣が浮かぶ。そしてレイアは扉を開けた。
その瞬間、ナインは熱風を感じる。
レイアはナインの手を引っ張り、テントを出る。
そのまま高い建物が囲う、路地裏を進んだ。
「うわぁぁぁ」
ナインはあまりの情報量に、驚きの声を漏らす。
「フフフ。さあ、行きましょう?」
そして二人は街へと繰り出した。
「あれは?」
ナインは指を指す。
「噴水よ。
水を噴出してるの」
人々が行き交う大広間。その中心にある噴水。丸型で三層の段がある。
「あれは?」
「大道芸ね。
路上で人を楽しませるためにパフォーマンスをするの。剣を飲み込んだり、火を吹いたり、たくさんの玉を投げたりとかね」
箱の上に立った赤と黄色の奇抜なファッション。通りかかる人々を前に様々なパフォーマンスをしている。
「あれは?」
「感謝祭の準備ね。
台車を引っ張って果物や野菜を配るのよ。今日は祭りの前日だから、その準備をしてるわ」
ナインは街の様々なものに興味を示し、楽しんでいる。ただあまりの情報量に驚いて、ハイになっているようだ。
レイアは、それを理解し、ある場所へと向かった。
「ナイン。屋台で食事でもしましょう」
コクコク。
するとレイアは牛串と書かれた屋台へと向かう。
ナインは様々な屋台から香る匂いに、鼻を奪われている。
「おじさん。牛串一本」
「あいよ! 嬢ちゃん、祭りの準備か?」
屋台のおじさんは、きさくに話しかけてきた。
「いえ、実はこの子と一緒に祭りを見に来たの」
「弟さんかい? だいぶ見た目が派手だが」
ナインの紫色で長い前髪ぱっつんを指しているのだろう。
この地方では見ない見た目と、姉弟にしては似ていない顔つき。
「ええ、腹違いの弟で。この間、初めて会ったものだから」
レイアは声音を暗く、憂い顔の演技をする。
一方、ナインは屋台の牛串に、目を光らせているが。
するとおじさんは、腕で顔を隠す。
「うう! そうか、そうか! 悲しかったろうな。
よし! 大サービスだ。三本焼いてやる。持ってけ、持ってけ!」
おじさんは涙を浮かべ、三本の牛串を渡してきた。
レイアは「ありがとう」と、一本分の牛串代を払い、受け取った。
そして感謝祭観賞用に置かれたベンチへと腰掛ける。
「それじゃあ、食べましょうか」
レイアはナインにニ本の牛串を渡す。
子犬が餌を貰うように、目を輝かせる。そして食らいつこうとする。
「ナイン、いただきます」
その言葉に「ハッ」とし、合掌する。
「いただきます」
レイアが頷くのを確認して、ナインは思いっきり食らいついた。
「美味い、美味い」と呟きながら、目には涙を浮かべている。
レイアは、そんな様子を見て笑いながら、牛串を口にした。
「あ、あれ」
するとナインが、串を持った手で、指を指す。
そこには「卵カップケーキ」と書かれた看板。
「そうよ。あれが言ってた、卵カップケーー。早っ!」
ナインは一瞬で卵カップケーキの屋台へと走っていた。
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「ふぅー。やっと終わったぜ。協会め、面倒くさいことを押しつけやがって」
男のように大雑把な言葉遣い。
彼女を一言で表すなら『狩人』がふさわしい。
右手には銃口がラッパのようなラッパ銃。背中には銃身が長い、マスケット銃。
格好は茶色の革鎧をして装備。
長い金髪を一つに束ね、顔には頬から首にかけての、大きな傷。そして大きなゴーグルをして、焼けた褐色肌。
彼女は魔女の一人。『銃の魔女』と呼ばれている。
そんな『銃の魔女』は、とある山に座っている。
その山は大量の死骸からなる。死骸は白い毛の大猿だ。全てが自然や人を害する害獣。
凄まじい力と念力のような特殊な能力を操る猿。それの駆除は魔女たちに与えられる任務の一つ。
「ギオン。下りろ、私の仕事ができん」
「おらよっと!」
キツめの言葉遣いと声音で声がかかる。
『銃の魔女』ことギオンは山から飛び降り、地面へと着地する。
「そうは思わねぇか? アリス」
アリスと呼ばれたのは、今回の任務の相棒。
『科学の魔女』と呼ばれている。
「チッ。アリスと呼ぶなと、何度言えば分かる。私のことはノクティクスと呼べ」
ノクティクスは銀色の鱗で覆われたローブを来ている。一つ一つの鱗が太陽の光で輝いている。
また彼女の髪も銀髪であり、これもまた絹のように光輝いている。顔は小顔で色白、パーツも小さく、幼さはあるが美人である。
「んああ〜? だって名前長えじゃん。
ノクティクスよりアリスのほうが可愛らしいだろ? な、アリスちゃん」
ギオンはノクティクスの頭を撫でる。
「撫でるな!」
手を払い、作業に集中している。
ノクティクスは死骸の山の下で、ある準備をしている。
死骸の周り、円上に液体を撒いている。一周すると「パチンッ」と指を鳴らし、火を液体につける。
ボッ!
すると液体が燃え上がり、円内の死骸が燃え上がる。
「よし。任務完了だ」
「よーし。良くやったぞアリスちゃん」
「だから! 頭を撫でるな!」
二人は任務を終え、館へと帰っていく。
館は更に、騒がしくなるだろう。




