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「フン、フン、フ〜ン」


 レイアは杖に乗りながら、鼻歌をしていた。

 とある街へと向かって降りている。

 ちなみに今のレイアは人には見えていない。魔法の恩恵だ。


「やっと帰れるわ。あの子、苦手なのよね。

 まあ弟子時代から彼女らしいといえば、そうなんだけど」


 そして姿を隠したまま、路地裏へと降り立つ。

 周囲を確認し、辺りに人がいないことを確認

した。そして杖を一振りして、魔法を解除する。


 レイアは何事も無かったかのように路地裏を進む。

 そして一軒の「占い」と書かれたテントに入る。


「お婆ちゃん。鍵使うよ」

「はいはい」


 テントの中には、しわくちゃの顔をした老婆が一人。椅子に座って編み物をしている。

 机には水晶や貝といった占い道具は無く、編み物をする一式があるだけだ。

 まるで占いをしているとは思えない。


 しかし巷では当たる占いということで、そこそこ繁盛している。


 レイアは老婆の後ろの扉へと向かう。

 ドアノブを掴むと、手の甲に魔法陣が浮かぶ。

 それを確認し、レイアは扉を開いた。



「ゴオオオッッッ!」


 黒き塊は館を食らうように、その場で動き回っている。

 ツルギ、アオノ、アカノの三人は、そんな様子を見ていることしかできなかった。


「これは……」


 すると三人の後ろにレイアが立っていた。


「レイア!」


 ツルギが驚いて声を出す。

 アオノとアカノも、揃えて驚いている。

 そんな中、レイアは目を細め、黒い塊を見ている。


「レイアこれはーー」


 ツルギが状況を説明しようとする。

 しかしレイアは素通りで塊へと歩いていく。


「レ、レイア?」


 塊へと近寄る。

 その瞬間、塊から黒い触手が襲った。


 ヒュン。


 レイアの顔の横をかすめる。頬に傷ができ、血が流れる。立ち止まって、指で傷に触れる。


「レイア!」


 ツルギは助けようと走ろうとする。

 しかし手で抑える。

 黒い塊は、まるで人を拒絶するように攻撃をする。


 コン!


 レイアは杖を地面に叩きつけた。地面に杖を中心に魔法陣が現れた。

 そして歩み出す。


 ヒュン、ヒュン、ヒュン!


 黒い塊からは三本の触手が襲ってきた。三本は先程のように脅しではなく、人など簡単に殺せる勢いだ。


 ガン!


 だが目の前で、壁にぶつかる。


 レイアは避けるように進んでいく。


 黒い塊は動揺したように体を震わす。そして触手で攻撃をするが、全てが防がれる。

 黒い塊とレイアの距離はゼロとなる。

 手を伸ばし、飲み込まれていく。


「レイア!」


 ツルギが声をかけ、レイアは振り返る。


「必ず連れて帰って来い!」


 そんな激励に、頷いて答えた。



 まるで夜中の暴風雨の中を進むようだった。

 中は足先も見えないほど暗く、黒い触手が四方八方から襲ってくる。

 明かりを灯し、探していく。


「すんっ」


 すると耳に鼻をすする音が聞こえた。

 その音の方向へと進んでいく。

 方向へと進むと、攻撃の回数が減っていく。

 そして原因がレイアの目にもハッキリとする。


「すんっ。んぐ」


 ナインが、何かから隠れるように、三角座りをしている

 レイアは確認すると、手で左目を隠す。その顔は何時もの優しさは無く、無機質な冷たさを感じさせる。


「やはりか」


 そして手を戻し、両目で見る。顔は優しくも、憐れみの目を向けた。

 すると鼻をすすっているナインの、隣に腰を下ろす。


「私が魔女の弟子時代の話なのだけれど」


 急に語りだす。


「その人は厳しい人でね。できの悪い弟子には手を上げるような人だったの。

 今思えば、生意気な子どもの一人だったから、当然と思える。弟子時代は大嫌いな魔法の先生。

 だけど、ある時だけは親よりも好きな先生だったわ」

「…………」


 レイアはチラッと、ナインを見る。

 鼻をすするのを止めて、話を聞いていると理解した。


「先生と私含めて三人の弟子たちとともに、街に買い物に行っていたの。

 私は貧困層の生まれだったから、街での買い物なんてしたことも無かったわ。見るだけで想像しかしてこなかった」


 レイアは思い出すように、上を見上げる。


「だからかな。

 先生は大盤振る舞いで買ってくれた。私が目を向けて、興味を持ったものは全部買う。それはもう、両手じゃあ持ちきれないほど、大量に買うの。

 最後には持ちきれない荷物を、どうにかして運んでいく。「馬鹿だなー」なんて思ったけどいい思い出だったわ」


 そしてナインへと顔を向ける。


「何か欲しいものはない?

 私はこれでも、協会から仕事を受けてるから、お金だけはあるの。先生ほどでは無いけれど、欲しい物があったら買ってあげれるわよ? どう?」

「…………」

「そうねー。

 屋台とかだと牛串とか、……お肉を一口大に切って焼いたものね。

 とか卵カップケーキなんかも売られてるわよ。卵と色々混ぜて蒸して作るの。これが美味しくてね。

 甘すぎず、卵の味が活かされて、満足感がある悪魔的なものなの」

「……それ」


 ナインが一言呟く。


「ん?」

「それ食べたい」

「そっか、ナインは卵、大好きだものね」


 そう言うとレイアは立ち上がり、ナインへと近寄る。


「じゃあ街に行きましょう? 見たことないものや、太陽より美しいもの、卵よりも美味しいものがあるかもしれないわよ?」


 そしてナインへと手を差し伸べる。

 ナインは目を向けて手を見る。

 「どう?」と首を傾げている。


「卵が一番美味しい」


 そう言うと、手を掴んで立ち上がった。

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