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4

ーーー4

 ジー。

 トントン。

 包丁でまな板を叩く。


 ジー。

 ジャー。

 フライパンに食材を入れ焼いていく。


 ジー。

 ガタン、ガタン。

 フライパンを振って食材を均等に焼く。


 ジー。

 料理をするツルギ。

 それを見るナイン。


 ナインは調理場から、頭だけ出して見ている。よっぽど料理が気になるようだ。

 ツルギは、そんなナインの様子を、見て口角を上げる。


 棚から酒を取り出すと、フライパンに注ぐ。そしてフライパンを傾ける。


 ボッ!


 すると酒が着火。フライパンが火を上げたように見えた。


「うわっ」


 ナインは、そんな芸に驚き、尻もちをつく。

 ツルギは慌てて、ナインの元に行く。


「大丈夫か?」


 コクコク。


 ナインは立ち上がりながら頷く。


「料理に興味があるか?」

「……美味しいから」

「フッ、そうか。なら近くで見たらいい」


 そう言われ、ナインはツルギの横で料理を見始めた。


 朝食、昼食、夕食。


 三食ともツルギが料理している。

 ナインは上手い料理に興味を持っていた。そもそも料理ということ自体、知らなかったのだ。

 そしてツルギの料理の様子を、毎回見学していた。


「何かする」


 ツルギはナインから、そんなことを言われ驚いていた。


「手伝ってくれるのか?」


 コクコク。


 ナインは目を見て頷く。


「フッ、そうか。良い奴だな」


 ツルギはガシガシと、ナインの頭を撫でる。


「そうだな。野菜……。この野菜と言うやつを、この包丁と言うやつで切ってくれ」


 ツルギは言い方を変えて、名前を教え、指を指し指示を出す。


「分かった」


 ザクッ! ザクッ! ザクッ!


 すると一瞬、目を離した瞬間。

 勢いよく、野菜を切る音がした。


 ツルギはそれに驚き、ナインを見る。

 ナインは包丁、片手に野菜を並べ、まな板を割るかのような勢いで切っている。

 ツルギから見られたことに気づき、「何か?」と疑問符を浮かべた。


「…………」

「…………?」

「フッ。悪くない。見どころがあるやつだ」


 ツルギはそう言って笑った。

 ナインは一瞬「怒られるのではないか?」と体を震わせたが、そんなことはないようだ。ツルギは笑顔で見てくる。



「包丁で食材を切るとき。猫の手でするといい。こんなふうに」


 ツルギは左手で猫の手を作る。

 ナインも見比べて真似る。


「そうだ。そうしたら左手で野菜を固定する。そして野菜を優しく切る。こんなふうに」


 ツルギはナインの後ろに周る。そして手を持たれ、一緒に切る。

 ツルギの大きな手が、ナインの小さな手を持つ。


 トン。トン。トン。


 ゆっくりと丁寧に共同作業をする。


「ほら、野菜が綺麗に切れるだろ? しかも安全だ。ゆっくりで良い。やってみなさい」


 ツルギはそう言うと離れ、料理を続ける。


 コクコク。


 ナインは頷くと、言われた通り、野菜を切り進める。

 言われた通り、猫の手で、野菜を固定し、優しく、ゆっくりとを意識して行った。



「めーし」「めーし」「めーし」「めーし」


 アカノとアオノが机を叩き、順番こに言っている。


「もう少しだ。待て」

「「はーい」」


 ツルギの声に、声を揃えて返事をする。


「ナイン。これを運んでくれ」


 コクコク。


 ナインは準備ができた料理から運んでいく。

 今日はレイアはいない。四人分の料理だ。


「よし。準備完了か。ナイン、後は俺が運ぶ」


 ツルギはメインディッシュ、大きな皿に載せられた分厚いローストビーフを運ぶ。


「ん?」


 ツルギは疑問符を浮かべた。

 机にはレイア以外の四人分の料理が並べられている。


 何時もであれば、長方形の机。長い縦にアオノとアカノが横に並ぶ。その向かいにレイアとナイン。短い横にツルギは一人が何時もだ。

 しかし今回はナインの横にツルギの料理が置かれている。


(いや、レイアがいないのだから普通か)


 一瞬、止まったツルギ。

 それを見たナインは疑問符を浮かべ見てくる。

 その目は「横に座らないの?」と言っているようだ。


(うん。これはレイアに謝らないと、いかんな)


 気に入られていると理解し、思ったツルギであった。



 ナインは少し、ドキドキしながら料理を食べていた。

 それは自身が切った野菜が入っている料理だからだ。


 ローストビーフやシチューの野菜は、全てナインが切ったものだ。目の前で食べるアオノとアカノの反応を伺っていた。

 だがアカノとアオノは、特に何も言わず、食べ進める。


 ナインは反応がない二人にオドオドとしている。

 ツルギはそんなナインを見て笑う。


「実は、この野菜たちはナインが切ったんだ」

「「……なに!?」」


 二人は口を揃え、驚きの声を漏らす。そして顔を見合わせる。同時にナインの顔を見た。


「「…………」」

「…………?」


 アオノとアカノは睨む。

 ナインは、そんな二人の睨みに、おろおろ目になっている。


「何か言わんのか」


 沈黙が続き、ツルギがツッコむ。


「アオノより」「アカノより」「上手」

「…………?」


 そんな睨み顔と褒め言葉の相違に、疑問符を浮かべた。


「フッ、下手だからな」


 ツルギは笑いながら言う。

 するとアオノとアカノはキッとツルギを睨む。


「「下手じゃない」」「火と」「包丁が」「嫌いなだけ」「勘違いするな」

「プッ」


 そんな言い訳じみた反論。

 ナインは吹き出す。

 ビシッ。

 二人は指差す


「「そこ! 笑うな」」



「レイアがいなくて寂しくないか」

「大丈夫」


 ツルギとナインの二人は食事後、食器を洗っていた。

 返事が即答なことに、乾いた笑いをする。


(まあ依存するよりマシか)


「魔法協会?」

「そうだな。お偉いさんに呼ばれてな」

「魔法協会とは?」

「……そ、う、だ、なー」


 ツルギは分かりやすい説明を、探すため考える。


「魔女と一般人という二種類の人種がいる。決定的な違いは「魔法が使える」これだ」


 コクコク。


「今の時代はそんな一般人が魔女を……嫌ってな。魔女を殺してしまおうと考えた。これを『魔女狩り』と呼んでいる」

「ほう?」


 ナインは魔女狩りと協会との関係性が、分からず疑問符を浮かべている。


「そんな魔女たちは『魔女狩り』を逃れるために協力したんだ。魔女たちが作ったのが『魔法協会』。

 まあ実際は魔女を管理したい、という気持ちから発足されたとは思うがな」

「ふーん。何で呼ばれたの?」


 先程「お偉いさんに呼ばれた」と言っている。

 ナインの言う「何で呼ばれたの?」は呼ばれた理由を聞いたのだと理解した。


「レイアは旅が好きでな。いろんな村や街、都市、国を飛び回ってる。

 まあ報告しろって言われたんだろうさ」

「いつ帰ってくるの?」

「そうだな。遠くはないから三日後かな」

「なるほど。あーー」


 ナインはツルギの話を聞くために、手元が疎かになっていた。スルリと、手から皿が滑り落ちた。

 慌てて割れた皿を、慌ててしゃがみ込み、触れる。


「痛っ」


 当然の如く、割れた皿で指が切れた。


「ご、ごめんなさい!」


 ナインは何か恐れるように、頭を抱え謝る。


「大丈夫か? 待ってろ、すぐ救急箱を持ってくる」


 ツルギは驚いたが、すぐ動き出した。

 ナインは怯えたように体を震わせた。



 一分もせず、救急箱を持って戻ってきた。


「ナイン。まず手、を…………んあ?」


 ナインは壁に体を寄せ、震えている。

 しかし割れたはずの皿は、『元に戻っている』。まるで割れていなかったかのようだ。

 ツルギは目を見開き、皿を持つ。


 その皿は割れ目がない。

 しかしツルギは気づいた。魔法の痕跡があることに。

 慌てて三角座りをするナインへと目を移す。


「ナイン。手は大丈夫か?」


 そして優しく問いかける。

 だが反応が無い。

 ツルギは手で優しく、紫色のサラサラな髪、頭を撫でる。


「大丈夫だ。俺は怒っていない。皿も無事だったしな。

 ただナイン。手を見せてもらっても良いかい? もし怪我だったら心配だ」


 すると震える手を伸ばして、見せてきた。


(怪我が無いだと?)


 傷口どころか傷跡すらない。まるで怪我をしていなかったかのようだ。


「ありがとう。怪我が無くて良かった。

 今日は疲れただろう。よいしょ!」


 ツルギは、三角座りのナインを、お姫様抱っこをする。

 驚いたようで、体を震わせる。

 そのままツルギは、ナインを部屋まで運んだ。


「今日はお休み。また明日」



「「魔法?」」「でもこんなの」「見たことない」「古代の?」「新種の?」

「アオノとアカノもか」


 ツルギは左頭部の焼け傷に触れ、思考する。


「レイアは?」「何か言ってなかった?」「アオノは」「アカノは」「「聞いてない」」

「…………俺もだ」


 三人は割れていた皿を前に、思考を巡らせている。


「レイアは」「秘密主義だから」

「確かに。しかしな……」


 三人は魔女ではあるが、魔法の専門家ではない。

 専門家であれば、レイアか、この館に住む、もう二人の片割れだ。


「「分かんない」」

「そうだな。レイアすら、分かっていないのかもしれん。帰ってきてから聞こう」

「「あいあいさー」」

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