9:徳の部屋 中級
美沙子が待機の間に来てから、数週間がたった。
その間、都も引きこもり状態から抜け出し、弥里や白河とも「都に天国に行くように促さない」と約束したため、二人や閻魔様とも打ち解けている様子で一安心していた。
しかし、天国住人の閻魔様や白河はもちろん、なぜか徳をたくさん持っている弥里や都と違い、美沙子は日々の生活も含め徳の部屋に毎日通うようになっていた。
都からは「私が養ってあげるよ?」とまで言われたが、さすがにそれは…と思いながら丁重に断った。
(なぜか断った後残念そうな顔をされた。)
そんなわけで美沙子は、天国に行くのとともに、待機の間で暮らすため、初級の部屋で"1日2善"を目標に徳を積んでいた。
「…」
その日も順調に初級の徳を2つ積み、まだいつもの時間よりも早い。
そして美沙子の視線の先には目の前の初級の間ではなく、隣の中級の徳の部屋に向いていた。
「…よし」
そして、意を決して、中級の徳の部屋へと美沙子は入っていった。
「えぇーっと…」
美沙子が気づくと、どこかの駅の前だった。
ここに誰か困っている人がいるはずである。
「あれぇ…えぇーっと…」
「…あ」
「あ…よくお会いしますね」
そこにいたのは初級で最初に財布を探した女性だった。
「どうしました?」
「○○駅に行きたいのだけれど…で、旦那からスイカっての借りたんだけど、どうすればいいのかわからなくて…」
聞いてみると、普段は電車にほとんど乗らないらしく、Suicaの使い方がわからなかったようだ。
「えっと…チャージはしてあります?」
「チャージ?」
「…わかりました、そこからですね…貸してもらっていいですか?」
「え、あ、ハイ…」
そう言って彼女は美沙子にSuicaを渡す。
一応スイカは使ったことがある美沙子は、どれだけチャージされているかを調べる。
とりあえず、○○駅までの往復程度の金額は入っていそうだ。
「よし。
とりあえず、チャージは心配ないようなので、改札に行きましょうか」
「え、あ…ハイ」
そして改札前に来ると、タッチする部分にスイカをかざせば乗れることを教える。
「…ありがとう…あなたには世話になりっぱなしね…」
「いえいえ、好きでやってることですから」
「そう…じゃぁありがとうね。
いつか、お礼するわ」
「ええ、またお会いしましょう」
そう言って彼女が乗る電車の階段に消えると、美沙子も部屋の前に戻ってきた。
こうして美沙子は初の中級の徳獲得ができた。
この日以降、美沙子は中級にも挑戦するようになった。
~To Be CONTINUED~
短い話が続ていますが、ここから章替わりなので、そのプロローグ的な話になります。
ここから日常回がしばらく続きます。




