メルヘンストーリー
「皆さん今日からこのクラスに新しいメンバーが増えます。なんと、ドイツから来たそうです。さぁ、入って来て」
担任の言葉で教室から「うわぁ」っと声が上がる。
僕は教室のドアを開け教壇の前に立つ。
その瞬間教室中の声が静まる。
「僕の名前は田中太郎です。今日からクラスの一員としてお願いします。」
僕は深々と頭を下げる。
クラスメート達がざわざわとしだす。
きっと、クラス中がこう思ったに違いない。
(え~男かよ。えっ、しかも田中太郎って、冗談にしてもおもんな。帰国子女ってのもぜってぇーうそじゃん)
その、僕は黒髪黒目の純日本人の見た目をしている。
僕の名前は田中太郎。
僕は5歳にして、ドイツで両親に捨てられた。
家族でドイツに旅行しに行っていたのだが、僕がホテルで寝ている間に両親は孤児院の前に僕を捨てて行った。
今となっては分かるが、旅行で泊まったホテルも以上に高かったし、両親もあまり楽しそうな表情をしていなかった。
それに両親は僕を捨て日、自殺した。
しかし僕は、16歳になり日本に戻ってきた。
理由はただ一つ、日本が好きだから。
うふ、うふふふ、うふふふふふふ・・・
「あのぉ~、田中さん、ここの物件でよろしいでしょうか」
僕がニヤニヤしているのを気味悪そうに見ながら、不動産屋のお兄さんがこちらを見ている。
かなりボロボロだが、僕は全くかまわない。
「お兄ちゃん本当にここにするの、すごくボロボロよ。まだ、院の方がいい環境だったよ」
「我慢してくれメアリー。お金もあまりないんだ」
「ごめんね。私ワガママ言っちゃった」
「僕こそごめんな。お金がたまれば、きっともう少しいい家に住めるからな」
「うん」
「ここの部屋にします」
「分かりました。一度店に戻って契約お願いしますね」
こうして僕は日本での八畳一間トイレ風呂別台所ありの生活が始まった。
あぁ、そうそう、メアリーってのは僕の義妹だ。
本名はスミス・メアリー。
僕が孤児院にいる時に色々あり、物凄く懐かれた女の子だ。
そして、僕が日本に行くことになった時についてきたのだ。
年齢は13歳で日本の中学校に通う事になっている。
金髪碧眼で美少女と言っても過言ではない。
けれど、全てをチャラにするほどの欠点がある。
それは、首を突っ込まなくてもいいものにすぐに首を突っ込むことだ。
まぁ、僕は一切関与するつもりはないので別にいいけど。
でも、何も起こらないのが一番だけどね。
「メアリー、明日の準備は出来てるか」
「うん、もちろんだよ。ほら見て」
メアリーはセーラ服を着て僕の前をヒラヒラと踊る。
なかなか似合っている。
「どう、似合っている」
「うん、似合っているよ。明日学校で変な奴に関わるなよ」
「分かってる~」
そう言って、メアリーはパジャマに着替えだした。
ほんとに分かってるのかな~。
時は戻り、僕が自己紹介を終えて一番後ろの席に座るように言われる。
席に座ると前の席の男が振り向かずイスを傾けて、小声で話しかけてきた。
「よぉ、お前名前田中太郎って言うんだな。超一般人みたいな名前だな。帰国子女ってマジなの。あぁ、俺は勘解由小路丞、よろしく」
「うん、よろしく。僕はドイツに十一年過ごしていたんだ」
「へ~そうなんだ。親の仕事の都合とか?」
「まぁ、そんなところかな」
「兄弟とかいる。俺一人っ子」
「妹みたいのがいるよ」
「いいな~、家族でワイワイするの楽しいだろ」
「・・・・・・まぁな」
「俺家族一人もいなぇーだよなぁ~」
「えっ」
僕はかなり大きな声で驚いてしまった。
教室中が僕の方を見る。
「あははは、なんでもないです。続けて下さい」
担任はホームルームを続けた。
「本当に言ってるの」
「あぁ、本当だぜ。だから、俺教室で浮いてるんだ」
僕はそっと教室を見渡す。
僕を奇妙な目で見ている生徒もいれば、勘解由小路を怖がってチラチラと見ている生徒もいる。
「本当に浮いてるらしいね」
「そうだろ、皆俺の事を怖がっているみたいなんだ。俺が家族をどうこうしたわけでもないのにな。あははは」
勘解由小路は乾いた笑いをして、イスを元に戻した。
一日の授業を終えて僕は勘解由小路と帰ることになった
「今日の学校どうだった」
「割と楽しかったよ」
「なら、よかったぜ。でもどうして、俺と帰ることにしたんだ」
「ドイツから来た男が黒髪黒目だよ。さらに、最初にしゃべって仲良くなったと思われる人が勘解由小路じゃな~」
「それも、そうか。それに、お前何か隠している雰囲気あるしな」
勘解由小路の言葉に僕は少し体がビクッとする。
こいつ勘がいいのか。
てか「かでのこうじ」ってどんな漢字書くんだよ。
こっそりノートでも見るか。
「別に僕は何も隠してなんかないよ」
「そうか、そうなら別にいいけど。それと今日家に行っていいか?」
僕は自分の耳を疑った。
だって、今日初めて会った奴の家に来るなんてこいつ頭おかしいんじゃないのか。
「いや、それはちょっと・・・」
「どうしても、太郎の妹を見たい」
「どうして僕の妹に会いの」
「田中太郎の妹って田中花子だろ。太郎がモブ顔ってことは花子もモブ顔だろ。女のモブ顔ってどんなものか現実で見て見たくて」
「花子じゃないし、モブ顔でもないよ」
「尚更、見て見たくなったぜ」
はぁ~、何だよこいつ。
クラスで浮く理由が分かった気がする。
ただただ、ヤバいだから怖がられてるんだろうな。
きっと一学期に何かやらかしたんだろうな。
仕方ないから、僕の事を話すか。
こんな奴がメアリーに近づくのは嫌だからな。
「はぁ~、仕方ないから話よ」
「何を?」
「僕は今、両親がいないんだ。だから、家に来ないで欲しい。それに、かなりボロボロのアパートに住んでいるんだ」
「両親とは別に住んでいるって事か。別にそれくらいならいいけど。それに、男だけが住んでる部屋に行くくらいいいだろ」
「そう言う事じゃないんだ。僕の両親は死んだんだ・・・」
「やぱりな、太郎が俺の家族がいない事を聞いた時の反応を見て、なんとなくそう思ったよ」
「これでいいか、家に来ないでくれ」
「まだ、何か隠してるだろ。だって今妹の話、しなかったしな」
こいつ、よく人の話聞いてるな。
こうなったら、もうどうしようにもないな。
僕は、いきなり走り出した。
「おい、いきなり走るなよ。危ないぞ」
僕は少し遅れて走り出した勘解由小路の方を一瞬チラリと見たが、その後はがむしゃらに走り続ける。
三度曲がり角を曲がる頃には勘解由小路はついて来ていなかった。
僕は気が付くと河川敷まで走って来ていた。
だけど、そこにはほとんど人がいない。
「夕方だけど子供もいないなんて不思議だな。まるでこのあたりがよくないところみたいだ」
僕が河川敷に架かっている橋を渡り始めると女性の声が聞こえてくる。
僕はすぐに橋を渡るのを止めて橋の下に降りる。
すると、教室で見た女の子がいた。
その女の子は二人の男と一人の女に恐喝されていた。
やべ、変なもの見てしまった。
さっさとここから離れよ。
「おい、お前誰や。」
片方の男が僕に怒鳴り声を浴びせてきた。
「すいません。僕は関係ないので無視しておいてください」
「誰かしらんけどな。この現場見られたからには、口封じしなあかんねん」
「いや、だからほんと僕とは関係なので。それに、絶対にこの事言わないので」
「だからってやな。いいわけないやろ」
「いや、いやいやいや」
「あっ、田中太郎君」
おい、言うなよ。
知人ってバレちゃったじゃん。
マジでふざけんなよ。
いや、まだもしかしたら誤魔化せるかも。
「ちょっと待ってくださいよ。世の中に田中太郎って名前の人存在すると思いますか?」
「確かに言われればそうだな」
「いいや、こいつは田中太郎よ。私こいつらの学校に友達いるのよ」
二人の男の後ろでニヤニヤと笑っていた女がそんな発言をした。
マジでふざけるなよ。
はぁ~、僕もう疲れてるんだけどな~。
「君走って」
「おい、待て」
僕は恐喝されていた女の子の腕をかなり強く握りしめ走る。
「田中君、痛い、痛いってば」
「とにかく捕まらないように走り続けないと」
「分かってるけど・・・」
どうして、いきなりこんなにも走らなくちゃいけないんだよ。
てか、この女の子好みじゃないんだけどなぁ~。
今時牛乳瓶みたいに分厚いレンズのメガネかけてる子なんて存在しないよ。
それに、あんまりこういう事言いたくないけど、デブだし。
こんなおいしい展開になるなら美少女がよかったよ。
とほほ。
なんだか、僕まで昔のアニメみたいな反応しちゃったじゃないか。
「はぁはぁ・・・もう無理」
僕は女の子の腕から手を離し、その場に倒れこむ。
ここはどこだか分からないが公園である事は分かる。
「き、君。大丈夫?」
「・・・う、うん。はぁはぁ、田中君って、はぁはぁ、足、速いのね」
「そ、そうかな。はぁはぁ」
僕も目の前の女の子も息が整わず、会話も上手く出来ない。
「そう言えば、君の名前何だっけ。僕まだ、クラスメートの名前ほとんど覚えてなくて」
「はぁはぁ、私は鶴野美織。助けてくれてありがとう」
「状況が状況だったから仕方がないよ。さすがに、あの状況で無視することが出来ないし」
「あっありがとう」
「それにしても、どうしてあんな人達に絡まれてたの」
「あの女の子は中学の時のクラスメイトなの」
鶴野はメガネをクイッとあげ、ぼさぼさになっている髪の毛を整えだす。
「まさか、いじめられてたの」
「うん、でも男の子はいなかった。あの子が私の事をパシリに使ってただけ」
「パシリに使ってただけって・・・」
「本当にそれだけなら良かったの・・・でも、最近男の子を連れてきて私の事を襲おうとさせてくるの」
「まさか・・・」
「田中君が思ってることは起こってないよ。きっとこれを見れば理由は分かると思う」
今はもう七月でかなり温かい。
いや、暑いと言ってもいい、だが鶴野は冬服を着ている。
僕が鶴野が何をするのか見ていると上着を脱ぎだす。
中に着ている長袖のシャツはかなり汗で濡れていて下着の色が微かに透けている。
僕は咄嗟に目をそらす。
「こっちを見て」
鶴野がそう言うので、僕は鶴野の方を向く。
僕は一切鶴野の透けている下着が目に入ってこない。
なぜなら、鶴野の両腕には無数のリストカットの痕が残っている。
もちろん、痕だけではなく、生々しい生傷もある。
「これが多分理由だと思う」
僕は何も言えずに一瞬固まってしまった。
僕が思うにリスカの痕が原因ではないと思う。
なぜなら、僕は見てしまったのだ。
上着の内側にはきっとリスカに使った、であろう刃物が何本も収納していたからだろう。
刃物が血まみれで収納している女を襲った日にはどんな逆襲されるか分かったものではない。
「ああ、きっとそうだね」
僕が言葉を返すと、鶴野は上着を羽織りだす。
「今日はありがとう。こういう事を言うのもなんだけど、もう私に関わらない方がいいよ」
「あ、うん」
未だに思考が止まってしまっている僕は生返事してしまった。
返事をした瞬間に我に戻り、鶴野に声をかけようとしたがそこには彼女の姿はなかった。
「えっ、いなくなるの、早すぎだろ」
倒れたままの僕は立ち上がり、服についている土を払っているとそこにメアリーがやって来た。
「お兄ちゃんどうして、こんなところにいるの?」
「メアリーこそ、どうしてここにいるんだよ」
「いや~、あの~、友達が出来たから家に行っていたの」
「なるほどな、気をつけろよ」
「うん!」
僕はメアリーと一緒に夕食の食材を買った後に家に帰った。
次の日僕が学校に行くと隣のクラスの女子が僕に話しかけていた。
「あの、君が田中太郎君?」
「うん、そうだけど。君、僕のクラスの居たっけ?ところで何か用?」
「いや、隣のクラス。昨日、鶴野助けたってホント」
「結果的に助けたかもしれない」
「じゃあ、今日から気を付けた方がいいよ」
「ああ、昨日鶴野さんの事をいじめてた人の事でしょ。合わないように気を付けるよ」
「梓もそうだけど」
『キーンコーンカーンコーンーキーンコーンカーンコーン』
チャイムが鳴り、先生たちがやって来た。
「早く教室に入って下さい」
「とにかく気を付けてね」
「あぁ、うん」
女の子はすぐに隣の教室に入って行った。
僕も何か疑問に思いながら自分教室に入る。
今日も特に何も起こらず、勘解由小路以外話かけて来ず、一日が終わった。
「太郎友達作るの、下手だろ」
「いや、絶対勘解由小路のせいだよ」
「丞でいいぜ。友達だろ」
勘解由小路が肩を組んでくる。
「こういう行動で友達が出来なくなるんだよ」
「まぁ、いいじゃねぇか」
「よくねぇよ」
勘解由小路は僕の肩から腕を下ろす。
「まぁでも、昨日よりは太郎にいい意味で興味を持たれてたじゃん」
「そんなことあったか?」
「太郎鈍感だなぁ~」
「僕はかなり敏感な方だけど」
「なら、そう思ってるといいぜ。俺は今日予定あるからここで帰るわ」
勘解由小路は校門を出てすぐに走ってどこかへ行ってしまった。
本当に勝手な奴だな。
夕食の材料でも買って帰るか。
僕が夕食に使う材料とメアリ―の為に買ったお菓子をマイバックに詰め、スーパーから出ると、どこからか視線を感じた。
確か梓とか、言ってたな。
女の子だけなら何とかなるけど、男がいたら厄介だし・・・
仕方がない。
逃げるか。
まさか二日続けて全速力で走ることになるなんてな。
どうか、玉子が割れませんように。
僕は家に向かって走ることにした。
昨日振りきれたから家がばれることはないだろうし、大丈夫だろ。
何度か角を曲がり、マイバック内の玉子の生存を確認する。
「良かった~、割れてない。お金も少なくなってきたし、バイトしないとヤバいかなぁ~」
僕がそんな独り言をつぶやいていると、また視線を感じる。
昨日は手を抜かれてたのか?
まぁ、いい玉子が割れない事も分かったし、次は本気で走る。
あえて、視線を感じる方へ走る。
すると、すぐ近くの電柱に人影があり、身を潜めた。
陰でうまい事見えなかったが、なんとなく昨日の鶴野を襲っていた女の子には見えなかった。
どちらかと言うと・・・
そんな事を考えていると、車の音が聞こえ咄嗟に立ち止まる。
「ガキ、あぶねぇ~じゃねえか。周りしっかり見んかい」
トラックの窓から顔を出した土方のおじさんに怒鳴られる。
「すいません。物凄い急いでて」
「それでも、周り見ろ。引いたらこっちが困る」
「は~い」
こっちが悪いけど、言い方ってものがあるだろ。
僕は平謝りをしてすぐに走り出す。
後ろにいた女の子がすぐには追いかけてこない事が分かった。
悪く思わないでくれよ。
僕は目的地を決めずでたらめに走る。
明らかに後ろからの気配が無くなったところで足を止める。
「よし、玉子は割れてないな」
玉子の安否を確認し僕は帰路につく。
そう、後ろには気配が無かった。
家に着く頃には日が傾き、家に人の気配がある。
「メアリー今日は早いな。昨日の問題を片づけたのかな。良かった、問題に巻き込まれて無くて」
僕が家の鍵を開け、ドアノブをひねり家に入る。
そこに居たのはメアリーではなかった。
て言うか、誰かも分からない女性がいた。
僕は咄嗟にドアを閉める。
ふぅ~。
ん?
どういう事だ。
どうやって家に入ったんだ。
でも、めちゃくちゃ美人なんだけど。
スタイルも『ボッキュンボン』でエロい。
僕の知り合いにはいないし。
だけど、メアリーの知り合いとは思えない。
どこのどいつだ。
しかし、これだけは分かる。
メアリーが帰ってくる前に対処しないとかなりヤバい状況だ。
「よし、行くか」
僕がドアノブに手をかけた時に声をかけられた。
「お兄ちゃん、どうして玄関の前で突っ立って考え込んでたの」
「えっ、いや~、あの~」
「よく分からないけど、私に先に入るよ」
「ちょっとま」
僕が止める前にメアリーはドアを開けた。
するとすぐにメアリーはドアを閉め、僕の方を見つめてくる。
さらに、顔は真っ赤に染まっている。
?
確かに美人だけど、そこまでか?
しかし、そこに突っ込むわけにはいけない。
「部屋の中の美人の女性誰か知ってる?」
「知らない」
メアリーは先ほどとは違う意味で顔を真っ赤にしながら荷物を僕に押し付け、どこかに行ってしまった。
僕はゆっくりとドアを開けると、そこには誰もいなくなっていた。
唯一の窓が開いた。
部屋は塵一つなく綺麗になっていて、部屋の唯一の机の上には豪勢な夕食が並べれていた。
僕は急いで部屋を飛び出す。
周り一面を見渡すが先ほど見た女性はいない。
唯一見つけたのは未だに怒っているメアリーが少し遠くを歩いている。
「メアリィィィィーーーー」
僕が大声で叫ぶとメアリーが振り向く。
「なにー」
ここは兄の素晴らしい部分の見せ所だ。
「さっきはゴメン、ちょっと戻って来てくれないか」
すぐに謝罪。
これが素晴らし兄の部分だ。
「分かった」
メアリーはトボトボとこちらへ向かって歩いてくる。
戻って来るのを待ち、家のドアを開く。
すると、メアリーは声を失った。
「どうなってると思う。さっきドアを開けたら部屋には誰もいなくなっててこんなにも豪華な夕食が並べられていたんだけど」
「じゃあ、お兄ちゃんはさっきの女の人の姿見てないの」
「うん」
「なら、よかった」
どんな姿だったのか物凄い気になる。
しかし、これを言ってしまえばきっとまたメアリーを怒らせるだろうしなぁ~。
仕方がない。
ここは仕方がないけど黙っておこう。
「でどうするこれ。食べる?」
「捨てるのは勿体ないよ。食べよう。きっと神様からの贈り物だよ」
「そうかなぁ~」
メアリーは僕が結論を出す前に机の上に並んでいるご馳走を食べだした。
よし、食べよう。
僕もメアリーに負けじと、食べだす。
二人共黙々と食べ、食べ終えると目を合わす。
「「めちゃくちゃ美味しい!!」」
大満足な僕たち義兄妹はそのまま寝てしまった。
「勘解由小路聞いてくれ」
僕は学校に着くとすぐに勘解由小路に話しかける。
「太郎から話しかけてくるなんて・・・好き」
「えっ、キモ」
「そう言うなよ。それに俺は丞でいいって言ってるだろ」
「ッチ、分かったよ、丞。聞いてくれ昨日ありえない事が起きたんだ」
「何が起こたんだ?」
勘解由小路の頭の上に「?」が見える。
僕は小声で勘解由小路に言う。
「昨日帰ったら部屋に超美人の女性がいて、部屋の掃除をしてくれて夕食も超豪華なものを用意してくれたんだ」
「ん?俺の耳が可笑しくなったのか?それとも太郎の頭が可笑しくなったのか?」
「そう感じるかもしれないけど、そうじゃないんだ。全て本当だ」
「本気で言ってるのか?」
「うん」
「そうか、可哀想に頭を強く打ってしまったんだな。今すぐに保健室に連れて行ってやるからな」
「だから違うって、本当に家にめっちゃスタイルのいい超絶美人がいたんだって」
僕は最初小声で話していたはずだが、気づけばかなり大きな声になっていた。
周りの目が完全に僕のみを変態扱いするかのような目で見てきていた。
「丞、やっぱり保健室に連れて行ってくれ。心がボロボロでしんどい」
「そうか、可哀想にどうしてそうなってしまったんだ。そう言えばもうちょっとでチャイムなるな。準備しないと」
「一体何の準備するんだよ。今から待ってるのはホームルームだぞ」
「ん?」
勘解由小路は完全の僕の事を舐め切った顔をしている。
というか、完全に煽りに来ている。
『キーンコーンカーンコーンーキーンコーンカーンコーン』
チャイムが鳴り担任が教室に入ってきた。
三日目にしてクラスメートからの目は元通りにはならない程、崩壊したと言えるだろう。
マジで最悪だ。
勘解由小路呪ってやる。
昼休み僕のやってしまった所業を知らない昨日話しかけてきた隣のクラスメートが話かけに来た。
「昨日は何もなかった?」
「君が言っていた梓さん?とその友達らしき人とは会わなかったよ」
「それは知ってる。昨日私は梓たちとカラオケに行ってたから。そうじゃなくて、鶴野のこと」
「ああ、何をしたかったのか分からなかったけど帰り道途中まで着いて来てたよ。僕が振り切ったからどうなったか分からないけど。まさか、電柱の陰に隠れてついて来るとは不思議な奴だね。鶴野は僕に関わるなって言ってきたのに」
「本当にそれだけ」
「うん。それだけ」
「昨日何か変な事起きなかった?」
そう言えば部屋に美人の女性が現れたけど、鶴野とは全く似てなかったし、関係ないだろ。
「特に何もなかったよ」
「そう、ならいいんだけど」
「でも、どうして鶴野をいじめているの」
「私はいじめてないよ。梓と鶴野は中一の時にすごく仲が良かったの。梓が鶴野の面倒を見てたって感じ。でもね、中二になった時に鶴野が知らず知らずのうちに梓の好きだった子を取っちゃったの」
何そのそうとう変わり者。
「何そのそうとう変わり者」
おっと心の声が出てしまった。
まぁ、みんなそう思うだろうしいいか。
「私も最初そう思ったの。梓でさえ、そう思った。だって梓かなりかわいい方だし」
そうだったかなぁ~。
僕あんまりギャルの可愛いが分からないから肯定しておくか。
「うん。そうだね」
「でもね、違ったの。鶴野あの冗談みたいなメガネを外すとめっちゃ美人だったの」
「でも、どんなに美人でもあのタルみたいなスタイルだぜ」
「きっと田中君が考えてる美人を遥かに凌駕するほどの美人なの。きっとだからだと思う・・・」
マジかよ。
助けた代わりにお礼もらえばよかったなぁ~。
でも、どうしてその男は鶴野の素顔を知ったんだ。
アイツ体育は参加しないし、ほとんど動かないから汗を拭くためにメガネを外すこともない。
何をしたら素顔見れるんだよ。
「何が起こったらそうなるんだ」
「どうやって、鶴野の素顔を見たか知らない。でも、鶴野がとった行動がありえなかった」
「何をしたんだ」
「鶴野と梓が好きになった男子は明確に言えば付き合ったわけじゃないの。どちらかと言えば最初は鶴野がその男子をストーカーしていたって感じ。その後どうしたか分からないけど、一緒に登下校するようになったり、その男子にお弁当を作って来るようになったの」
「完全にカップルだね」
でも、それだけを聞けばその男の子は心を許したように思えるけどな。
梓さんはもう諦めるしかないだろ。
「そうなの。誰がどう見てもカップル。でも一週間後にとんでもない情報が流れたの。その男子が引っ越したって」
「どうして、引っ越したんだ」
親の異動とかなら別にとんでもない情報ではないけどな。
「鶴野から逃げるためらしいの」
「逃げるため?」
「そう、どうして逃げたのかと言うとね。鶴野は四六時中ずっとその男子といたの。何をする時もよ」
「え?風呂とか、手洗いの時もか?」
「そう、男子は何をどうしても鶴野から逃げられないことを悟って逃げなくなっただけだったの」
マジか。
最高級のストーカーだな。
「でもね、三十分だけ一緒にいない時が毎日いない時があったらしいの」
「どんな時ですか?」
「家に帰ってから三十分間家に入れてもらえないらしいの」
「ん?男の子の家ですよね。どうして?」
「別に入れないわけじゃないんだけど【絶対に入ってこないでくださいね】って言われるらしいの。その頃には鶴野がリスカしているって事みんな知ってから、少し気味悪がってて言う事を聞いてたらしいの」
「なるほど・・・つまり男の子は入ったわけだ」
「多分そう。そこまでは知らない」
「ありがとう。何かあったら出来るだけ逃げるようにするよ」
「そうして。じゃあ気を付けてね」
四十分もあった昼休みが残り五分を切っている。
「おいおい、どうしたんだ。三日目にして彼女でも作ったのか~」
「違うよ。アドバイス貰っただけ」
「何のアドバイスだよ。俺が手取り足取り腰取り教えてやるのによ~」
「キモい」
「そう言う事言うなよ。連れないな~。昼飯食ったか?」
「まだだよ」
「持ってるか?」
「いや、今お金なくて節約中」
「ならこれやるよ」
勘解由小路が僕に向かっておむすびを一つ投げてきた。
これは感謝しかない。
「ありがとう」
「いいって事よ。友達だろ」
「・・・・・・まぁ、そうだな」
「おお、遂に認めてくれたな。イェーイ」
こうして僕は周りからも丞からも僕自身も認める、友達になってしまった。
学校終わり丞は僕の家に今日こそ行きたいと言ってきた。
昨日の美女が来るかもしれないから見に来たいらしい。
絶対に妹を見たいのもあるだろう。
しか~し、僕はこれだけには答えられない。
さすがにまだ言ってない事情があるので家には連れて行きたくない。
「ちぇ~、まあいいか。太郎の為にいいバイト探しといてやるよ」
「それはありがたい。出来るだけ給料がいいやつで頼む」
「任せときな」
「マジでありがとう」
「おうよ」
丞は走ってバイトを探しに行ってくれた。
別に今すぐ行かなくてもいいのに。
アイツ途中まで一緒に帰るという選択肢を持っていないのか。
まぁ、いいけど。
僕が家に着くと玄関の前にメアリーが立っていた。
「何してるんだ。家に入らないのか」
「ちょっと待ってお兄ちゃん。昨日の美人のお姉ちゃんがいるの」
「マジかよ」
「うん、でもね。入る瞬間を見たんだけどね。あの人家の鍵持っていたんだけど」
「本当に言ってるのか?」
「うん、本当なの。あの人すごくいい人だけど物凄く怖いよ」
「お兄ちゃんに任せておけ。すぐにでも正体を暴いてやるからな」
僕は深呼吸をして、ドアノブを回し、思いっきりドアを開いた。
しかし、そこにはもう美女の姿が見えなかった。
しかし、昨日と違っていたのは夕食だけでなく、二人分のお弁当と朝食用なのか、六枚切りの食パンが置いてある。
僕は今日の昼休みから薄々気が付いていた事がハッキリと分かった。
昼休み鶴野は教室の後ろの方にいた事は気が付いていた。
聞こえないようにある程度の音量で話していたが、きっと聞いていただろう。
つまり、僕は今鶴野にストーカーされる対象になったに違いない。
こうなったら仕方がない。
僕は鶴野が部屋にいるタイミングで部屋を開けないようにしなくてはいけない。
本当にバイトをして家にいる時間を出来るだけ減らすしかないな。
一体何をされるか分かったものではない。
【鶴】に【中を見るな】完全に【鶴の恩返し】みたいだな。
でも終わり方が去る方が鶴ではなく、いい事をした方って酷い仕打ちだ。
よし、こうなったらこの解決は無理だ。
きっと僕が鶴野に話しかけたらもっとややこし事になるに違いない。
素直に何も解決方法が浮かばない。
【鶴の恩返し】の結論が分かってる時点で詰んでるなぁ~。
こうなったら徹底的に関わらないようにするしかないな。
今の所いい事しかないし。
何か問題が起きたら対処するしかないな。
こうして僕の日本での童話を背負った人々との生活の幕が開けた。
最初に読んで頂きありがとございます。
もし、見てくれる人が多かったり、評価してくれる人が多ければ、連載に切り替えます。(100超えれば連載にします)
詳しくいえば、高校卒業の三年間は書きます。
一応何人かヒロイン出します。
筆が遅いので時間は掛かってしまいますが・・・
今後ともよろしくして頂ければありがたいです(o*。_。)oペコッ