エレクトリカルランド
目を開けたら
目の前に大きな扉があった。
それはとても綺麗で、おおよそ3メートルはあった。
その扉はまるで目の前に大巨人がいるのかと思ってしまうほどの迫力があり、私は威圧感を抱いた。
扉の横に古びた木製の看板が立っていた。
その看板にはこう書いてあった。
『Welcome to the Electrical Land!』
なんのことか分からなかった。
だが、もし扉を開けたら
人生を変えれるかもしれない。そう私の直感が脳内に囁く。
私はその直感を信じ、
藁にもすがる思いで扉を開けてみた。
その扉は案外古いのか、
ゴゴゴゴ
と、奇怪な音を鳴らし私にその心を開いた。
扉の向こうには今まで見たことがない、異様な世界が広がっていた。
とてつもなく長く、見えない奥へと続く大通り。
見たことのない食べ物を売っている出店。
うんざりしてしまうほど明るく、色とりどりなイルミネーション。
大通りではこの街の住民らしき人々が太鼓をならし、
自己を表現するダンスを踊っていた。
その住民たちは、ピエロだったり、人間を真似たロボットだったり、人と似た姿をしている動物達だったりした。
この街では差別や羞恥がないのだろう。
みんな笑顔で楽しそうに踊っていた。
それらを見たとき私は思わず歓喜した。
何故なら、私が望んでいたものが目の前に広がっていたからだ。
人生は捨てたもんじゃないな。そう思った。
扉を背にし、棒立ちしていた私に熊の姿をした住民が話しかける。
君は踊らないのかい?この街は君を侮辱するものはいない。思う存分踊れるぞ。
突然話しかけられたので、言葉に詰まったが私の本心を伝えた。
私はいいわ。まだ見ていたいの。
熊は私に
そうかい。楽しみ方は君の自由さ。踊りたいときに踊ればいい。
と言い、仲間の元へと戻っていった。
熊を見送った後、私は大通りの白線をなぞりながら歩いた。
大通りは見かけ以上に賑やかで、いるだけで楽しい気持ちになった。
ずっとここで生きていきたい。そう思ってしまうほどこの街は活気と魅力が溢れていた。
ただひたすら大通りをぶらついていると、ある1人の狼に話しかけられた。
君、この街は初めてかい?
は、はい。
おどけた顔で答えた。
そうかい(笑)なら、僕と飲まないかい?この街についていろいろ話をしよう。
そう言い、私に月のカクテルを手渡した。
はい、ありがとうございます。
私は月のカクテルを手に取り、狼の後ろについていった。
狼はいろんなことを話してくれた。
この街は何故あるのか。
何故みんなは踊っているのか。
そして、あの扉は何なのか。
狼とは定期的に飲むようになった。
狼は見た目とは裏腹にとても気さくで、頼りがいがあった。
何回と会えば会うほど互いに心を開いていった。
扉を開く前に何をしていたのか。
何故動物が人に似た姿をしているのか。
溢れ出る疑問に狼は真摯に答えてくれた。
いずれ私と狼は恋に落ち、互いを愛していった。
狼は私を想い、私は狼を想った。
狼は私に言った。
この街を抜けて2人で暮らそう。
私は狼に言った。
うん。ありがとう。
私達は街を抜け出した。
街から抜け出すことは扉を閉ざすことを意味していた。
狼は知っていた。
扉を閉めることは2人の関係を閉ざすことになると。
だが、狼は私を街から抜け出させた。
今までありがとう…
私はつぶやいた。
扉が閉まる狭間
狼の顔が見えた。
狼は何かを隠す虚無の笑顔で私を見送り、
凛々とした見た目からは想像つかないド太い声でこう笑った。
ゴゴゴゴ。