空の旅にご招待
「わー! いっぱいありますね!」
某大手ファッション店を、僕たちは訪れていた。
ユニムロ。
お手軽な値段で買えるので、高校生の財布にも優しい店だ。全国どこにでもある店ではあるが……当然のごとく、ユリィには新鮮に映っているようだ。
「すごい! お洋服がこんなにいっぱい!!」
「落ち着けって。服は逃げないぞ」
前述の通り、日本の文化レベルはすさまじい。王都たるユーゲントでもここまで多種多様なファッションはなかったので、ユリィが目を輝かせるのも無理はない。
と。
「おいユリィ、どこ行くんだ?」
彼女が向かったのはメンズ用の売り場。あんなところに向かってどうするというのか。
「おい、女性モノの売り場はあっち――」
「雅之様。これはいかがですか?」
そう言いながらユリィが提示してきたのは、やはりメンズ用の服。白を基調とした襟付きシャツで、所々に黒い斑点模様がある。
「雅之様、白がお似合いだと思うんですよね。黒だとどうしても暗くなっちゃうというか……」
「な、なにを言ってるんだおまえは」
今日はユリィの服を買いにきたのに。
「僕のことはいい。おまえ、その格好じゃ出歩けないだろ。さっさとあっちに――」
「だって」
僕の言葉を聞かずに、ユリィはシャツを押しつけてくる。
「私だけが注目浴びるの、なんか間違ってます。雅之様、元はいいんですから、見た目をしっかりやれば……」
「いいんだ。いいんだよ。僕のことは気にするな」
前世から、とにかく魔法だけを追求するような人生だったからな。
自分の容姿にはまるで興味がなかった。
前世も今生もぼっちなのは、そのせいなのかもしれないな。
「とにかく、今日はユリィの服を選ぼう。またさっきみたいに絡まれたら嫌だからな」
「雅之様……そこまで私を心配して……」
「まあ、ユリィだから襲われても返り討ちにできると思うがな」
「むー。余計なこと言わないでください」
ユリィは可愛らしく頬を膨らますと、やや名残惜しそうにシャツを売り場に戻した。
「……じゃ、雅之様のファッションは保留ですね。いつかお金が貯まったら、今度は私が雅之様に洋服を買います。――あと、髪型もですね」
「はは……ほんと、気にしなくていいのに」
「私が気にするんですって!」
再び頬を膨らませる聖女様。
「前世だって、自分が身代わりになって覇王ラージェスを倒したのに……今生でもこんな生活じゃ、報われなさすぎです……!」
心配、してくれてるんだろうな。
不器用な彼女なりに、こんな僕のことを。
その後、僕は女性用下着の数々に視線を困らせつつも、ユリィの服を選ぶこととなった。
彼女も遠慮しているのか、そこまで多くの服を選ぶことはせず。
いくつかの服を選んだあと、僕たちは店を出ることにした。
ちなみにユニムロでは、申請すれば購入した服を試着室で着替えることができるらしい。現在の服装のまま出歩かせることはなるべく控えたかったので、ユリィには即刻着替えてもらった。
だから彼女は現在、いわゆる日本っぽい服装を身にまとっている。
ややピンクがかったTシャツの上から、白いワンピースを身につけている。靴は明るめな茶色の革靴だ。むろん、トンガリ帽子はすでに取っ払っている。
これで俗にいう《魔法少女》的なファッションから脱せたわけであるが。
ユリィは美人であるだけに、どんな服を着ても目立ってしまうらしい。さっきよりはだいぶマシになったが、それでも視線は方々から突き刺さる。
「すげー美人……」
「うらやま……」
「俺もあんな子とデートしたい……」
さすがは前世から聖女と評判だったユリィだ。どんな服でも映えてしまう。
そして問題は、そんな彼女が僕の身体をさっきからペタペタ触ってくることだ。
「えへへ♪ ありがとうございます、雅之様」
「おい、触るな」
「え、駄目ですか?」
「当たり前だろうが! 変に目立ってんぞ!」
「えー別にいいじゃないですか」
これも昔と変わらず、彼女は人目を憚らない。
日本人は人目を気にする人が多いから、このへんも大きな違いだな。
「私、嬉しいんですよ♪ 雅之様にここまで想ってもらうなんて」
「違うわ。あのままの服だと僕が恥ずかしいだけだっての」
「ふふ、またまたそんなこと言っちゃってー」
「お、おまえって奴は……」
魔法発動。
――空中浮遊。
僕は彼女の腕を掴むなり、そのままふわーっと空中に浮かび上がる。もちろん高速で動いておいたため、人々には消えたようにしか見えないだろう。
「きゃっ! 雅之様! なにを……!」
「あれ以上目立つのは御免だ。空を飛んで帰るぞ」
「……いまので余計目立った気がするんですがそれは」
僕とユリィは空の旅を味わいつつ、帰路に着くのだった。
【恐れ入りますが、下記をどうかお願い致します】
すこしでも
・面白かった
・続きが気になる
と思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします。
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます。
今後とも面白い物語を提供したいと思っていますので、ぜひブックマークして追いかけてくださいますと幸いです。
あなたのそのポイントが、すごく、すごく励みになるんです(ノシ ;ω;)ノシ バンバン
何卒、お願いします……!