ずっと手を握ったままで
夜の駅前は、多くの人たちでごった返していた。
そういえば……もう18時か。
仕事帰りのサラリーマンや、家族連れ、そしてカップルなどなど……大勢の人たちがいる。
そのなかにあって、やはりユリィの格好は目立っていた。
ハロウィンの日の渋谷じゃあるまいし、普通こんな服装してる奴なんかいないよな。
「わー♪ すごい! なにこれ……!!」
目を輝かせて周囲を見渡すユリィ。あちこちに目を向けては、すべての物に驚きの声をあげている。
ま、無理もあるまい。
ここ日本は、ユーゲント王国に比べて文明が異常に発達している。スマホみたいな通信機器なんてなかったし、遠方に移動するなら車じゃなくて馬車だった。
闇夜を照らすネオンの数々は、いまが夜であることを忘れさせるほど眩しい。
……まあ、その代わりといってはなんだが、魔法の使い手はいないようだな。自称占い師やら自称霊媒師やらは存在するが、大概はインチキである。本当に魔力を持っている者は一握りしかいない。
とどのつまり、ユーゲント王国と日本は根本的なところから違うわけで。だからユリィが色々と驚くのも無理はない。
「……そうだ」
僕はあるひらめきを思いつき、服屋の前にまず売店に寄った。
アイスクリーム専門店。
全国に出店しているチェーン店だが、僕はここのアイスが大好きだった。
そこでチョコアイスを買った僕は、ユリィに差し出してみせる。
「え……なんですか? これは」
「アイスクリームだ。うまいぞ」
「た、食べ物ですか……? これが?」
ユリィはしばらく首を傾げていたが、僕に勧められるまま、スプーンで掬いあげたそれを頬張る。
と。
「はむっ…………!?」
途端、ユリィはぎょっと目をぱちくりさせる。
「はわわわわわ。こ、この冷たさと甘さを両立させた味……!? やばい、やばすぎますよ雅之様!」
「うん……そうだろ?」
前世においても、ユリィは甘いものが大好きだったからな。
特に日本は食文化がかなり発展している。ユーゲント王国とは格が違うんだ。
「どうだ。おまえならアイス好きだと思って――」
「大好きですっ!!」
僕の両手を掴み、そしてぶんぶん振ってくる。
すげー興奮してるな。
「こんなに美味しいものを紹介してくれるなんて……ほんと、雅之様に再会できてよかったです!」
「はは、大げさな奴だなぁ」
こんなに喜んでくれるとは予想外だったが、彼女の様子を見て、僕も元気が出てきた。
嘘の告白。
さっきのあれは、僕の心に相当の傷を残したからな。さっきも大山から《大嫌い》とか言われてしまったし。
そんなことを考えていたからだろう、
「……雅之様?」
とユリィに首を傾げられてしまった。
僕は目をぱちぱちさせると、後頭部をさすって答えた。
「すまない。ちょっと考え事をな」
「…………」
ユリィは無言でもう一度僕の右手を握ると、ちょっともじもじしながら言った。
「……あの、雅之様。私じゃ駄目ですか?」
「ん……?」
「あの大山里穂はたしかに綺麗です。雅之様が気に入られるのもわかります。でも、私だって……」
「はは……ユリィ。ありがとな」
僕は彼女の頭をそっと撫でてみせる。
「あ……」
「おまえは昔から優しいよな。こんな僕をずっと気にかけてくれて……いつも助かってるよ」
「はい。私、雅之様の凄さを知ってますから。みんなが雅之様を馬鹿にしてても、私だけは……」
「…………」
「だって私、ずっと雅之様が――」
そこまで言いかけて、かあっと赤くなる聖女。
「ユリィ?」
「いえ、なんでもありません。と、とにかく、雅之様には私がいますから! ずっとついてますからっ!!」
「はは……ありがとな」
彼女がここまで慰めてくれてるんだ。
僕も、すこしずつ立ち直っていかないとな。
「いこうユリィ。そうだな……まずはあそこの洋服屋に入ろう」
そうして、僕たちは改めて服屋に入るのだった。
その間ずっと、ユリィは僕の右手を握りしめたままだった。
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