スクワットでもやってて、どうぞ
さて。
そんなこんなで暇になったな。
僕はひとまず聖女ユリィへの隠蔽魔法を解除する。
さっきまで普通に使ってたけど、この魔法、けっこう魔力を消費するんだよな。並の魔術師であれば5秒も使い続ければヘトヘトになる。
「あ……」
ユリィも自分の変化に気づいたのだろう。
自身を見下ろし、隠蔽魔法の有無を確認している。
……それにしても、うん。
ユリィの服装、やはり目立つな。特に開けた胸元の破壊力はすさまじい。
「とりあえず、どこかで服買いにいかないか。ずっと隠蔽魔法を続けているのもしんどいんだ」
「え……いいんですか!?」
目をキラキラさせるユリィ。
「いいもなにも、そのままの格好じゃまずいだろ。一緒にいる僕が恥ずかしい」
「うぅ……なんてお優しい……。しかもこれってデートじゃ……わあああああ!」
ひとり騒ぎまくるユリィ。
うん、やかましいな。
これで世間から疎まれてしまわないか心配だが……まあ、なにかあれば魔法の力があるもんな。いままでの僕だったら、理不尽な暴力にただ屈するしかできなかったけれど。
そんなわけで、僕たちはショッピングに向かうことにした。
向かうは駅前だな。
色んな店があるだろうし、服屋を探すにはうってつけだろう。
ところが――
「な、なんだあの女の子……」
「めちゃ可愛い……」
「ど、どうして美人があんなうだつの上がらない男と……」
「あいつ、二年の黒田じゃないか? 彼女……じゃないよな?」
やはりユリィの格好は目立つ。
僕たちはただ無言で歩いているだけだが、それだけでも人々の視線を集めてしまっていた。
しかも、なかには同じ高校の制服を着た連中もいる。
居づらいことこの上ない。
「むー……」
そんななか、前世でもモテモテだった聖女様は頬を膨らませていた。
「ユリィ? どうした」
「だって、雅之様の悪口っぽいのが聞こえてくるんですよ? 早急に叩き潰す必要があると思うんです」
「た、叩き潰すって……」
聖女がそんな言葉使うなよ。
普段は割とお淑やかなんだけどな。僕が迫害されると急に性格が変わる。このあたりも、前世となにも変わっていないな。
前の世界でも、僕をブサイクと罵ってきた魔女をボッコボコにしてたっけ。あいつは覇王の手下だったからともかく、今生でもひっきりなしにボコボコにしていたらキリがない。
だって――
「おい、おまえ二年生だよな?」
――僕は高校でも悪名高い陰キャ。
僕を罵倒してくる人間は、前世と比べても圧倒的に多いんだ。
「かーっ、いけないねぇ。ブッサイクのくせしてそんな超絶美人とデート? そんなのが許されると思ってんの?」
急に立ちふさがってきたのは、同じ高校の三年生。
正直、名前も知らない学生だ。校内ですれ違ったことはあるかもしれないが。
だが、その険悪な目つきや振る舞いから、おそらくスクールカースト上位に属する陽キャであることは想像できる。
そんな先輩たち三人が、いきなり目前に立ちはだかってきた。
「うおーっ、可愛え……。こんな可愛い子、見たことないぞ……」
先輩のうちひとりが、ユリィの顔を見て下品な声をあげた。
「……なによ、あんたたちは」
「俺は三年の川田! 知ってるかもしれねえが、陸上部の副部長でもある!!」
「いや、知らないけどね」
「え? そ、そうか……それは残念」
そりゃ知ってるわけないな。
川田は気を取り直したように咳払いをかますと、僕を指さして叫んだ。
「逆に、こいつはどう見ても陰キャだぜ? 名前は知らないし興味もねえが……わかるだろ? この漂う陰キャ臭」
「…………なにが言いたいの?」
あかん。
ユリィの拳がぷるぷる震えている。
「つまり! そんな陰キャと一緒にいるくらいなら、俺と一緒にいたほうがいい!! 絶対に幸せにしてやんぜ? 子猫ちゃん」
「おおっ……!」
「さすがは川田さん……かっこいい!!」
そう言ってやたら川田を持ち上げるのは、他二人の取り巻きたちだ。
「あ、あんた……!! これ以上、賢者フェアス様への侮辱は……!」
まずいまずい!!
このままでは、この地域一帯が吹き飛んでしまう。川田など跡形も残らなくなるだろう。
聖女たるユリィの魔力に対抗できるのは、前世でも僕しかいなかった。
「ちょっと待ってください」
僕は慌てて二人の間に割り込むと、川田に向けて手の平をかざした。
「陸上部の副部長なら、こんなところで油を売ってる場合じゃないでしょう。スクワット1000回やってて、どうぞ」
「はぁ? 誰がテメェの言うことなんか……って、あれ?」
怒った顔でスクワットをする川田。
「だ、誰がテメェの言うことを……って、あ、あれれ?」
再びスクワットをする川田。
「か、川田さん? なにやってんすか」
「い、いや、なんか身体が勝手に……っ!」
そう言いながらも再びスクワットをする川田。
「お、おい! どうなってんだ!? 止めて、誰か止めてくれぇぇぇぇぇえ!!」
泣きながら叫んでいるが、心配しなくても、あと997回やったら自然に止まる。
かつて一緒に戦った戦士ゴワルティアなんか、この100倍以上のスクワットをしていたもんだ。
まあ川田は一般人だし、これくらいの回数なら筋肉痛にもなるまい。これはあくまで時間稼ぎだ。
「それじゃユリィ、とっととずらかるぞ!」
そのまま聖女の手を引き、そそくさと退散するのだった。
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