ちょ、いきなり一緒に住むのかよ
夕暮れの公園。
「……で、おまえはこれからどうするんだよ」
「決まってるじゃないですか! フェアス様の家に住みます!!」
僕の問いかけに、ユリィは大きな胸をえへんと張った。
……駄目だこいつ、早くなんとかしないと。
「馬鹿言うな。僕はこっちの世界じゃ《普通の高校生》。おまえなんか家に連れ込めるわけがないだろう」
「むー……わかってて言ってますね?」
ユリィがいじけたように頬を膨らます。
「フェアス様は大賢者。あなたに使えない魔法はないじゃないですか」
「……わからんぞ。十年以上もブランクがあるからな。うまく使えんかもしれん」
「嘘つかないでください。私でもわかります。フェアス様の力は前世において世界最強。その魔力はまったく衰えていません」
「…………ったく」
はぁ、バレてたか。
異世界に転移した現在でも、僕の魔力はまったく劣化していない。
ユリィが余計な手を加えたのか、むしろ強くなっているまである。
「正直に言ってくれよ。単に行く宛がない。住む場所がないだけだろ」
「ぎくっ」
心の声がダダ漏れなんですがそれは。
「だって、仕方ないじゃないですか! なんにも考えずに転移しちゃって、お家どころかご飯もなにも持ってきてないんです!」
おい、なんで自信満々に言ってるんだ。
「だから私はフェアス様の家に泊まるしかない! そうですよ!!」
「……はぁ」
もうため息しか出ない。
「とりあえず、そのフェアスってのやめろ。ここでは別の名前がある」
「あ、そうでしたね。たしか……」
「黒田雅之」
「なるほど! では雅之様と呼ばせていただきます!」
「できれば、その様っていうのも辞めてほしいんだが」
「そんな! それを取り消すなんてとんでもない!!」
くわっと目を見開くユリィ。
「フェ……じゃなくて、雅之様は私の尊敬するお方です。呼び捨てなんて到底できません!!」
「そ、そうか……」
前世においても、彼女からの慕われっぷりが半端なかったのを覚えている。
……ほんと、なぜだろうな。
なんで僕なんかと。
「わかった。わかったよ」
僕は両手を挙げ、降参のポーズを取った。
「一時的にだが、しばらく家に泊まってくれ。ただし、あんまり派手なことやらかすなよ?」
「や、やった! ありがとうございます!!」
まあ、こう見えても彼女は僕を心配してここまで来てくれたんだ。
相変わらずおっちょこちょいで、抜けている女の子だけれど――その想いまでも無碍にはできないよな。
「ああ。おまえに再会できて……本当は嬉しかったよ」
「う、嬉しいって……」
急に頬を真っ赤に染めるユリィ。
「フェ……雅之様。それって、どういう意味でですか……?」
「は? どういう意味って……そのまんまの意味だが」
「そのまんま……うふふ。やったぁ♪」
そのままヘンテコなステップを刻むユリィ。
家に泊まることがそんなに嬉しいのか? 変な奴だな。
「とりあえず……ユリィ。まず服を買うのが最優先だな。その格好は色々と目立つ」
ちなみに現在のユリィの服装は、可愛らしいトンガリ帽子、胸元が大きく開けたコート、そして丈の短いキュロット。
こっちの世界じゃ《ハロウィン》っていう文化があるみたいだが……まあ、そんな感じの衣装だな。
前世では当然のように見慣れた服装だが、ここ日本ではそうはいかない。
「え……これ、そんなに目立ちます?」
「目立つ」
ま、前世とはいろんなものが根本的に違うからな。
僕が陰キャとして迫害されているのも、そのへんの常識力に欠けているからだと思う。
ユリィが困惑するのも無理からぬ話ってわけだ。
と。
「む……」
僕はふと眉を潜めた。
賢者の力を取り戻したことで、気配察知能力も高まったらしい。
だから知り合いが近寄ってきていることも、すぐに気づけた。
「ユリィ。すまんが隠れてもらうぞ」
「え……って、ふわっ!!」
隠蔽魔法発動。
ユリィの身体が透明になる。
僕からは彼女の姿が見えるが、他の者にはまったく見えない。
また自慢ではないが、僕の魔法であれば、声や気配など、対象者から発せられるすべての要素を断ち切ることが可能だ。
「ちょっと雅之様……どうして……って、あ!!」
ユリィが言いかけたそのとき、果たして見覚えのある人物が姿を現した。
大山里穂。
さっき僕に嘘告をしてきた張本人だ。
気配を探るに、なぜか亮太たちはいないようだが。
……ひとりで来たのか?
どうして?
「いた……黒田くん……」
そう呟く彼女は、さっきの意地悪な表情とは明らかに一変していた。
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