ちょ、賢者の力を取り戻してしまったんですがそれは。
「ぷぷ……はは。あーっはっはっは! なに本気にしてんのよ!? 馬鹿?」
「え……」
女子生徒のあまりの変貌ぶりに、僕は目を丸くする他なかった。
「だーれがアンタなんかに告白するかっての! 雄介、亮太、出ておいで!」
「おうよっと」
女子生徒の言葉に応じるかのごとく、物陰から顔見知りのクラスメイトが姿を現す。
雄介。
亮太。
ともにスクールカースト上位に属する陽キャで、僕へのいじめ加害者でもある。
「……そっか。そういうことか」
しばらく理解が追いつかなかったが、数秒ののち、僕はすべてを悟った。
俗に言う嘘告。
それがこれだ。
机の引き出しに、《放課後に屋上で待ってる》といった手紙が入っていたのは今日の午後のこと。
その筆跡から、僕は女子であると検討をつけた。
今生はずっとボッチだった僕は、これでやっと人生に花開くのだと期待した。
だが、現実はそう甘くない。
陰キャと呼ばれる僕を待ち受けていたのは、嘘告という結末だった。
「はははははは! 黒田、てめぇ馬鹿じゃねえのか?」
雄介が僕を指さして笑う。
「なにが《ぼ、僕でよければぁ……》だよ。キメェんだよ!!」
完全にキョドっていた僕の声真似をわざとらしく再現しながら、雄介が煽ってくる。
「ぎゃっはっは!」
「あはははは! ほんとにつられるとは思ってなかったわ!」
腹を抱えて叫びまくる亮太、そして女子生徒の大山里穂。
「…………」
僕は震える拳をぐっとこらえる。
「おいおいおい、こいつ泣きそうだぜ!!」
「泣けよ泣け泣け! 写メ撮ってやっからよ!」
依然として高らかに笑う亮太に雄介。
僕はこみあげる感情を押さえ込み、無理やりにでも笑ってみせた。
「……それでも、お礼を言わせてほしい。里穂さん」
「は? お礼?」
「あなたのような綺麗な人に告白されたこと、嘘だったとしても、夢を見られてよかったです。……僕は、本気であなたが好きだった」
「へ……」
口をあんぐり開ける里穂を尻目に、僕は身を翻し、走った。
「ちょ、待ちなさ――」
そう叫ぶ里穂の声を、背に受けながら。
★
とはいえ。
いくら強がったところで、辛いもんは辛いよな。
駄目だ。
きつい。
泣く。
「くぅ……うう」
夕方。
人気のない公園で、僕はひとり涙を流していた。ひとり寂しくベンチに座りながら、それでもできる限り涙をこらえて。
大山里穂。
僕は本当に好きだった。
可愛らしくて素敵で。高嶺の花だとずっと思っていた。だから告白されたときは嬉しかったし、嘘だと知ったときの落差も激しかった。
だから余計にきついんだ。
「――いた! ここにいたんですね!」
「…………」
ふいに聞こえてきた女性の声に、僕は顔をしかめる。
この声。妙に聞き覚えがあった。
おいおいおい。まさか。
「ユリィ……?」
「えいっ!!」
なにもない空間から、突如として現れたのは。
ユリィ・ローマリア。
前世において、凄腕の回復師だった女性だ。その外見的・内面的美しさから聖女とも呼ばれ、いつも男性から羨望の眼差しを向けられていたのを覚えている。
大山とは違う意味で高嶺の花だったな。
前世ではなぜか僕についてきて、覇王ラージェスとともに戦った仲でもある。
しかし、そのユリィがなぜこんな場所に。あのとき死んだのは僕だけのはずだぞ。
「よ、っと……。って、わぁぁぁぁああ!!」
転移する際、高度設定をミスったらしい。
高いところに現れた彼女は、受け身も取れずそのまま地面に落下する。
「うぅ……。いたたあ……」
……見えるが見ない。
これでも紳士的な振る舞いを心がけているつもりだからね。
「えっと……大丈夫?」
「は、はい……。ありがとうございます……」
僕の差し伸べた手を、ユリィは頬を染めながら握り返す。
「って、そうじゃなくて! ようやく見つけましたよ、大賢者フェアス様!」
「……相変わらず慌ただしい奴だなぁ」
大賢者フェアス。
それが、前世における僕の呼び名だった。
ちなみに今生では黒田雅之。
賢者の「けの字」もない、ごく普通の名前である。
「……わざわざ転移の術を使ってきたのか。いったいなんで」
「なんでって! 決まってるじゃないですか!?」
ユリィは僕の胸ぐらをつかむと、思いっきり顔を埋めてきた。
「……!? お、おいっ」
「どれだけ心配したと思ってるんですか!? 『ここは僕に任せて帰れ!』って、覇王と相打って……。私、私……!!」
「あ……あのときのことか……」
覇王ラージェスとの決戦は、昨日のことのように覚えている。
大賢者と呼ばれた僕でさえ、覇王には苦戦した。なにしろ強すぎるのだ。自分のすべてをぶつけることでしか、覇王には勝てないと判断した。
だから僕は賭けに出た。
――終末魔法、エルトリア・プロージョン。
自身の命と引き換えに、強力な大爆発を起こす魔法だ。
むろん、そのまま死ぬ気はなかった。念のため転生魔法を自分にかけ、たとえ覇王を打ち損ねても、長い年月をかけて倒しにいこうと考えたんだ。
……まあ、それで前世の力を失ったんだから笑い話だけどね。
でも、結果的には悪くなかったと思う。
自身の身体が溶けていくなかで、覇王が死んでいくのはたしかに確認できたから。
「ユリィ。覇王が死んで……ユーゲント王国は平和になったかい?」
「平和にはなりましたよ。……だけど、だけど……!」
さっきまで僕の胸にしがみついていた手を、今度は背中にまわしてきた。
「置いていかれる女の気持ちも……すこしは考えてください……!」
「置いていかれる人の気持ち……」
そんなこと言ったって。
あのときは、自滅するしか方法はなかった。
それだけが僕に残された唯一の手段だったから、だから……
「……もう許さないです。心配かけさせた分、この世界ではずっと一緒にいますからね」
「……え」
いやいや。
それはまずい。
いまの僕は普通の高校生。女の子を泊める甲斐性も権限もないのに……
「――ちなみに、《大賢者フェアス》だった頃の力は持ってきました。隠蔽魔法で私を隠すことくらい、あなたなら余裕でしょう」
「は? 力を持ってきたって……」
まさか《魔力転移》か?
本気で言ってるんじゃあるまいな。
と思っている間にも、僕の身体を優しげな輝きが包み込んだ。
わき起こってくる懐かしい力。
身体を巡る熱い力。
「おまえ、本当にやりやがったな……」
大賢者フェアスだった頃の力を、僕は完全に取り戻してしまった。
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