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これほどの優良物件、捕まえておかなくては

 善人(よしと)が聖域でレボルに助けられてから、3日が経った。


 善人たちはあれから聖域をくまなく探索したが他の魔物に遭遇することはなく、再起動した魔法陣に乗って洞窟の外へ出ると、一旦聖地ティルナノーグへと戻り、経緯を住人に伝えてから王都へ戻っていった。

 

 王都に到着するとその足で王城へ向かう。

 謁見の間で待っていたのは国王とマクギリアスにロザリアの3人。

 善人は事の顛末を報告した。

 3人は善人の報告を何度も頷きながら聞いていた。


「森の中に現れた洞窟に、ヨシトでも倒せなかった得体のしれない魔物。それにその魔物を圧倒した魔族、か」


「はい」


 国王の言葉に善人が頷く。


 俄かには信じられない話だ、と国王は心の中で呟いた。

 目の前にいる勇者――善人のレベルは90。

 その善人が倒すことのできない魔物がいることも驚きだが、それよりも気になったのは魔族の方だ。


 それほど強大な力を持つ魔族など、自分の知る限り魔王くらいしか思いつかない。

 だが、そのようなことが本当にあるのだろうか。


 魔物と魔族を統べる者が魔王だと、人間を忌み嫌っていると先代の国王から聞かされていたし、先代の国王も先々代から教えられたと言っていた。


 それが本当なら、どんな理由があろうとも人間を助けることなどあり得ないのだ。

 明らかに聞いていた話と違う。

 

「ヨシトよ、その魔族は『いずれ会えるだろう』と告げたのだな?」


「ええ、そうです」


「ううむ……」


 どう考えても魔王しか考えられなかった。

 

 ――もしや。

 国王はある考えに至る。

 

「ヨシトはその魔族に対してどう思っておるのか、訊ねてもよいかね」


「もちろん感謝しています。彼が現れなかったら僕は死んでいました」


 死んでいた――この言葉に、ロザリアが敏感に反応する。


 善人は魔王を討伐するために異世界より召喚された勇者だ。

 女神より様々な恩恵を与えられているとはいえ、不死ではない。

 一つ間違えば死んでしまうことも当然あるのだ。

 

 善人が無事に帰ってきてくれて本当に良かった、ロザリアは心の底から安堵した。


 そして国王は、予想通りの答えに危機感を覚えていた。


 善人を助けた相手が魔王であった場合、善人は魔王に対して本気で戦うことができるのだろうか

 

 善人は非常に心優しい少年だ。

 それが彼を勇者たらしめているところでもあり、娘のロザリアが惹かれているところでもある。


 しかし、その優しさが時に危険を招く恐れがあることを国王は知っている。

 願わくば、善人を助けた魔族が魔王でないことを祈るしかない。


 他に3人が反応を示したのは、善人が『英雄の剣』を抜いたということだ。

 この数百年、『英雄の剣』を抜いた者は一人もいなかったのだから無理もない。


「ヨシトよ、『英雄の剣』を近くで見せてはくれぬか」


 国王の言葉に善人が頷くと国王の傍まで近づき、『英雄の剣』を見せる。


「おお! 間違いない。これはまさしく『英雄の剣』だ。私が生きている間に抜く者が現れるとは……」


 国王は、聖地ティルナノーグで地面に刺さった状態の『英雄の剣』を見ている。

 今、眼前にある剣は、その時に見たものと寸分違わぬものであった。

 何より、剣から発せられる神々しい輝きを見間違うはずなどない。


 それは、つい最近エリーを連れて聖地を訪れたマクギリアスも同様だった。


「ヨシト殿、『英雄の剣』を持ってみてもよいだろうか」


 マクギリアスも王国を守る騎士の1人である。

 抜いたのが自分ではなくとも、古くから伝わる伝説の剣だ。

 持ってみたいという思いは強かった。


「構いませんが……」


「何か問題でも?」


「そういうわけではないのですが……そうですね、実際に持っていただいたほうが分かるかと思います」


 何のことを言っているのか分からなかったマクギリアスだったが、『英雄の剣』を持った瞬間、善人の言わんとしていたことを理解した。


「なっ、なんだこの重さはっ!?」


 善人が支えてくれているものの、それでも凄まじい重さだ。

 もし完全に手を離されてしまったら……一人で持つ自信などマクギリアスにはなかった。


「どうやら剣を抜いた者にしか扱えないようなんです」


「そのようですね……」


 『英雄の剣』を片手で軽々と扱う姿を見て、マクギリアスは納得するしかなかった。

 ふと隣にいるロザリアを見れば、善人に熱い視線を送っている。


 そのことには触れず、マクギリアスは父である国王の傍に寄ると耳元に顔を近づけた。


「父上、どうにかしてヨシト殿とロザリアを婚約させることはできませんか」


「何故だ?」


「かの剣を抜くことの出来る者がこの先、現れるとお思いですか?」


「思わんな」


 国王は即答した。

 

「でしたら魔王を倒したらなどと言っている場合ではありません。魔王に敗れてしまう可能性もあり得るのですから」


「……気づいておったのか」


「当たり前です」


 善人の前に現れた魔族が魔王かもしれないとマクギリアスも気づいていた。

 そして、善人が魔王と対峙した場合、敗れるかもしれないとも考えていた。

 魔王に敗れるということは即ち死を意味する。

 

 今まで誰にも抜くことの出来なかった『英雄の剣』を善人は抜いたのだ。

 死なせてしまうのはあまりに惜しい。

 

 それに、可愛い妹の想いを叶えてやりたいという気持ちもあった。

 火傷のせいで今まで不憫な思いばかりしてきたのだ。

 どうせなら好きな相手と結ばれて欲しいとマクギリアスは思っていた。


「お父様、お兄様……どうされたのですか?」


 善人そっちのけでひそひそ話を始めた2人を不審に思ったロザリアが、眉をしかめた。


「なに、少しな。それよりもヨシトよ。そなたたちはこれからどうするつもりだ?」


「そうですね……魔界へ繋がる転移門は動かないままですし……」


「そちらはまだ調査に向かわせたばかりで、暫くかかりそうだ」


「祠がある場所までは遠いですし、仕方ありません」


 王都から祠までは馬車で片道2週間近くかかる。

 調査にどれくらいの時間が掛かるか分からないが、往復するだけで4週間だ。

 最低でも1か月以上かかるだろうと善人は考えていた。


「すまぬな」


「いえ」


「そうだ、待っている間は暇であろう。近衛騎士に稽古をつけてくれぬか」


「僕が、ですか?」


 善人はマクギリアスを見ながら言った。


 自分の剣は流派や型など一切ない、我流で鍛えたものだ。

 王国騎士団の団長を務めるマクギリアスの方がよほど適任な気がするのだが。


「私は既に何度も彼らの相手をしているんだよ。それに、勇者であるヨシト殿に稽古をつけてもらえれば騎士たちにとってもよい刺激になると思う。どうだろうか?」


「うーん」


 マクギリアスに言われても、善人は悩んでいた。

 自分が近衛騎士に稽古をつけている間、バッツたちはすることがないからだ。

 

「ヨシト、俺たちのことなら気にしなくていいぞ」


「そうだよ。こっちはこっちで久しぶりの休暇を楽しむからさ」


「ヨシト様がしたいようになさってください」


「皆……ありがとう」


 善人はバッツたちに礼を言うと、国王とマクギリアスに向き直る。


「僕でよければお引き受けします」

 

「そうかそうか!」


「ありがとうヨシト殿」


 国王とマクギリアスは満足そうな顔でお互いに頷き合った。


 ――転移門が直るまでが勝負だぞ。

 ――分かっています。


 2人がそのようなことを考えているなどと、善人はまるで考えていなかった。

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