表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/67

聖域を守護する者

「階段?」


 洞窟に入ってすぐ、善人(よしと)たちは下へ続く階段を発見した。

 周囲を見渡すが他に進むべき道はない。


「どうする?」


「他に道がないのなら進むしかないさ」


「だよな」


 バッツは苦笑する。

 彼とてここで引き返すつもりなど全く考えていない。

 

 先頭に立つバッツが盾を構えながらゆっくりと階段を下りる。

 善人たちも後に続く。


 階段を下りると石造りの通路が姿を現した。

 人が3人並んでもまだ余裕があるほどの、幅の広い通路だ。

 バッツは周囲を警戒しながら通路を進んでいく。

 

 警戒、といっても一本道なので前方に注意すればよいだけだ。

 

「何も出てこないわね」


「そう、ですね」


 ミレーヌの言葉に、テレサが同意する。

 進めど進めど同じ石造りの通路が続くのみ。


「静かに」


 善人が人差し指を口元に当てる。

 口をつぐみ、耳を澄ます。

 静寂に包まれた通路から聞こえてくるのは、自分たちの微かな呼吸音のみで、辺りの気配を探っても、魔物の気配はない。


「もう少し進んで、何もないようなら一度戻ろう」


 善人の言葉に、全員が黙ってうなずいた。

 

 それから歩みを進めていった善人たちだったが、その足がピタリと止まる。


「――こりゃ、いったいどういうことだ?」


 目の前の光景を信じることができず、バッツが声を漏らして後ろを振り返る。

 そこには、バッツと同様に困惑の表情を浮かべる3人の姿があった。


 バッツは深々と息を吐き、再び正面を向く。

 彼の瞳に映るのは石造りの壁だ。


 そう、壁なのだ。

 つまり、行き止まりである。

 他に進むべき道はなく、当然のことながら扉や階段も見当たらない。


「ヨシト、こいつはハズレかもしれねえぞ」


「ここには何かあると思ったんだけどな……」


 洞窟には何度か入った経験がある。

 魔物が現れることもあれば、時には宝箱を見つけることもあった。

 もちろん、何もないことだってあるのだが。


 森の中に不自然に存在する洞窟の中を進んでみたら、ただの行き止まりでした。

 そんなことがあるのだろうか。


 しかし、いくら考えたところで答えはでない。

 目の前は行き止まりなのだから。


「仕方ない。いったん戻ろうか」


 善人の言葉に、3人が同意しようとしたその瞬間。

 足下を眩い光が包んだ。


「――なに!?」


「これは!?」


 善人は目を細めながら足下を見る。

 自分たちの足下に魔法陣が浮かんでいるのが一瞬見えた。

 しかし、光は強さを増していき、あまりの明るさに耐え切れなくなった善人は目を閉じてしまう。


 そして、次に目を開けたとき、善人たちは真っ白な空間にいた。


「どこだ……ここは?」


 石造りの廊下にいたはずだった。

 それが、いつのまにか、違う場所へと移動していた。

 足下を見ると、地面に描かれた魔法陣が輝きを失っていくのが見える。

 魔界へ繋がるという転移門に描かれたものによく似ていた。


「飛ばされたってことか……いったい、何でこんなものが」


「戻れるんでしょうか?」


「……分からない」


 輝きは失っているものの、魔法陣は地面に残っている。

 ただし、もう一度乗ったところで同じことが起きるかどうかは分からない。

 かといって、この場に留まるわけにもいかなかった。


「行こうバッツ」


「おう」


 先ほどまでのように、バッツが先頭に立ち前へ進む。

 真っ白な空間はどこまでも続いているかに見えた。


 その時だ。

 善人たちの前方にいきなり姿を現したのは。


 上半身は人間のようでありながら太く強靭な腕を持ち、下半身は山羊に似た脚。

 背中にはコウモリのような翼に、鉤状の尻尾。

 巨大なツノを生やした顔が善人に向けられる。

 ギョロリとした、燃え盛る炎のような真っ赤な瞳が善人を捉えた。


 目が合った瞬間、背筋が冷えるような感覚が善人を襲う。


「どこから現れやがった……!?」


 咄嗟にバッツは盾を構え、善人は剣を抜く。

 ミレーヌとテレサもいつでも魔法が使えるように、臨戦態勢に入っていた。


 今まで善人たちが見たことのない魔物だ。

 いや、そもそも魔物なのかも怪しい。


「聖域に何の用だ?」


 突然、魔物が口を開いた。


「喋った!?」


 魔物が自分たちの言葉を話したことに善人たちは驚く。


「まあいい。誰であろうと、聖域に足を踏み入れた者を生かして帰すわけにはいかん」


「――‼ 待ってくれ!」


 だが、目の前の魔物は待ってはくれない。

 大きな口を開くと、体を震わせる咆哮を放ち、翼を広げたかと思うと、弾かれたようにその姿が動く。


 そして、一気に善人たちに迫った。


 速い!


 そう思った次の瞬間、魔物の剛腕がバッツの盾に叩きつけられる。


「……っぐぅ!?」


 その衝撃に、バッツは身体ごと吹き飛ばされそうになるが、テレサによって瞬時に展開された障壁魔法によって、何とか耐え凌いだ。


「はああっ!!」


 反射的に善人が『英雄の剣』を振るうと、剣閃が魔物に向かって飛んでいく。

 

「アアアアァ!?」


 魔物は苦悶の声をあげ、上体をのけぞらせた。

 そう、のけぞらせただけなのだ。


 レベル90の善人が、エリカによって強化を施された『英雄の剣』を使って攻撃したというのに。


 善人の攻撃によって、魔物の意識が善人に向けられる。


「貴様ァ……許さんぞ」


「!!」


 次の瞬間、魔物が目の前にいた。

 咄嗟に善人は、横っ飛びに回避して強靭な腕から逃れる。


 続いて返す刀で、とでもいうかのように、ムチのようにしなった尻尾が逆方向から善人に迫る。


 その先端が『英雄の剣』に命中した。

 テレサの障壁魔法があるといっても、バッツのように踏ん張っていたわけではない。

 

 魔物の攻撃を受けた善人は、弾丸のごとき勢いで吹き飛ばされた。


「ヨシト!!」


「ヨシト様っ!?」


 仲間たちの悲鳴にも似た叫び声があがる。

 

「終わりだっ!」


 善人を斬り裂こうと、魔物の強靭な腕が振り下ろされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ