その剣を抜くことが出来た者は絶大な力を得るという
約束の当日。
私は店まで迎えに来たマクギリアスの馬車に乗っていた。
先日、私がお城に行ったときに利用した馬車もそれなりに立派なものだったけれど、今乗っている馬車は比較にならない。
外装だけでなく内装まで豪華だし、5人以上はゆったりと座れるであろう広いスペース。
座席部分は柔らかく、それでいて適度に弾力があるので座り心地も抜群だ。
何より乗り心地がいい。
道は舗装されているのだが、地球のようにきれいに整地されているわけではない。
道のところどころに石が残っていたり、デコボコしていたりする。
にもかかわらず、揺れをまったくと言っていいほど感じないのだ。
これが王族パワーか、と感心しながら快適な最高級馬車に揺られていた。
マクギリアスの話によると、今向かっているのは聖地ティルナノーグと呼ばれる場所だという。
聖地のことはセバスから聞いたことがある。
3人の女神を崇める聖女神教が聖地と定めた場所であり、遥か昔に女神がその地に降り立ち、英雄に力を授けたのだとか。
その英雄の血を引く子孫が今の王族と言われている。
マクギリアスにとっても思い入れのある場所のようで、熱心に説明をしてくれているので耳を傾けていた。
聖地の中心にある小高い丘には、『英雄の剣』と呼ばれるものが地面に突き刺さっているらしい。
抜くことが出来た者は、絶大な力を得るという言い伝えがあるそうだ。
「私も何度か抜こうと挑戦したのだが、抜くことは出来なかったんだ」
「今でも十分マクギリアス様はお強いと思うのですが、力が欲しいのですか?」
「ああ」
マクギリアスは、当然だとでも言わんばかりに大きく頷いている。
「『英雄の剣』を抜くことが出来れば、勇者以上の強さが得られるかもしれないだろう?」
「言い伝えが真実であるのなら、あり得るかもしれませんわね。ですが、どうしてそこまで力を欲するのです? 何か理由でもおありになるのですか?」
見たところ、マクギリアスの力はドーピングを使用する前のアルベルトに匹敵する。
つまりレベル60クラスだ。
それだけの強さがあれば魔王でも相手にしない限り、命を落とすような状況に陥ることはないだろう。
「私は勇者の力に頼ることなく、自分の力で魔王を倒したいと考えているのだ」
「勇者の力を頼らず、ご自身で……?」
勇者に任せておけば、自分の身が危険にさらされることはないというのに、いったいなぜ?
「勇者を信じていないわけではない。確かに勇者駿の件は失望したが、それでも勇者善人のように信頼できる者もいる。彼ならば魔王を倒せるかもしれない」
「では、彼に任せておけばよろしいではありませんか」
「だが、彼らはあくまで女神に召喚された異世界人だ。この世界に生きてきた人間ではない」
「自分たちのことは自分たちで解決したい、そう仰るのですね」
「そういうことだ」
そう言って頷くマクギリアスは真剣な表情を浮かべていた。
人任せにしたくないという気概はいい。
ロザリアに「情けない」と言われていた人物だとは思えない。
私はマクギリアスの評価を上げる。
ただ、今のマクギリアスではレボルに会う前に、門番のアークデーモンにやられてしまうだろう。
「抜くことが出来るといいですわね」
「ああ。そうだ、エリー殿も挑戦してみてはどうだ?」
「私もですか」
この私の細腕で抜けると思っているのかしら?
「ああ、勘違いしないで欲しい。『英雄の剣』は誰にでも触れることができる場所にあるのだ。言ってしまえば観光地のようなものだ」
「観光地」
『英雄の剣』は王国にとって貴重なものだけど、誰にも抜くことが出来ない。
つまり、動かすことが出来ないのだ。
直接見て、触れることができるということもあって、訪れる者も多いらしい。
「そういうことであれば私も触れてみたいですね」
抜けるかどうかは別として、どういう素材でできているか興味がある。
「では、聖地に着いたら始めに向かうとしよう」
「ありがとうございます。聖地には後どれくらいで到着するのでしょうか?」
「そうだな……この速度だと後1日といったところだ」
「え……?」
待って。
お出かけとは聞いたけど、泊まりこみとは聞いてない。
「あの、それはさすがに困るといいますか……」
「そこは安心してほしい。途中に宿場町があるからそこで1泊するつもりだ。馬車に1日中乗っていたのでは体が疲れてしまうからな」
違う、そういうことが言いたかったわけじゃないの。
レボルには夜には戻ると言って出てきた。
何度もついてこようとしていたのを思い出す。
結局、カイルの「お兄ちゃん、おとなしくお留守番しよう?」という一言で決着がついたのだけど。
今さら帰りますというわけにもいかないし――マクギリアスに下心はないようだし、仕方ないわね。
問題はレボルのほうだけど……仮にも魔王なんだし、私が時間通りに戻らなかったくらいで取り乱したりはしないでしょう、たぶん。
私は馬車の窓から見える透き通った晴天の空と、一面に広がる草原を眺めながらそう思うことにした。
宿場町に到着すると、マクギリアスが用意した宿に案内された。
最高級の宿で、部屋にお風呂がついているタイプだ。
当然、部屋は別々である。
出された料理はとても美味しく、ベッドの寝心地もいい。
「誘いに応じてくれた礼だ」
マクギリアスはそう言って、宿泊にかかった費用を全て出してくれた。
だからというわけではないけれど、マクギリアスの評価を更に上げたのは言うまでもない。




