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仲間を呼んで戻ってくるパターンあるある

「我の女、ねえ」


 男の姿が小さくなったところで、私はレボルを見ながらポツリと呟いた。


「……あの場を穏便に切り上げるための手だ。お前が嫌だったの言うのであれば謝るが」


「いいえ、まったく。ただ、急に肩を抱かれたのには驚きましたけど」


「それは……気づいたら自然に手が動いていたのだ」


 羞恥からか、プイっと顔を背けるレボルの頬が僅かに紅潮していた。


「私を助けるためにしたことですし、許して差し上げますわ」


「そうか」


「ええ。ああ、お礼がまだでしたわね。ありがとうございました」


「いや、礼などいらぬ。我がそうしたかっただけだからな」


「それでは私の気が済みません。そうだ、せっかくですからどこかで食事でもしませんか? カイルくんもお腹が空いたでしょう? 美味しいご飯に興味はあるかしら?」


 レボルやカイルが人間と同じように食事を摂っていることは、魔王城で既に知っている。


 ただ、どうしても人間たちの食事に比べると栄養重視で味などは二の次だ。


 特にカイルくんは育ちざかりなのだし、美味しいものを食べさせてあげたかった。


「うん! 僕食べたい!」


「ふふ、正直でよろしい。じゃあ行きましょうか。さあ、レボル様も」


 私はカイルの左手を握り、レボルに呼び掛ける。


「お兄ちゃん、行こう!」


 カイルがレボルに向かって右手を出す。

 レボルは差し出されたカイルの右手を握り、私たちは3人並んで歩み始めた。


「えへへ」


 カイルが私とレボルの顔を交互に見ながら笑みを溢す。

 とても幸せそうな顔だ。


「どうしたの?」


「えへへ。うんとね、こうして手を繋いでいたら僕たち家族に見えるのかなって」


「ばっ、な、何を言っておるのだ、カイル!」


「ふふ、見えるかもしれないわね」


 カイルを挟んで手を繋いで歩いているのだ。

 傍から見れば家族に見えてもおかしくはないだろう。


「あれ? お兄ちゃん、顔が赤いけどどうしたの?」


「どうしたんですか?」


 カイルは分かっていないようだけど、私は違う。

 何故レボルが赤面しているかなどお見通しである。

 知らない振りをして問いかけているのだ。

 

「……何でもない」


 レボルはそう言って黙り込んでしまった。


「本当ですか?」


「う……。そんなことより行く当てはあるのか?」


 露骨に話を変えてきたわね。

 まあ、あまりいじめるのもよくないし、この辺りにしておきましょうか。


「もちろんですとも」


 王都のありとあらゆるお店は全て網羅している。

 

 ――私ではなく、セバスの頭の中にだけど。


 聖女神教会に向かって10分ほど歩くと、セバス一押しの料理店に到着した。


 青い屋根の店に入ると、店員の案内で一番奥のテーブルに座る。


 メニューを広げると、どうやら庶民的なものが多いらしい。


「さて、何を頼みましょうか?」


「エリーに任せる。我もカイルもメニューが読めんからな」


 そうだった。

 言葉自体は同じように話せても、文字まで読めるわけではない。


 私の場合は、解読スキルがあるので文字も言語も問題ないのだけど。


「それでしたらいくつか適当に頼んで分けるというのはいかがですか?」


「それで構わん」


「僕も!」


 通りがかった店員を呼び止め、メニューを広げながら注文をする。


「ワイルドボアの串焼きと、魚の香草焼きを3つずつ。それとポテトの塩コショウ揚げをお願いします」


 店員が去ってしばらくすると、料理が届く。


「さあ、冷めないうちに食べましょう」


 魚の香草焼きを口にすると、外はカリっと中はフワッと柔らかい。

 白身だが味は鮭によく似ていた。


 セバスの選んだ店だけあって、味は申し分ない。

 それはレボルとカイルの表情を見れば一目瞭然だった。


 特にカイルはポテトが気に入ったようで、どんどんつまんでいる。


 ポテトフライって手が止まらなくなるのよね。


「お口に合ったようでよかったですわ。それにしても、目立ちますね。いえ、元は良いのですから当然と言えば当然ですか」


「何のことだ?」


「レボル様の御姿のことですよ。通りを歩いていたら女性が何人も振り向いていたでしょう?」


「我の見た目のことを言っているのか? 珍しかっただけであろう」


 他の人間の男性が聞いたら全力で抗議されそうな台詞だが、本人はいたって真面目だ。


 肌や角が生えているといった違いこそあれ、レボルは元々美形だ。

 今の姿はあくまで人間との違いを隠しているに過ぎない。


 美しい容姿に目を奪われてしまう者がいるのは当然のことだった。


「我のことを言うのであればエリー、お前もだぞ」


「私もですか?」


 私がそう言うと、レボルは深いため息をついた。


「……本当にお前というやつは……先ほどの男がどのような目でエリーを見ていたのか、分からぬはずがあるまい。奴だけではない。他に何人も同じような視線をお前に向けていたのだぞ」


「ええ、もちろん知っています」


 あの手の視線は元の世界でも嫌と言うほど受けている。


 だけど、そういった輩は遠目で見ているだけで、さっきの男みたいに実際に行動に移す者はごく稀だ。


 行動に移そうとした者だって、事前にセバスやアンが処理してくれていたので気に留めていなかった。


「あの手の視線には慣れていますし、気にしていません」


 それに。


「私をどうにかできる方などいると思ってらっしゃいますか?」


「エリーの強さはよく知っているとも。お前なら誰であろうと負けはしないだろう。だが、そうではない。そうではないのだ」


 レボルは片手で頭を掻いた。


「? どうされたのです?」


「……我が耐えられないのだ」


「……はい?」


 私がこてりと首を傾げると、レボルは目を見開きハッとしたような表情をして口元を手で抑える。


「な、何でもない。今の言葉は忘れろ」


「忘れろと言われましても気になるのですけど」


「いいから忘れろ! ただの戯言だ!」


 私の言葉にあたふたと焦るレボル。


 忘れろと言われても、ねえ。

 いや、どのみち貴方の気持ちには気づいていますよ。

 私がただ気づいていないふりをしているだけで。


 この話題は終わりと言わんばかりに、レボルは黙々と料理を食べていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 すべての料理を食べ終えた私たちは、店を後にした。


「お姉ちゃん、ありがとう!」


「ふふ、どういたしまして」


 店を出てからもしばらくは王都を歩き回った。

 王都関連は基本的にセバスに任せっきりだったから、こうして出歩くというのは新鮮だ。


 レボルとカイルが一緒にいて、会話をしながらというのも大きい。

 

 何かを見つけるたびに表情を変えるカイルは見ていて楽しいし、すれ違う男を牽制するように私の隣に歩くレボルもまた面白かった。


 気づけば、いつのまにか夕暮れから夜へと変わりつつある時間になっていた。


「そろそろ戻りましょうか」


「ええ~、もう帰るの?」


 カイルが悲し気な表情を浮かべる。


「また連れてきてあげるから、今日は帰りましょう。ねっ?」


「うん……わかった」


「いい子ね」


 カイルがここまで王都を気に入るとは思わなかった。

 まあずっと魔王城にいたのでは退屈なんでしょうけど。


 王都は治安がいいとセバスが言っていた。

 それでも、まったく犯罪が無いわけではない。


 痴漢や強盗をする者も当然いる。


 こういった犯罪に手を染めるのは冒険者くずれが多いらしい。


 現れたところで私やレボルには何の問題もないのだが、昼間に冒険者に絡まれたばかりだ。


 完全に暗くなる前に魔王城に戻ってしまいたかった。


 ただ、道中で転移を使うのは人目につく。


 私たちは自分の経営する店に向かって歩き始める。


 店の明かりは点いているものの外は薄暗いため、行き交う人の顔は見えにくい。


 しばらく進むと、少し離れた場所からぴったり後をついてきている者がいることに気づく。


「……レボル様」


「ああ」


 レボルが頷く。

 どうやら彼も気づいたようだ。


 右に曲がって路地裏に入る。


 すると、後ろから4人の男が姿を現した。


「よう、色男。さっきは世話になったな」


「へえ、こいつは驚いた。すげえ美人な姉ちゃんじゃねーか」


 1人は見覚えのある顔だった。

 昼間に絡んできた冒険者の男だ。


「……エリー、ここは我に任せるがいい。カイルを連れて先に行け」


 レボルが男たちの前に立つ。


「レボル様、それはちょっと無理かもしれません」


「なに?」


 私の言葉にレボルが振り返る。


 すると、そこには新たに4人の男の姿があった。

 男たちの手には剣が握られており、嘲るような笑みを浮かべていた。

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