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気になるあの子の名前は……?

 いったい何が起きたというのか。


 マクギリアスは目の前の出来事をすぐに信じることができなかった。

  

 目の前に突然現れた少女が、駿(しゅん)とアルベルトを相手に勝利したのだ。


 どのようにすれば、あの華奢(きゃしゃ)な体で2人を倒すことができるというのか。


 いくら考えてもマクギリアスには理解が出来なかった。


 何故なら、3人の攻防を後ろで見ていたマクギリアスも、少女の動きを捉えることはできなかったのだ。


 2人が少女に攻撃を仕掛けたと思ったら、少女は2人の背後に回っていて、そして次の瞬間には2人とも地面に倒れていた。


 見えなかったが、しかし間違いなくこれは少女がやったことだ。


 マクギリアスの直感がそう告げていた。


 と、その時。


「さて――」


 少女はマクギリアスの方へ振り向く。


 ――なんと美しい。


 息を呑むほどの美貌(びぼう)を目にしたマクギリアスは、ただ呆然と立ち尽くすのみだった。


 マクギリアスはフロイゼンの第一王子、ゆくゆくは国王となる身だ。

 これまでに幾度も城で開かれた舞踏会で、貴族の子女と面会をしている。


 舞踏会に来ていた女性は自分より下か、もしくは近い年齢ばかり。


 それが自分の婚約者を決めるためのものだったと気づくのに、そう時間はかからなかった。


 今までに数多くの女性が婚約を求めてきたし、国のことを考えれば結婚が大事なことくらいは理解している。


 だからこそ婚約者を決めなければと、2人きりで女性と話をしたことも何度かある。


 しかし、ダメだった。


 会話をする中で、女性が楽しそうに笑っていても、マクギリアス自身の心はどこか満たされることはなく、好きという気持ちにもなれなかった。


 もちろん、自分の立場を考えれば好きだとか嫌いだからという理由で、婚約者を決めることなどできない。


 それは分かっている。


 ただ、どうしても心から結婚したいと思える相手に出会うことができなかった。


 だが、周囲はそんなマクギリアスの気持ちなど知る由もなく、次から次へ婚約を求める女性は後を絶たない。

 

 マクギリアスは周囲のプレッシャーに耐え切れなくなり、16歳の誕生日を迎えたその日に、逃げ出すようにこの砦にやってきて指揮を執るようになったのだ。


 亜人たちから国境を守るため、ただひたすらに前線に立ち続けて5年が経った。


 そして今日、マクギリアスは少女と出会う。


 着飾っているわけでも、化粧を施しているわけでもないが、目を奪われる美が彼女にはあった。


 この感情はいったい――?


 そんなマクギリアスの心を知ってか知らずか、少女は一歩、歩み寄った。


「外にいる彼らも邪魔ですわね」


 そういうと、そのまま窓に向かって手を伸ばす。


「いったい何を――」


 マクギリアスが言いかけたその時、少女の伸ばした手の先から多数の魔法陣が展開された。


 1つの魔法陣は見たことはあるが、これほど多くの魔法陣を、たった1人で展開するなど見たことがない。


 展開された魔法陣の数はおよそ100、すべて(てのひら)サイズの小規模なものだ。


 その小規模な魔法陣に施された文様に、グルグルと魔力が満ちていく。


 魔力が満ちた魔法陣は眩い輝きを放つ。


 そして、全ての魔法陣が魔力で満たされたそのとき。


「縛りなさい」


 少女の言葉とともに魔法陣が一斉に消え去る。


 部屋には何も変化がない。


 しかし、次の瞬間。


 マクギリアスの耳に悲鳴が届いた。


「なんだ、これは!?」


「ぐわっ! う、動けない……!!」


 窓の外からだ。


 マクギリアスは窓を開け、外の様子を見る。


 すると、そこには光る紐のようなもので体の自由を奪われた騎士たちが倒れていた。


 ただ、よく見ると拘束されているのは皆、駿とアルベルトが連れてきた騎士ばかりだ。


「これでもう安心ですわ」


「……あの人数を一度に……」


 マクギリアスが呟く。


 先ほどの魔法陣によるものだということは理解できる。

 

 100人もの騎士を一斉に拘束する魔法。

 

 どうやってこれほどの魔法を、その若さで得ることができたのか。

 

 やはり理解できなかった。


「後はお任せしてもよろしくて?」


「ま、待ってくれ! 君はいったい何者なんだ、なんで私を助けてくれたんだ?」


 王子である自分を、いや、今回のことは国を救ったことにも等しい。


 英雄と呼ばれるような行いだ。


 にもかかわらず、少女はこの場を去ろうとしている。


 少女に聞きたいことがたくさんあった。

 

 どこからやってきたのか、名前はなんというのか。


 どこに行けば貴女とまた会うことができるのか、と。


 最後の考えは明らかに現在の状況からすれば、おかしい考えではあったが、マクギリアスは気付いていなかった。


「申し訳ございません。お話しすることはできませんの」


 ほんの少し申し訳なさそうな顔で少女はそう言うと、何か思い出したように再び口を開く。


「そうそう、ここでの出来事は私と王子様だけの秘密にしていてくださると嬉しいですわ」


 「他の方には秘密でお願いしますね」と、片方の目を閉じたかと思うと、少女はマクギリアスの前から姿を消した。

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