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人の欲望は果てしない

話に矛盾している箇所がありましたので、内容を若干修正しております。

 東の平原を走る馬車があった。


 馬車には、若い男が1人と若い女が3人、そして壮年の男が乗っていた。


「まったく……困りますよ。あと少しだったのに」


 定森駿(しゅん)は目の前に座るアルベルト伯爵に愚痴をこぼす。

 牢から逃げ出した時点で国王から爵位を剥奪されているので、厳密に言えば『元』伯爵なのだが。


「すまん」


「相手は善人(よしと)たちだけだったのでしょう?」


 駿が興味2割、疑問8割といった眼差しでアルベルトを見た。


 アルベルトの実力は駿もよく知っている。


 レベル60のアルベルトと、近衛騎士に匹敵する100人近い私兵。


 自分の計画に役立つと判断したからこそ、アルベルトと手を組んでいるのだ。


 近衛騎士団の副団長ヒルデガルドには、アルベルト伯爵の屋敷に近づく男性騎士がいれば邪魔をするように伝えていた。

 

 仮に男性騎士が何人か屋敷にたどり着いたとしても、十分対処できる戦力のはずだった。


 善人のレベルは高いとはいえ、たった4人で壊滅させられたなど、駿には信じることができなかった。


「いや、それがよく覚えていないのだ。気が付いた時には捕らえられていた。何を言っているのか分からないと思うが……」


 その時のことを思い出そうとすると、頭に痛みが走るのだ。

 まるで思い出してはならないと、本能が警鐘を鳴らしているかのように。


 アルベルトは一瞬表情を曇らせたあと、首を左右に振った。

 

「善人をそこまでの力があるとは思えませんが……安心してください。今回は僕がいます。善人のパーティにいる女性を盾に使えばお優しい善人のことです。簡単に無力化できるでしょう」


「……魅了、か。だが、パーティのヨシトに対する信頼は厚いと聞く。もし効かなかったらどうするのだ?」


 アルベルトが疑問を投げかけるが、駿は鼻で笑う。


「フフ、心配することはありません。どれだけ信頼し合っていようと、女性である限り僕の魅了から逃れることはできません。必ずかかります」


 駿が女神フローヴァから与えられた魅了。

 ベルガストにやって来て、国王からパーティメンバーを紹介されたその日にすぐ使用した。


 最初は手を握ることから始め、次に太ももに触れる。

 それから徐々にきわどい命令をすることで、どの命令なら言うとおりに動くのか効果を調べていった。

 

 ある程度、試したあとはメンバー以外の女性にも積極的に話しかけ、その都度魅了をかけていく。

 ヒルデガルドもその中の1人だ。

 

 その結果として分かったことは、魅了にかかった女性はどんな命令であろうと疑うことなく行動する。

 人数に制限もないし、使用する際の制約もない。


 どれだけ気の強い女性だろうと、反対に気の弱い女性だろうと、駿の命令通りに行動するのだ。


 駿は歓喜する。

 それは駿が元の世界で夢見ていたことであった。


 彼は非常に支配欲の強い人間だったのだ。


 勇者という称号とそれに見合った力、そして女性。

 この国で確固たる地位に就いた駿だったが、この程度で満足するような男ではなかった。


 人間の欲というものには限りがない。

 他人から見れば羨ましいと思える状況だが、彼は更に上を目指していた。


 駿が次に狙っているのはこの国そのものである。

 それが手に届くところまできていることを、駿は理解していた。


 国王を通して入手した白ポーションをもとに魔物を倒し、駿のレベルは60になっていたし、仲間のレベルも50まであと少しになっている。


 加えてアルベルトとその私兵たち、そして魅了によって操り人形と化した近衛騎士団の女性騎士たち。


 これだけでも十分過ぎる戦力ではあるが、駿は更に王妃に魅了をかけ、王妃の息のかかった貴族を掌握していた。


 だが、障害もある。


 自分以外の2人の勇者の存在と、亜人の国を監視している第一王子マクギリアス率いる騎士団だ。

 

 いくら貴族を掌握し、国王を亡き者にしたとしても、マクギリアスを次の国王に選ぶ民は多いだろう。

 先頭に立ち、亜人の脅威を食い止めているのだから。


 2人の勇者も邪魔だった。

 特に善人は成長著しく、あれだけあったレベル差があっという間に追い抜かれてしまった。


 この国のトップを目指す駿にとって、3人をどうにかしなければならない。

 自分の持つ駒とアルベルトの持つ戦力だけでは不安があったのだ。


 だからこそ、第一王女のロザリアをいったん亜人たちに引き渡し、身柄をと引き換えに国境の要となっている砦を解放させることで、亜人の力を借りて外と内から挟撃を仕掛けようと考えていた。


 数は力だ。

 厄介な善人と鋼太郎(こうたろう)は、亜人やアルベルトたちに任せておけばいい。


 混乱に乗じて国王とマクギリアスを抑えることができれば、駿の目的は達成されたも同然だ。


 王妃は魅了にかかっているし、後はロザリアも魅了にかけて自分の妻にすれば、王家の血が途絶えることもない。


 多少怪しまれようとも王妃とロザリアの協力を得られれば、押し切れる。


 アルベルトの屋敷を襲撃した者たちのせいでロザリアは助け出され、砦の開放は別の方法を余儀なくされてしまったが、問題ない。


 アルベルトを助け出す際に、私兵も解放するようにヒルデガルドに命じていた。

 怪しまれない為に近衛騎士が身に着けている鎧を着せて、だ。


 今も馬車の外にはアルベルトの私兵が馬に乗って並走している。


 砦にはアルベルトがロザリアを攫ったという情報は入っていない。


 適当な理由をつけて砦に入り、隙を見てアルベルトと2人がかりでマクギリアスを抑える。


 マクギリアスを人質として砦にいる兵士に見せつければ、砦は機能しなくなる。

 それから亜人たちに合図を出せば、瞬く間に砦は陥落するだろう。


 後は何食わぬ顔で国に戻り、国王を討てばいいだけだ。


 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 数時間後、駿とアルベルトは砦の中にある一室に通されていた。


 目の前には砦の指揮官であり、この国の第一王子であるマクギリアスが椅子に腰かけている。


 マクギリアスには、睨み合いが続いている亜人たちが大規模な侵攻を開始するという情報を入手したと伝えている。


「それは確かな情報ですか?」


 ここ最近の亜人たちの動きは静かなもので、戦闘は小規模なものばかりだった。

 侵攻を開始すると言われても、マクギリアスには信じられなかった。


 疑いの眼差しを投げかけられても、駿は動じなかった。

 懐から一通の手紙を抜き出すと、マクギリアスの前に差し出してにこやかな笑みを浮かべる。


「こちらをお読みください」


「……こ、これは!?」


 マクギリアスが驚きの声を上げる。


 手紙の内容は、駿が告げたことが確かであると記されていたのだ。

 近衛騎士団副団長、ヒルデガルドの名前が添えてあった。


 ヒルデガルドの部隊の中には、諜報任務に就いている騎士もいる。


 そのトップである彼女が言うのであれば。

 マクギリアスは信じてしまった。

 

 実際は駿がヒルデガルドに命じて書かせた嘘の内容だとも知らずに。


「貴重な情報をありがとうございます。攻めてくるのが分かっていれば対処もしやすい。勇者であるシュン殿も一緒なら、これほど心強いことはありません」


「いえいえ。お世話になっている国ですからね。少しでも皆さんの力になれればと思っています」


 駿は笑みを深める。

 勝利を確信した笑みだった。


 スッとマクギリアスは立ち上がると、窓の外に目を向ける。


「その言葉を外にいる者たちにも伝えてほしいですね。きっと喜びます」


 隙だらけの背中だ。

 やるなら今しかない。


 駿はアルベルトを見る。

 示し合わせたかのように頷き合うと、2人はゆっくりと立ち上がった。


 剣を抜き、振り上げる。

 そして、無防備なマクギリアスの背中目掛けて2人同時に振り下ろした。


 しかし、2人の剣がマクギリアスに届くことはなかった。


 ――なぜなら。


「ごきげんよう。またお会いしましたわね」


 突然、目の前に少女が現れる。


 少女は2人が振り下ろした剣を指で止めていた。

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