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ポーションは金のなる木

 私の読みは当たった。

 いや、当たり過ぎてしまったと言うべきだろうか。


 セバスに渡した白ポーションの効果を目の当たりにした冒険者たちは、セバスに「どこで手に入るんだ!?」と殺到した。


 無理もない。

 今まで回復魔法でしか治らなかったような傷を、白い液体――しかも、わずかな量で瞬時に治してしまったのだ。


 冒険者は危険と隣り合わせだ、喉から手が出るほど欲しいアイテムだろう。

 神官の魔力切れを起こしたとしても、戦闘を続けることができるのだから。

 

 まあ、白ポーションは傷はどれだけ深くても効果があるけど、四肢や臓器の欠損には効果がないから無理は禁物だけど。


 セバスには私の指示通りに、ギルド近くの店で販売を始めると宣伝をしてもらった。


 店の開店資金をどうやって捻出したかというと、魔王城近くの魔物を狩って得た魔石だ。


 召喚用の実験で余ったものだけど、高い値段で買い取ってもらえた。

 さすが魔王城付近に現れる魔物といったところか。


 翌日からセバスに店を開けてもらい、白ポーションの販売を始めた。

 すると、さっそくギルドで実際に効果を見た冒険者たちが買いにやってきた。


 ちなみに1本の値段は銀貨5枚、1パーティにつき1本まで。

 

 この世界では銅貨、銀貨、金貨、大金貨、白金貨が存在している。

 銅貨30枚で銀貨1枚、銀貨30枚で金貨1枚、金貨10枚で大金貨1枚、大金貨10枚で白金貨1枚の価値があるそうだ。


 銀貨5枚あれば一泊二食付きでそれなりの宿に泊まれるとは、セバスの調べである。


 少し高いかなとも思ったけど、それは杞憂だった。


 10本ほど用意してセバスに渡していたのだが、あっという間に売り切れてしまったのだ。

 銀貨5枚で命が買えるのなら、安いのかもしれない。


 次の日も10本用意していたけれど、やはりすぐに売り切れてしまう。

 それどころか冒険者たちの口コミで、日を追うごとに店には白ポーションを買い求める客が増えていった。


 白ポーション恐るべし。


 でも、いいのかしら。

 元手はほとんど掛かっていないのよね。

 前世で大量に採取したものをアイテムボックスに入れていただけだし。


 ほんの少しだけ罪悪感を覚える。


 白ポーションのほかにも、人体の欠損も治せる赤ポーションや、魔力を回復できる青ポーションも作ることができるけど、いまはやめておいた方がいいかもしれない。


 白ポーションですら、こうしてすぐに売り切れてしまうのだ。

 赤ポーションと青ポーションまで世に出してしまうと、バランスが崩れてしまうかもしれない。


 ……もう、既に崩れ始めてるのかもしれないけれど。


 それに、あまり目立ちすぎるのもよくない。


 冒険者たちはこうして普通に買ってくれるけど、お金に意地汚い者には大儲けするチャンスに見えるだろう。


 店で買う以外の方法を取ることだって考えられる。

 白ポーションを売っているのは、初老の男なのだから。

 脅せばどうとでもなると思われるかもしれない。


 だけど、少し遅かった。


 白ポーションを売り始めて6日目の朝。


「店に賊が侵入しました」


 定時連絡と一緒に報告を受ける。


 忍び込んだ賊は5人。

 目当ては白ポーション――ではなく、セバス。


 セバスを捕らえて製造方法を聞き出そうと考えたそうだけど。

 

「今こうして私に連絡してきているということは、何の問題もなかったということよね?」


「もちろんでございます」


 セバスが普通の人間なら、賊の思惑通りに進んだでしょう。


 でも、セバスはアークデーモンを軽くあしらえる実力の持ち主だ。

 街のゴロツキ程度の実力しかない賊が5人襲い掛かったところで、セバスの敵ではない。


「賊だけど、彼らが主犯なのかしら? 誰かの後ろ盾でもあったんじゃない?」


「さすがはお嬢様。捕まえた賊を尋問しましたところ、どうやら貴族が糸を引いているようです」


「へえ」


 この街には国王もいるというのに……いえ、噂が国王の耳に入る前に製造方法を独占すれば、莫大なお金が手に入る。

 それに白ポーションを献上すれば、国王の覚えもめでたいでしょうね。

 

「面倒ね」


 私が言う面倒とは、貴族だから手を出すと厄介だ、というものではない。


 ほかにも同じことを考える貴族が現れるのではないか、と思ったからだ。


 別に私たちはこの世界の人間ではないのだし、相手が貴族だからといって媚びへつらう必要などない。


 ただ、賊を撃退し、送り込んできた貴族を始末しても、別の貴族が現れたのでは同じことだ。


「アンをそちらに送ったとしても――同じことでしょうね」


「恐らくは」


 セバスやアンは何の後ろ盾もないのだから貴族は手を出そうとするだろう。

 

 貴族たちからしたら、このポーションは金のなる木だ。

 どんどん群がってくるはず。


 なら、それを逆手にとってしまいましょうか。


「セバス」


「はっ」


「白ポーションを今日から30本に増やすから、どんどん広めてちょうだい。その間も賊がやってくるかもしれないけれど」


「何も問題はございません、お任せください」


「ごめんなさいね」


 そう言って、転移魔法で白ポーションをセバスのところへ送る。


 私の考えが正しければ、そう時間もかからずに動きがあるはず……。


 ふふ、楽しみだわ。

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