変わってゆく日常
いよいよ待ちに待った夏祭り当日。
浴衣で行きたかったが、今の自分に合う浴衣は持っていないし、新しい浴衣を買うにもお金が無かったので、ジーパンにTシャツと気に入っているパーカーという、なんとも言い難い格好で由紀の家の前で待っていた。
仕方ないのだ、タンスの中は、ほとんどパーカーで埋め尽くされているのだから…
「ごめん、着付けに時間かかっちゃって遅れちゃった」
由紀は白い生地に赤い花の模様が入った可愛いらしい浴衣姿で自宅から出てきた。
「どう?似合う?」
「うん!か、可愛い…と、思う」
調子乗って『可愛い』なんて言ったら、俺が由紀の事が好きなの本人にバレちゃうんじゃね?とドキドキしていると
「そっか、ふふ、ありがと」
と、由紀が可愛い笑顔を向けてきた。
「さ、早く行こ!お腹すいてきちゃった。私、たこ焼き食べたい!」
「あ、うん、俺も食べたいかも」
「ってゆーか、通は浴衣着てこなかったんだぁ〜、見たかったなぁ〜通の浴衣」
「いや、持ってなくてさ…小学生の頃のやつしか…」
「そうなんだ、残念」
会場は沢山の人で賑わっており、目当てのたこ焼き屋の前には長蛇の列ができていた。
夏休みの4分の3を部屋で過ごした俺にとっては、かなりの試練であった。
「うわぁ、これ並ぶの…きっつ」
「ほらほら、文句言わない」
俺と由紀は他にも金魚すくいや射的などで夏祭りを十分に満喫し、残すイベントは19時半に行われる花火大会だけになっていた。
花火が見えやすいようになるべく人気の少ない所に移動し、近くにあったベンチに腰をかけた。
「夏休みももうそろそろ終わっちゃうね〜」
「そうだな、あと1週間ってとこか…」
「通、宿題終わったの?」
「急に現実に引き戻すなよ…あと英語が数ページ…」
「あらら〜、計画的にやりなさいよ」
「親かっ!」
こんなに幸せな時間が他にあるのだろうか。好きな人と2人の夏祭り、花火が上がるまでの談笑。
きっと何か前世で良い行いをしたに違いない。
花火大会開始のアナウンスの数十秒後に色彩豊かな花が暗い夜空を彩らせ、そして、スーっと闇に消えていった。
「あのさ、通…私、通に言いたかった事があるんだけど…」
「ん?」
「いや、やっぱり、いいや」
「そこまで言われると気になるんだけど…」
「じゃあ、明日は時間ある?」
「ある、けど…明日聞かされるの?」
「うん。明日言うね」
「まぁ、いいけどさ」
とにかく明日も由紀と会えるという口実が出来たのは良しとして、このモヤモヤする気持ちは飲み込んだ。
花火大会も終わり、2人並んで会場から家に歩く道のりは、二人とも口数が少なくて、お互いがそれとなくお互いを意識していた。
『明日』聞かされる言葉がなんとなく分かった気がした。
しかし、その言葉を聞かされることは無かった。
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外から聞こえる大勢の話し声に起こされた時、まだ寝ぼけている目を開けるとカーテンから太陽とは違う異様な光が差し込んでいた。
嫌な予感がした
勢いよくカーテンを開けると、そこには真っ赤に燃え盛る炎があった。