Tap2-2
「お姉さんもソシャゲやるんですか?」
うちでは誰もやらないから、ソシャゲを遊ぶ大人というだけで僕にとってはちょっと珍しい。先生たちの中では遊ぶ人もいるという噂があるけど、学校ではゲームをやってはいけないことになっているせいか、先生たちとゲームの話をすることはまずないのだ。
「はい、大好きです♪ ず~っとやってますよ」
ガチャ子と名乗った謎のお姉さんは、そう答えると足元のバッグをパチンと開いた。
ずっとって、小さい頃からずっとという意味だろうか?
ソシャゲってそんなに昔からあるのかな、などと考えていた僕の前に、お姉さんはきらきら光るきれいなケースに入ったスマホを見せてくれた。
「今も小人さんに周回してもらってます。最近は小人さんの設定が細かくできるソシャゲが多くって、お姉さんは楽できてとっても嬉しいんですよ」
「……?」
画面に映っているのは僕の知らないソシャゲだったけど、すごいスピードで味方キャラクターが行動して敵を倒しているのがわかった。
自動で行動する設定にして、放置していたということになる。
僕と話をしているあいだも、お姉さんはバッグの中でソシャゲをやっていたのか……。それって大人としてどうなんだろう。
いや、やっていたのはお姉さんじゃなくて小人かもしれないけど……。
「マジでやべえやつじゃん」
「あはは、便利すぎてやべえです」
言葉を選んで黙り込んだ僕の横で、ふたりが会話を始めた。
お姉さんは「やべえ」が気に入ったのか、にっこにこで両手を開いて「やべえやべえ」と連呼している。褒められたわけじゃないですよ?
僕の視線に気づいたお姉さんは、コホンと嘘っぽい咳払いをして、
「――それでは、まずおふたりのユーザーネームを教えていただけますか?」
そう言ってきりっと決め顔をした。
でも、もうちゃんとした大人には見えないのはなぜだろう。
「ほらほら、おふたりのユーザーネームですよ。ソシャゲで使っているお名前を教えてください」
僕たちの不審の目をごまかすように促すと、
「あ、ユーザーネームってそういうことね。俺は♰ケイオス♰って名乗ってる」
「ダブル……?」
「記号は見た目でつけたから、ケイオスでいいよ」
ケイ……いや、ケイオスはそう答えた。物怖じしないやつだ。
「僕はまだリセマラの途中だから……」
「リセマラの時点では名前を入力しないタイプのソシャゲですか?」
今はそういうのもあるのでしょうか、と興味津々のお姉さん。本当にソシャゲのことなら何でも気になるといった雰囲気だ。
「ううん、あとで変えればいいと思って仮の名前なんです。最初は名字をそのまま入れてたんだけど、ケイ……ケイオスがちょっとは捻っとけって言うから、とりあえずサハラ」
「ちょっと捻ってサハラさん……」
そう言ってお姉さんは頭を抱える。
「本名を詮索なんてものすごく野暮だとわかっているのに、こうやってクイズっぽい感じに言われるとど~しても考えてしまいます。ごめんなさいごめんなさい」
「あ、単純です。キーボードの――」
「キャー! ネタバレはもっとやめて~」
足をジタバタしだした。
この大人……いやもう大人って言っていいのかすらわからなくなってきた。
しばらく苦しんだお姉さんだったけど、
「はい、お姉さん鋭いのでわかっちゃいました♪ サハラさんのヒントは道路を行き交う車の音とかそういうやつで聞こえなかったので完全に自力です。ずばり、スマホのキーボードの縦読みですね? あたま・かなや・さはら」
つまり本名はアタマさんです!などとボケて、ひとりで笑っている。
僕のヒントがあったにしても、正解にたどり着いたのは結構すごいような気もするけど。
「あの……僕、リセマラの続きやっていいですか?」
「もちろんですよ、サハラさん」
話が長くなりそうだし、リセマラしながら聞くことにしよう。