Tap1-5
ソシャゲの才能、と千夜子さんは言った。
才能……才能?
まるでピンとこない。
そんな俺に、彼女は説明を加える。
「私は、ソシャゲってお料理に似てるなって思うんです。お料理教室でのお料理ではなく、おうちでお料理する家庭料理のほうです」
いやこれ、説明か? いきなり突飛な例えが出てきた。
というか、
「料理教室で習うのは家庭料理だろう。同じだ」
気になってつい茶々を入れてしまった。
しかし、そんな俺に千夜子さんは、
「へっへー」
と想定どおりのツッコミとばかりに子どもっぽく勝ち誇り、
「おうちでお料理するときに大事なのは、工夫なんですよ」
そう言って人差し指で自分のこめかみを指して見せる。
「お料理教室では、作ろうとしているお料理に対応する材料があらかじめ用意されています。でも、おうちでは必ずしもそうはいかないんです。それこそ、先ほどユージさんがおっしゃったように〝ありもの〟を駆使して作りたい料理に近づける工夫が必要になってきます」
「なるほど。レシピどおりに買っていれば同じだけど、売り切れだったり、今あるものを使ってしまいたかったりすると、そうもいかない」
「はい♪ 実際にお料理しているとそういうことのほうが多いくらいです。このあいだも、オイスターソースをうっかり切らしてしまいまして、お好み焼きソースにかつおだしで魚介の風味をつけてどうにかそれっぽくできないか挑戦しました」
ミステリアスな衣装で家庭的なことを言い出す千夜子さんが面白くて、俺は思わず噴き出してしまった。ティアラとイヤリングをつけ、ごてごてしい指輪だらけの手で料理をする彼女を想像してしまう。
「それって美味しかった?」
「秘密です」
千夜子さんも破顔する。
「でも――」
ふたりですこし笑った後、千夜子さんが続ける。
「でも、こういう工夫を楽しいって思える人と、思えない人がいるんですよ」
「ああそれは、わかる気がする」
レシピに書かれている食材がないと不安になる人。
違うもので妥協することが許せない人。
自分の感覚より、レシピというお手本を信じたい人。
失敗を、したくない人。
マニュアル人間とまでは言いたくないが、「こんなことに頭を使いたくない」という感じで、工夫することにストレスを抱くタイプの人間は結構いそうだ。
「そこで、ソシャゲの話に戻りますが――もうおわかりですよね?」
「料理の材料が、手持ちのキャラってことだよな」
「正解です」
女神のような笑顔。
「ユージさんは、難易度が急に上がった世界において、そこまで強くないお手持ちのキャラをああでもないこうでもないと工夫することで切り抜けてきました。誰も考えたことのないパーティだったかもしれません。そんな使い方は制作者も想定していなかったかもしれません。でも、その攻略法はユージさん自身がいっぱいゲームオーバーとなり、いっぱい再挑戦して、たどり着いたものです」
千夜子さんはそうまくし立てると、本当に勇者を称える女神のように両手を差し出し、俺の手をふわりと包み込んだ。
「ユージさん、あなたはその工夫をめいっぱい楽しんでこられたのではありませんか?」
「ああ……そうかもしれない」
「それって、壊れキャラが引けなかったことで得られたものですよね?」
「たしかにそうだ」
「ではもう――」
彼女の艶っぽい桃色の唇が言う。
「復刻ピックアップガチャを引く必要はありませんね?」
「いや引くけど」
女神は俺の手を包み込んだままきょとんとした。
まあ、彼女が手中に収めたつもりだったのは、俺の手の中にあるちゅんちゅんカードのほうだろうけど。