Tap1-3
「救った世界の数?」
「はい。ソシャゲはそれぞれ、ゲームの中に世界が存在しますよね。ちゃんとその世界が救われるまでプレイしたものって、ユージさんは何作ありますか?」
千夜子さんがまっすぐに俺を見て、目を輝かせている。
世界を救うまでプレイしたソシャゲ……。
「ええと、一旦救ったけど第二部が始まったりしたやつは?」
「あ、それは救ったほうにカウントしていただいて大丈夫です。そのあと何やかんやあったにしても、ユージさんがそこで救ったぞという気持ちになったならOKということで」
俺の主観で、ということかな。
じゃあ――とすこし考え、
「ふたつ……くらいかも」
「ですよねー」
うんうん、と頷いている。
「私も結構ソシャゲ遊ぶほうなんですけど、ほんっと、長続きしないんですよ。いろんな世界で巻き起こっている諸問題を他のプレイヤーさんたちに任せちゃって、ごめんなさいとは思うんですけど」
そう言って上目づかいでこちらを見てから、舌先をいたずらっぽく出し、
「私の時間もお金もかぎられていますからね。なんか飽きたな~と感じたら次の世界を探す旅に出るのです」
なんて身勝手な勇者だ。
ま、でもソシャゲなんてそんなもんだよな。
毎年星の数のようにサービスが開始され、そのほとんどが俺のスマホにはインストールされることなくサービス終了となる。何かのきっかけでインストールしたとしても、千夜子さんが言うように、ほんの軽い気持ちでアンインストールされてしまうのだ。
「でも、ユージさんは2年以上もそのソシャゲをプレイされているんですよね?」
「2年どころか、もう5年だよ」
「羨ましい~!」
椅子に座ったまま両脚をジタバタ。占星術師みたいな風貌をしているので違和感が激しいが、感情表現がとても豊かな人らしい。
「たしかに5年は結構すごいかもな」
「すごいですよ~。小学校でもあと1年で卒業というところです。ちっちゃかった1年生も、もうすっかりお兄ちゃんになりましたね」
その例えはどうかと思うけど。
「千夜子さんが言いたいことはなんとなくわかったよ。いっぱいあるソシャゲの中から、これだけ続けて遊べるものに出会ったのがすごいってことだろ?」
「はい♪」
よくできました、とばかりに手を叩くが、ぴたっと止まり、
「じゃあ――」
「その壊れキャラを引けなかった2年前からのプレイスタイルを教えてください」
これまでと空気が変わった。
ここからがガチャ師の仕事、つまりは本題ということになるのだろう。
1000円(税込)感がひしひしと伝わってきて、俺はこれからしばらくの食事を激安スーパーの9円うどん玉中心に回していくことを覚悟した。