Tap1-2
「ガチャ師は、ソシャゲのガチャでお悩みの方とお話させていただき、その方に最も適したガチャライフを見つけるお手伝いをする職業です♪」
「ははあ……」
なるほどうさん臭い。
虹河千夜子、悪い人とは思えないがとにかくうさん臭すぎる。
何より、さっき俺は気づいてしまったのだ。
机の上に「ご相談1回1000円(税込)」と書かれた札が立てられている。
残り一週間を2000円で過ごすことになっている俺は、こんなよくわからない美人――だいぶ残念な美人な気がするが――を相手している場合ではないのだ。
「ガチャ師、立派なお仕事ですね。じゃ、俺はピックアップガチャが待ってるんで」
適当に切り上げて帰ることにした。
が、
「復刻ピックアップですか?」
なんて言葉が彼女の口から出るものだから、俺はつい
「そう、2年ぶりの復刻。人権を得るには今しかないんだよ」
と返してしまった。
「2年! それはすごいですね~」
「だろう? あまりに強すぎて運営が渋ってるんだ」
ストーリー上の強キャラだから仲間になっても強いのはわかるのだが、そいつはちょっと強すぎた。国民的RPGのセオリーを挙げるまでもなく、ストーリーで強いキャラでも仲間になるとそうでもないというのは、いわゆる〝あるある〟なのだから、もうちょっと他とのバランスを取ってもよかったと思う。
すると彼女は、
「いえ、2年以上も続けてらっしゃるのがすごいな~って」
なぜかとても嬉しそうに、微笑むのだった。
俺はその屈託のない笑顔が気になってしまった。
「そんなにすごいか? 普通だろ。ユーザーは何万といる」
「ん~、それはそうなんですけど、ご自身に合ったソシャゲを見つけるっていうのは、それはそれはすごいことだと思うんです」
身を乗り出して主張する千夜子さん。
テーブルの上に両手をついた彼女の上半身を見て、俺はその迫力に気圧される。
「すごい……」
「ええ、すごいことなんです! ……あ、どうぞお座りください」
「ああ悪い」
示された椅子に座った。
ん? これ1000円(税込)確定?
「ユーザーネームは何とおっしゃいますか?」
「名前? 俺の名前は――」
「あ、待って! 本名じゃなくて、ソシャゲでお使いのユーザーネームでお呼びしたいんです」
そういうシステムなのか。
「ユージだな。本名かどうかはせっかくだから言わないでおくよ」
「はい、ユージさん♪ 私はガチャ子とお呼びくださいね」
「……それで千夜子さん、話の続きは?」
ぷうと膨れっ面をして見せた千夜子さんだったが、すぐににこっと笑顔に戻り、
「ユージさんはこれまでに世界をいくつくらい救ってこられましたか?」