Tap2-6
リセマラがお得なのは神様だけ。
ガチャ師にとっての神様って何だろう、ガチャの神様とかいるのかな、と僕はすこし思ったけど、ガチャ子お姉さんの言葉がそういう意味ではないというのはわかっていたので、
「僕ら人間がリセマラやると損するってことですか?」
と尋ねた。
するとお姉さんは、
「はい♪ 損をする――と思っといたほうが気が楽ですよ」
という言い方をした。
「えー? 気分の問題ってこと?」
言い方が気になったのは僕だけではなかったらしい。ケイオスがすぐに口をとがらせて不満あらわにツッコミを入れてくれた。
それでもお姉さんは、やっぱり楽しそうに答える。
「気分って大事ですよ~。確率だから、リセマラしたら思いどおりの結果になることだって当然あります。でも、それを期待してしまうと、とってもとってもつらいんです。リセマラをしなかったり途中で切り上げたりしたときに、やっぱりリセマラしておけば……今からでもリセマラしようか……みたいな思いがず~っと消えなくなってしまいます。リセマラして得するかはわからないのに、しなかったことで気分的にいっぱい損をするというのは、なんだかすごく変ですよね。なので!」
人差し指を立ててウインクをし、
「私がおすすめするのは、リセマラをしないことのお得さをいっぱい考えましょう、ということです♪」
そのまま人差し指でケイオスを指す。
「まずはケイオスさん、リセマラしないとどういうお得がありますか?」
「今やってるイベントにすぐ参加できる! 配布キャラ結構使えるから、俺も手伝うしサハラも獲ろうぜ」
さすがケイオス、ノリがいい。
お姉さんの振りにすぐ答え、気取った感じに親指を立てて僕を勧誘してくる。
「ふふ、じゃあ次は私♪」
自分を指さして、
「リセマラをしないと、次のガチャがいっぱい楽しめます。自分のパーティに足りないものは、遊んでいてこそわかるものです。低レアの回復キャラしかいなくても、序盤中盤に必要な回復量ってそこまでではないかもしれません。自分に足りないものを知り、そのうえで引くガチャは格別ですよ。それに――」
自分のスマホをタタタタタと連打して見せ、
「リセマラで要らない要らないって消した子にあとから再会するのって、なんか気まずくないですか?」
私だけかもしれませんけど、と笑う。
次は僕だ。
僕はもう、言うことを決めていた。
ケイオスに出会えなかったかもしれないと考えたとき、僕はもうわかってしまったのだ。攻略Wikiの評価SSは、攻略Wikiを書いた人の評価でしかないということに。
攻略Wikiの人は僕たちを情報で助けてくれはするけど、それはあくまで「僕たち」であって、僕個人じゃない。僕にとっての本当の評価は、僕が自分で遊んで、それから考えて決めるしかないんだ。
リセマラの時点ではそれができないから、僕は、可能性を掴むつもりで失っていることになる。
リセマラをしなければ、最高の仲間に出会えるかもしれない。
僕はすぐにでも、今のデータで冒険に出たい気持ちになっていた。
僕の番で答えを言ったら、お姉さんにありがとうを言って、それからケイオスと一緒に遊ぼう。
そう、僕の番――
「……?」
僕の番が、なかなかこない。
不思議に思ってお姉さんを見上げると、お姉さんはさっきの笑顔のままだったけど、心なしか顔を隠すように俯いて、いつの間にか被り直したフードの中でじっと息を止めているように見えた。
「お姉さん……?」
「しーっ、しーっ」
ん? どういうこと?
「こちらのお子さんたちとはどういったご関係ですか?」
いきなりおじさんの声がしたので、僕はハッとなってそちらを見た。
制服を着たお巡りさんが、お姉さんの横に立ち、警戒しながらフードを覗き込もうとしていた。