Tap2-5
「クラス替えが、ガチャ……」
予想外の例えをうまく飲み込めないでいる僕に、ガチャ子お姉さんは、
「サハラさんにとっての5年生のときのお友だちが、ガチャの評価SSキャラってことですね。あの子とこの子はぜひ一緒にまた一年過ごしたいとか、そういうのありませんでしたか?」
「あ、そういえば」
あった。
クラス替えの発表を見るときに、自分の名前と同時に探してしまった名前がいくつかあった。……結局その名前は、別のクラスのところに見つかったんだけど。
「ふふふ。そういえばってくらいなんですよね、今となっては」
嬉しそうなお姉さん。
「でも、そのときは、クラス替えをやり直せるならやり直したかったんじゃないですか?」
「あ……リセマラ」
「はい♪ クラス替えのリセマラ、魅力的ですよね~」
ようやく頭が追いついた僕に、「やり直しはお得ですからね」と笑顔で付け加える。
クラス替えをリセマラしていたら、どうなっていただろう。
僕は何度も何度も繰り返して、5年生のクラスで仲の良かった友だちを揃えていたと思う。
誰かひとりが欠けても完璧じゃないから、一緒に過ごしたい人は誰も別のクラスになることがないよう、努力に努力を重ねて、みんながまた一緒にいられる未来を選んでいたはずだ。
やり遂げたときにはきっと満足感がある。
中学に進めばみんな一緒にというわけにはいかなくなるけど、小学校最後の1年間をみんなと過ごして、一緒に卒業できればそれは最高の思い出になる。僕ならそう考えたと思う。
でも――
「俺、サハラにリセマラされたらどこのクラスだったんだろ」
ケイオスが、両手を頭の後ろに組んで、空を見上げながらぽつりと言った。
「え?」
どきっとした。僕の心をよぎった考えが、すぐ横から聞こえてきたから。
「だって俺、サハラと話したことなかったし、評価SSじゃなかったじゃん。リセマラで狙ってくれないっしょ」
「……ケイオスは友だちだよ」
「た・と・え・ばの話! 今、ガチャ姉さんとしゃべってたやつ。サハラがソシャゲみたいにクラス替えをリセットしてたら、俺はたぶんサハラと話さないまま卒業してたなって」
「うん……」
普通にガチャ姉さんなんて呼んでいるケイオスには驚かされるけど、こいつはこういうやつで、きっと僕と同じクラスにならなくても、別の友だちをすぐに作っている。物怖じしない、とてもいいやつ。
でも今は、僕の友だち。
親からは中学に上がるまでダメと言われていたスマホを、どうしても持ちたいと毎日お願いしたのも、ケイオスと一緒にソシャゲで遊びたかったからだ。いっぱいお願いして、お手伝いもして、どうにか買ってもらえたのが先週のことで、そこから僕は、せっかく一緒に遊ぶなら最高の状態で遊ぼうと思って攻略Wikiを隅々まで予習し、当然のようにリセマラを始めた。
ケイオスと一緒に楽しむためのリセマラ。
でも、クラス替えでリセマラしていたら、そのケイオスは僕の横にいなかった。
「リセマラって、ほんとにお得なのかな……?」
僕は呟いた。
やり直せるならやり直したほうが絶対にお得だと思っていたけど。
僕は、知らず知らずのうちにケイオスを――ケイオスのような評価SSどころじゃない最高の友だちを、目の前から消してしまっていたのかもしれない。
助けを求めるようにお姉さんを見た。
ガチャ師。
よくわからない職業だけど、とにかくソシャゲが大好きなお姉さん。
そんなお姉さんが優しく微笑みながら言う。
「リセマラが確実にお得になるのは、時間が無限で、誰にとっても正しい評価がすでに確定しているときだけです。つまり、リセマラがお得だなんて言えるのは――」
「本当の神様だけなんですよ」