Tap2-3
「サハラさん、とってもお上手ですね~」
戦闘画面のチュートリアルを再開した僕の手元を見て、ガチャ子お姉さんが褒めてきた。
それを聞きながらタタタタタとタップ。
たしかに、無駄なくさっさと進めたいから次にタップするところを先読みして連打しているけど、
「こんなの、何度もやってたら誰でもできますよ」
次に何が起こるのかわくわくしたのは最初だけで、今はもう何も思わない、単なる作業だ。
タタタタタ、タタタタタ。
「リセマラ何回目くらいなんですか?」
タタ、タタタ。
「たぶん、15回とかそんな感じ」
タン。
「わあ、頑張り屋さんですね~」
もうチュートリアルのプロですね、なんて皮肉に聞こえる褒め方をしてくる。
でも顔は本気の笑顔に見えるから、たぶん本気で感心しているのかな。
タン、タン、タン。
「あ、そろそろガチャですか? ガチャですか?」
きらきらした目で見てくる。不思議なお姉さん。
さあ、運命の10連ガチャだ。
光の玉が10個、空に舞い上がっていく演出。
「今、虹色がふたつありましたよ!?」
身を乗り出して興奮したように言うお姉さん。
6個目と10個目が虹、最高レアリティ☆5確定の色だ。
「よし」
僕も短く言う。まずは、よし。ここからが勝負。
「今度こそリセマラ終わらせてくれよ」
ケイオスも横で呟いた。
光の玉が地面に落ちて、キャラクターが出現する。
1体、
2体、
3体、
4体、
5体。
ここまでは予告の色のとおりで、レアリティは低い。
6体目、虹色だったやつ――
「あ、格好いい! 当たりですか?」
お姉さんがはしゃいだ。
「うん、全体攻撃だから必須で評価SSのやつ」
何度も読んだ攻略Wikiに書いてあった、「リセマラで狙うならこれ!」のうちの1体。まずは当たり。ここまでは、よし。
7体、
8体、
9体。
変化なく低レア。
回復持ちはいたけどこれは評価Aで、僕が狙っているのとは違う。
そして最後の10体目。
虹だから☆5は確定している。あとは――
「わ~! すごく強そうなの来ましたよ、サハラさん!!」
「……ッ!」
……違った。
「ダメだ」
がっくりと肩を落とす。また、ダメだった。
「え? え? この2枚抜きでもリセマラ続行なんですか?」
おたおたと僕らの顔を見るお姉さん。
2枚抜きというのは、一度の10連で☆5が2枚引けたことを言っているのだろう。
ケイオスがやれやれといった感じに肩をすくめて言う。
「こいつ、評価SSの2枚抜きを狙ってるんだよ。しかも全体攻撃と回復の☆5。そんなの最初の10連で引けるわけないっつーの」
「でも、可能なら両方狙ってみるのもいいって書いてあった」
攻略Wikiのリセマラページのことだ。
「可能って、確率だからそりゃ可能は可能だろうけど、引けるかよ」
「掲示板で引いたって人もいたし……」
「Wikiの掲示板なんて何万人も見てるんだから、そりゃひとりくらいはいるって」
何万人。
ケイオスはそう言うが、確率ならなおさら、僕がその何万人のうちのひとりにならないともかぎらない。
0%じゃない。
だから、僕はこうやって努力しているんだ。
ケイオスは成績があんまりよくないから知らないと思うけど、つまらないことでも、こつこつ繰り返し努力していれば、必ず結果に結びつくって僕は勉強でわかっている。リセマラだって、当たるまで頑張れば――
「サハラ、早く一緒にクエストやろうぜ。イベント手伝ってほしいんだよ」
「次は当てるから」
そう答えて、僕はまたデータをリセットしようとした。
そのとき――
「うふふ」
楽しそうな笑い声がした。
見ると、お姉さんが僕とケイオスのやり取りを見て、にっこりしている。
「お友だちとソシャゲって、私が小さい頃には経験できなかったことなので、本当に羨ましいと思っちゃいました。いいですね、近くのお友だちとマルチプレイ。それでサハラさん、次は当てるっておっしゃいましたけど――」
「次っていつだかわかりますか?」