Tap1-1
「は~、結局買っちまった。これから一週間の食費は2000円か……」
俺は手にした課金カードをぴらぴらと振りながらコンビニを出た。
課金カードというのはアイチュンカード……ん? アッポーカード? ……なんか急に正式名称を忘れたので、ちゅんちゅんカードでいいか。まあとにかく、ソーシャルゲーム以下ソシャゲに課金するためのカードである。
ひさしぶりにあいつがピックアップされたというのに貯めていた石では引けず、給料日前のなけなしの食費を削って追加で引いてやろうというところだ。帰ったらすぐ引いてやる。待っていろ。
「あ、ちゅんちゅんカードだ!」
「え?」
目前から甲高い声が飛んできて、慌てて俺は目線を上げた。
そこには占い師が座っていた。
ちっこいテーブルと折りたたみ椅子というベタな感じの――といっても実際見たことがあるかというとそんなにはない気もする――占い師の女性が、ベールで顔を隠して俯いている。
今の声……この人だよな?
俺がじっと見ていると、女性は形の良い顎をつと上げてこちらを向き、
「私にはわかります。あなたガチャで困っていますね?」
「そりゃあんた、ちゅんちゅんカード持ってるとこ見てたもんな」
「はい? ちゅんちゅんカードとは?」
しれっとした顔で首を傾げる。
頭を傾けた拍子にベールが脱げ、女性の頭部が露わになった。
絹のような長い黒髪に、ティアラと言うのだろうか、可愛らしい王冠のようなものをつけ、両耳には大きな星のイヤリングを揺らしている。こんな街角には似つかわしくない装飾過多。商売用のいで立ちといったところだろう。
そんな女性が「何も見ていませんが?」という顔でこちらを見ている。
「いや、さっきと同じ声だし誤魔化せないって」
「……」
「見てたよね?」
俺が問い詰めると、女性は
「あはー」
と相好を崩してへにゃっとした笑顔になり、
「そうですけどそれはともかく! ガチャで困ったら私にご相談ください」
などと開き直りざまに妙なことを言いだした。
占い師がガチャの相談……?
「何が出るかわかるとか、そういうこと?」
「へあ? なんでですか?」
素っ頓狂な声を出すな。
「占いでわかるってことではないわけ?」
俺が彼女の風貌を指さしながら訊くと、
「いやいやいやいや、占い師じゃあるまいし」
ぶんぶんと手を振るのだった。
「違うのかよ!」
「占い師だなんて誰も言ってないじゃないですか。ここ! ここ読んでください!」
指輪のたくさん嵌った白い手で、ぴしっとテーブルの横を指し示す。テーブルにかけられた紫の布に、刺繍で――
「……ガチャ師?」
「はい! あなたの街のガチャ師、虹河千夜子……あ、本名じゃないんだった、えっと、虹乃ガチャ子です!」
ガチャ師の千夜子さん。(ガチャ子とは呼んであげない)
勢いだけ良くて話が全っ然見えてこないんだけど。
「結局、ガチャ師って何する人なわけ?」