人間を装う
アルテナが目を覚ますと、そこは柔らかい、まるで海の中のような場所でした。そう、ベッドです。あの船で見た沢山の色と似ているものに囲まれていました。
「これ、ぬの?」
口からポロリとこぼれた言葉から、それが布という物だとわかる。
「すごい!」
感動したアルテナは、ベッドの上で飛び跳ねます。
「すごいーー」
その騒音で王子がアルテナの部屋に飛び込んできました。心なしか顔が強ばった王子はアルテナが奇声をあげてベッドで飛び跳ねているのを見ると、慌てて大声でアルテナを止めます。
「おい! 何をしてるんだ? とりあえず飛び跳ねるのやめろ」
アルテナは王子を見つけると、ベッドから飛び降りて王子に抱きつきました。当たり前ですが、アルテナは服を着ていません。
「お、お前は服を着ろ!」
「ふく?」
そういえば、さっきから服を着ろとしか言われていません。服は人間が絶対に着るものらしいと、アルテナは気がつきます。
服とは、様々な種類があってお洒落に使われるものということが、分かりました。
「おしゃれ?」
「うん? 服がおしゃれじゃないのが嫌なのか? しかしおしゃれはわからん」
王子が困った顔をしました。そしてメイドを呼び寄せました。
「こいつを着飾らせろ」
「はい。こんなに綺麗なお嬢さんだったら、腕が鳴りますね!」
メイドたちはニコニコと笑うと、アルテナの手をとって衣装部屋に連れ去りました。あまりの勢いに王子とアルテナは呆然とするだけです。一瞬で、アルテナに布を巻いて出て行ったのは本当に流石としか言いようがないでしょう。
ぽつんと残された王子はぽつりと呟きました。
「こわ」
一方、攫われたアルテナは王子以上の恐怖を味わっていました。服が沢山ある部屋に運ばれたと思ったら、急に体から布をとられて沢山の目にじぃっと見つめられたかと思うと、紐状の何かを体中に巻かれて、なにかの数字が周りを飛び交います。
くるくると目が回ってしまって、思わず倒れそうでした。しかしすぐに服の試着という名の試練が、始まりました。
まずは腰のあたりを拷問でもするかのように押さえつけられて、ひもで括られます。
「いたい」
「アルテナ様、我慢なさって下さい。アルテナ様ほど細ければいらないかもしれませんが、この努力がおしゃれにつながるのです。ほら、王子の心を虜にしたいでしょう?」
「とりこ? うん! あるてな、とりこ、する!」「その意気です!」
数分のうちに、アルテナは綺麗なドレスを身につけていました。まるで海を思わす深い碧のドレス。背中は大胆に開き、アルテナの綺麗な白い背中が見えています。長い髪はまとめられて数々の宝石で彩られました。
最後にアルテナの唇に朱を入れたメイドは息を飲みました。あまりに綺麗すぎて、怖いと思うほどだったからです。
「これは」
「どう?」
クルッと回ったアルテナにメイドたちは拍手を送ります。なかには涙を流しているメイドもいました。
「お綺麗です。これは王子も魅入るでしょう」
アルテナをメイドたちは褒めちぎり、手をとりました。
「さあ、王子の元に行きましょう。きっと喜んでくださいます」
アルテナはにっこりと輝くような笑顔で、王子の元に向かいました。