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人魚の涙

 アルテナは夢を見ていました。そこはアルテナの思い通りになる世界でした。

 もちろん、王子様はアルテナだけを見ていますし、足も痛くありません。それにいつでも人魚に戻り、家族にも会いに行くことが出来ました。そして王子様も人魚になることが出来て、家族に紹介することも出来ました。

「ここは私に優しすぎる」

 この世界にいれば幸せに浸っていることも、甘すぎる幸福が訪れることも知っていました。しかしアルテナは、それらを拒否するように首を大きくふりました。このままではいけないという自覚はありましたし、それにここは温度を感じることは出来ませんでしたから。

 王子の体温を知ったアルテナにとって、この世界は夢の世界、偽物の世界でしかなかったのです。

 目を覚ますとアルテナが寝ていた場所の横に、頭だけをベッドに伏せて寝ている王子がいました。その手には良く絞られたタオルがあります。ふと、頭に手をのばすと熱を吸って乾いたタオルがアルテナの額にありました。

「ずっと、かんびょう?」

 王子のさらさらの髪を撫でます。すると顰めていた顔は緩んで、安心したかのようにアルテナの手に頭を押し付けます。それはアルテナを求めるような動きでした。

「おうじ」

 アルテナは安心しました。王子がこの場所にいるということは、まだアルテナにもチャンスはあると分かったからです。

 それでも先ほどの光景は簡単に消えることはありません。暗闇を見つめるとすぐに浮かんできます。アルテナは涙を流していました。透明な雫が頬から落ちてベッドにつく瞬間に、それは鱗になりました。その鱗がもう失った自身の鱗だとすぐにアルテナは気がつきました。

「どこまでも、私が人魚であるからいけないの?」

 アルテナは次々にこぼれ落ちる涙を止めることは出来ませんでした。あんな夢を見たからか、無性にお姉様たちに相談をしたいと思いました。

「らーらーる、るーるーらー」

 アルテナは涙を零しながら歌います。その歌は人魚の時のように伸びやかではありませんでしたが、優しく、柔らかく部屋に響きました。

 そんな彼女に気づかれぬように誰かが呟きました。

「そんな、馬鹿な」

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