水曜 1:55
深夜、僕の家には二人の客が訪れていた。ブラックの楔先輩、レッドの冷子先輩だ。
「つーか茶を出せよ、客によ!」
「悪いが、もてなしの心を見せて欲しい」
つまり二人とも、お茶が欲しいということなのですね。
「オレは〇っちゃんイカが好きだ!」
「……ソー〇カツかな」
「お茶請けまで要求?! 駄菓子なんてありませんよ」
「「チッ」」
「露骨に態度が悪い!?」
帰って欲しい。
眠いし。
「……それで、何をしていたんですか?」
「ちゃんと名乗ったじゃネーか、セ・イ・ギ・ノ・ミ・カ・タ!」
「相手にしていた人達は何者です?」
「あれは『大戦兵器対策委員会』という連中だ。先の大戦で失われた兵器を確保し、世界の均衡と技術の研究に努めている」
「いい組織じゃないですか」
「建前はそう言ってンだよ」
「そもそも、そんな組織聞いたことがないだろう? 大っぴらに活動できない証拠だ。やつらが言う大戦兵器とは、通常の技術では考えられない異常科学。そんな兵器を自分達だけで確保し、世界を思い通りにしてやろうと暗躍している」
「どうして戦っているんですか?」
「コイツがヘンにアタマ良過ぎるからよ」
冷子先輩が楔先輩の頭を小突いたが、彼は無視した。
「それに、さっき声ちがいましたよね?」
「翼状医学の人口声帯を応用して、声質を変身ごとに変成するよう細工している」
「オレの顔は視覚迷彩って技術で、ランダムに組み合わされた顔を映し出してンだ」
「顔が出ていても、気にしなくて済むということですね」
「プライドが許さねえから、美人の組み合わせだけ映し出してるがな」
その発言が無ければよかった。
「あの防御力は?」
「スーツの素材は、水素化学で発見された特殊な物だ。接触する力を吸収して人工筋肉に蓄積、爆発的なエネルギーに変換する。ただ吸収してばかりでは攻撃できない。石英鉄道で研究中の希少金属『青生生魂』を攻撃箇所に組み込んでいる」
「収納はどうしてるんです?」
「圧縮記憶媒体だ」
膨大な情報を蓄積できる小型の記憶装置だ。今は数えるほどしか残っていないと聞く。
「今や帝都日報でも理論と製造法が失われているコア、それを解明し、物体を収納できるよう転用している」
「もしかして、五大企業は全部が例の委員会と対立しているんですか?」
「そんなワケねえだろが」
「少なくとも第二位の石英と、第三位の翼状は向こうに絡んでいる」
「でも開発に参加しているじゃないですか」
「そこは技術を盗んだ」
「えーっと……犯罪ですか?」
「ちがう。正確には応用し、他の企業が作り出せない域にまで発展させている」
「……でも、どうやって……」
「作ってみたら、できてしまった。それだけのことだ」
「誰が?」
「だからコイツが」
冷子先輩は、横の楔先輩を指差した。
「マジすか!」
兼ねてからの要望である茶を飲み干したところで、楔先輩が口を開いた。
「……君に、これを渡しておく」
僕にブレスレットを差し出す。
「これは?」
「俗に言う『変身アイテム』だ。君にも渡しておく」
「僕に? なんで?」
二人が僕にアクセサリを見せた。冷子先輩はコンパクト、楔先輩はペンダント。おそらく、これが二人の変身アイテムなのだろう。
「オメーはグリーンな!」
「でも……」
僕が、さっきのような兵器を扱えるはずがない。
「大丈夫、君の戦闘スタイルに合った代物だ」
「スタイル?」
「君は走る体ができているな。奇しくも、加速に特化したバトルスーツが仕込んである」
「なぜです?」
なぜ、そんな物を僕に渡すのだ。
「いずれ分かる」
「はぁ」
微笑む先輩に、僕は気の抜けた言葉しか返せなかった。