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水曜  0:05

 その日の夜、ベッドで横になっていると、枕元で小型電信(こがたでんしん)が震えた。手のひらサイズの通信装置だ。画面を見ると真一(しんいち)だった。


「どうした?」

「ああ、起きてたか」

「寝そうになってた……なんだよ」

「見た!」

「何を?」

「人さらい! あれは行方不明事件の犯人だ!」

「なんだって?」

「郊外の方に行った、お前の家の近くだ。外に出れるか?」

「あ、ああ」


 すぐに着替えて外に出た。


 いくら両親が放任でも、こんな時間に外へ出るなよ、真一。


「ん?」


 民家を飛び跳ねる二つの影が見えた。屋根の上をジャンプし、こちらへ向かってくる。僕はとっさに近くの小路(こうじ)へと身を潜めた。


 見た。

 確かにいた。

 うん。


 だが、それを僕にどうしろというのだ。


「まだ追ってくる」

「速いな、追いつかれるぞ」


 その時、影よりも先に地上を走る人達が横をかすめた。映画に出てくるスパイのような、全身黒い格好に目出し帽の怪しい集団。


「くそ、迎え撃つぞ」


 五、六人はいる男?達が、立ち止まって銃器を構えた。


 おいおい真一、この事態を僕に振られても洒落にならないぞ。

 しかも連絡しておいて来ないのか?

 まさか逃げたんじゃあるまいな。


「待ちなさい! この悪党ども!」


 上空から声が降り注いだ。先ほどの影が、屋根に降り立つ。


「ブラック」


 全身に黒く角ばった鎧のようなものを着た人物。この金属の塊をまといつつ、先ほどの跳躍を見せていたとはとても思えない。


「シャイニィング! レッド!」


 おかしい。

 次のは明らかにおかしい。


 いわゆる夢見る少女が見るような番組に出てくる、『魔法少女』の格好をしているのだ。ヒラヒラと短いスカートのドレスを着ている。しかも、名乗りと同時に彼女の背後が爆発した。演出じゃなく、真面目に人んちの屋根が吹き飛んだ。おいやべえぞ、この女。


「逃がさないわよ!」


 どこにしまっていたのか、派手なステッキをブンブン振り回して言葉を続ける。


 ああアレだ。

 僕は寝てしまったんだな。

 夢を見ているんだ。

 

 大体レッドと名乗る少女は、髪飾りだけで顔がぜんぜん隠れていない。どこの誰かは知らないけど、正体バレバレだ。


「う、撃て撃て!」


 それまで異様な光景に固まっていた怪しい集団が、さらに怪しげな二人に弾丸を放った。


「下らん」


 ブラックは避けようともしない。どういう理屈かは解らないが、当たったはずの弾丸は彼の着ている鎧の表面でポロポロと落ちていく。


「悪党の攻撃なんて効かないわ!」


 この人はステッキを回転させ弾丸を弾いている。なんつー動体視力。


超重粒子空間(ハイペロンクラスタ)


 ブラックが右手を上げた。彼が手を握るのに比例して、銃が紙のようにグシャグシャと丸まっていく。


「こいつら、()()()()を使っているぞ!」


 すかさずレッドが飛び掛かる。


「マジカルロッドォ!」


 ゴンッと痛々しい音を立て、派手な杖が男の頭にめり込んだ。


「……え?」

「ロッドォ! ロッドォ!」


 殴打に続く殴打。その後は周りの男達に杖を振り回して、迫り来るパンチを()らし、キックを逸らし、無防備な体を杖で殴りつける。ひどい。


「……ヒャッーハッハッハ!」


 なんか笑ってます。


「ラストォ!」


 最後の男に杖を振りかぶったところで、横に移動したブラックが腕を(つか)んだ。


「やり過ぎだ」

「アレ? テヘ。てへぺろ」


 舌を出して可愛さを演出したつもりなのだろろうが、惨劇を見ていたせいで可愛くない。


「質問に答えろ」

「……」


 無言で立つ男を見て、ブラックは腹に軽く拳を当てる。


畏怖に備えよ(パラベラム)


 大きな衝撃音が響き、男のヒザが折れた。うなだれて胃の中の物を地面へと吐き出す。


「お前達は『委員会』か?」

「そ、そうだ」


 よほど強い衝撃だったのか、口元からは力が抜けヨダレを垂れ流している。


「誰の命令だ」

「それは……げふ……思い出せない……思い出せないんだ」

「仲間にまで電磁記憶操作(サイコトロニクス)(ほどこ)している」

「こりゃダメだ」


 いきなりレッドの口調が崩れた。


(した)()だからな、仕方ない」


 この話し方、どこかで聞いたことがあるぞ。


「んじゃ、一発」


 レッドが躊躇(ちゅうちょ)なく振り下ろした一撃で、男は沈んだ。


「そこの君、いいかげん出てきたらどうだ?」


 気付かれている。

 どうして僕が相手にする変人は、こんなにカンが鋭いやつらばっかりなんだ。


 冷静な仮面をかぶって、素直に小路から顔を出す。


「オメー」


 レッドの口調は、昼間会った冷子(れいこ)先輩に思える。ただ、丸見えの顔も、聞こえてくる声も全くの別物だ。


「どうすンよ」

「決まっているだろう、先手を打つ」


 ブラックが右手で胸元を触る。そこには球体のような装飾が施されていたが、動作で形が変わった。途端(とたん)に彼の体は光に包まれ、見知った顔が現れる。


「あらためまして、正義の味方です」


 (くさび)先輩が立っていた。

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