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月曜  7:45

 自転車に乗り、『天成学園(てんせいがくえん)』と刻印された正門を抜ける。ここは五大企業の一つ『水素化学』の経営する学園だ。というか、この街の全ては水素化学が運営している。


 おおよそ五十年以上前の大戦で、日本は壊滅状態となった。戦争の被害だけでなく、愛を口にした者が即死し、近くにいた者へ伝染する『告白事件(こくはくじけん)』というものが発生したからだ。国は戦争どころではなくなり、負けを認めざるをえなかった。戦後、五つの巨大企業『桔梗建設(ききょうけんせつ)』『石英鉄道(せきえいてつどう)』『翼状医学(よくじょういがく)』『帝都日報(ていとにっぽう)』『水素化学(すいそかがく)』が、政府に多大な援助を行い、持てる技術の全てを使って復興に尽くした。人々の生活を元に戻した企業達が、弱体化した政府より支持を集めたのは言うまでもない。天皇制を廃し、国を五つに分けて管理するようになった。ちなみに、以前は『神狩(かがり)』と呼ばれる六つ目の企業もあったらしい。


 入学した当初は、この学園の独特な風貌に驚いたものだ。一学年に二十もクラスが存在し、学年ごとに必要な部屋と校舎が分けられている。独立した三学年の校舎が、巨大な食堂・中庭・体育館及び部室棟を茎として、逆さとなった三つ葉のクローバーを形作っている。正門を抜ければグラウンド、奥が校舎だ。三年を正面に、一年と二年校舎が羽のように広がっている。僕はグラウンドを自転車で走り抜けた。

 

 え?

 ジョギングしてるなら走れば?

 断る。

 朝っぱらから汗だくでクラスに入るのは、自分で見るのも人に見せるのも嫌だ。

 僕は人目を気にする思春期なの。


 1Gの教室に入ると、友達の相沢(あいざわ) 真一(しんいち)が声を掛けてきた。


武井(たけい)、幽霊マンション行ってみねぇ?」

「は? 一人で行けば?」

「だから、ウワサの幽霊が飛び降りるマンション」


 見事にスルーされた。真一は昔からこうだ。怖いものを好きなのに、怖がりだから一人では行けない。


「行こうよー」

「はぁ、仕方ない。いいよ」

「やったー。お前いい奴ぅ!」

「……ん?」


 他愛ない日常の空気だが、何やら違和感がある。


 なんだ?


 さりげなく辺りを見回すと、クラスメートの一人と目が合った。大きな目に広がる縦長の瞳、短く切り揃えられた髪とあいまって猫のような女子。


「ねえ、あれ誰?」

「ああ? たしか……猫柳(ねこやなぎ)とか言ったかな。」


 警戒する猫のように、同じポーズでじっと僕を見つめている。正直、かなり視線が痛い。

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