エピローグ
僕と猫柳さんは二年の校舎を歩いている。目的の場所は決まりきった、あの屋上前だ。
「午前はよく眠れましたか?」
「おかげさまで。しかし、よく先生に注意されなかったなぁ」
僕の言葉を聞いて、彼女は枕からペンを取り出した。
「小型の電磁記憶操作です」
「そんなもの持って来てたんだ?」
「今日ばかりは、あなたにも使ってあげましたよ」
「それはどうも」
「ほんと、夜の活動が多いですよね。おかげで昼間の寝癖がついてしまいました」
「寝癖の使い方、間違ってない?」
「寝る癖でしょう?」
「ちがうわ!?」
「……友達がいなくなって、寂しいですか?」
「寂しいよ、当たり前だろ?」
真一は、無事帰れただろうか。
「僕は勝手だ。先輩があいつを『送る』姿を見て、止めようとしなかった。救うと言っておきながら、断罪を仕方ないと思ってしまった」
「あなたは正しいです」
「正しいとか正しくないとか、そんなものかな」
「正義は、何をどうあがこうと一方向からの視点です。なにより、彼は断罪を望んでいました。止めて欲しかったんです」
「そう?」
「ワタシと対峙してから、あれだけ時間をかけていたんです。どうにかして欲しかったんでしょう。あなたと学園生活を送って、何か思うところがあったのかもしれません」
そうか。
そうだったらいいな。
あいつが向こうで、幸せでありますように。
切に願う。
「そういや猫柳さん、ずっと聞きたかったんだけど」
「なんです?」
「君は帰りたい?」
「…………」
「ああ、ごめん。別に言いずらかったら……」
「あなたは、いつもいつも……」
「ごめん! ごめんって!」
「はっきり言わせてもらいます」
「はい!」
「あなたがいるなら、この世界もアリです」
「……え? あ?」
「……何か?」
「いや、別に」
「あなたは、そればかりですね」
「そういや、なんで二年校舎で寝るの? 一年にだって、屋上前の階段はあるよ?」
「あそこの日当たりは気持ちがいいんです」
「今、笑った?」
「別に」
「笑ったでしょ?」
「別に」
「君だって、そればかりだ」
「そうですね」
僕のクラスメイト、猫柳 由宇。
職業は、僕と同じ正義の味方。
今の彼女は、口の端を持ち上げて静かに微笑んでいる。
そんな彼女は、息を呑むほど美しかった。
これからも、よろしく。