プロローグ
「そんなにやらせたいなら、変身ワード教えて下さいよ」
僕は机を叩いて、先輩に詰め寄った。
「断る」
ここは地下の秘密基地。目の前には、僕にブレスレットを渡した人物が座っている。
「大体、戦隊なんですよね? 一人一人変身する時の掛け声が別々なの、おかしくないですか?」
「変身のキーワードは、それぞれが戦う理由に設定してある」
彼は奥のモニターに顔を突き合わせ、こちらには見向きもしない。
「それぞれってなんですか! それぞれって! そもそも、なんでレッドが魔法少女なんですか! ちがう番組なっちゃうじゃないですか! ブルーなんて紺色だし!」
「ダークブルーだ」
「まず青くして下さいよ! 〇〇ライダーだし!」
「戦隊とコラボしてるじゃないか」
「してます! してますけど! まともにメンバー揃えてからやって下さいよ!」
「色も造形も、本人の希望に合わせて作ったからな。レッドは作ってないから管轄外だ」
「え? スーツは全部、楔先輩が作ったんじゃないんですか?」
彼が振り向く。長い前髪が、顔の半分を覆っていた。
楔 梗助――僕の一つ上の先輩だ。
「いくらなんでも、冷子に魔法少女を与えると思うか?」
「思いません。僕だって嫌です」
ソファで寝息を立てる冷子先輩を見る。この人、寝てるだけなら美人なんだけどなあ。
「じゃあ、ホワイトは?」
僕は、部屋の片隅で微笑んでいる女性を見た。
「棗さんは変身すると金髪になり、露出度の高い衣装を着る」
「アメコミかよ……」
「本人の好みだ」
「え、えぇ……?」
彼女を見ると、口元を押さえて顔を逸らす。
「けど、もう五人いるじゃないですか! なんで追加戦士がグリーンなんですか! そこはシルバーとかゴールドじゃないんですか?」
「君、追加戦士やれるような器か?」
「う……でもでも、グリーンって! イエローと同性だから、なんか立ち位置かぶってるじゃないですか!」
「随分な言い方だね……」
部屋の中で、がっしりとした男性がうなだれて声を出した。
「せめて希望を! 必殺技はどんなものですか?」
「無い」
「え?」
「君のスーツは、スピードに特化した先行試作型なんだ。ある訳ない」
彼はヒラヒラと手を振る。
「せ、先行?」
嫌な予感が……。
「先行って……なんの……」
「量産型の」
「い、今なんと?」
「緑だろう? 量産機の花形だ」
「〇ク!? 僕の造形ザ〇なの!?」
「赤くないけど、スピードは三倍以上に設定してあるから」
「色んな意味できっと死んじゃう! 死んじゃうから!」
「それでキーワードだが」
「は、はい」
「戦う理由は人それぞれだ。そして、それは自分で見つけるものだ。それが戦士だ」
「それは……」
あー、なんでだ?
なんでこんなことになってるんだっけ?