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 異世界転移体験で、初の魔法使用を体験した。現代っ子(自称)の俺にはちょっとよくわからなかったが、要はがんばれば思い通りの事が起きる、ということかな。とんだチートである。でもそれを使いこなせない事には宝の持ち腐れというものなので、是非使いこなせるようになりたいものだ。毎回同じ効果、効果量を発現することが難関なのだ。それをうまく使って『異世界管理』とやらをすることになるのだろう。魔物がいたことを考えると、それを駆除することもその一環なのかな?ま、その辺はじーさんが教えてくれるだろう。

 まさか朝まで熟睡とは・・・。ここに来てから睡眠時間が長いなー。こんなに眠れたのはいつ以来だろうか。そうだな、あれからもう2年になるのか。2年前の俺というと、両親を飛行機事故で失った。両親は海外旅行が趣味で時間を見つけては世界中を飛び回っていたものだ。

当時の俺は親の会社で社長秘書という役職で下積みのようなことをしていた。将来は会社を継ぐ予定だったのだが、両親が飛行機事故で亡くなったために急遽社長になってしまった。ショックと会社の経営で忙殺され睡眠時間などなかった。

それから間もなく体を壊したのを機に親の代から副社長をしてくれていた鈴木のおじさん(幼少の頃から家族ぐるみの付き合いをしていた人)に社長命令と称して社長を替わってもらった。実際は俺が7割の株を保持しているので立場は俺の方が上だが、基本的に自由にしてもらっている。実力のある人だし、それに信用してるからな。

それから俺はここに来るまでのようなほぼバイトに明け暮れる生活をしていた。


「turrrrrr」


『あっ!社長!お久しぶりです!最近連絡がなかったんで心配してたんですよ?』


「はは・・そんな他人行儀はやめてよ、俺にとって鈴木のおじさんは親戚のおじさんとかわらないんだからさ。それに俺社長じゃねーし!」


『はっはっは!坊ちゃんはかわらんなー!それじゃそろそろうちの娘をもらってくれてもいいんだよ?』


「冗談、あいつならそのうちイケメン連れてくるでしょ。それに今じゃ社長令嬢なわけだし引く手数多なんじゃない?」


『あ、あぁ・・それが坊ちゃんならいいなぁって、お義父さんは思うんだよ。で、どう?』


「はいはい、それは本人同士で決めるよ。そもそもいつから会ってないかも覚えてないのになにいってんのさ。それにお義父さんはさすがに気が早い。そんなことより何か用事があったんじゃないの?」


『え?生存確認したかっただけだよ?坊ちゃんは退院してからもずいぶん無理な生活してたみたいだから、陰ながら監ゲフンゲフン・・・見守ってたんだけど、いつの間にかバイトも辞めてるからさ。』

監視してたんかい!


「あ、そうなの。まぁいろいろとあってさ、今は違うバイト先で住み込みしてるんだ。」


『そ、そうだったんだね。捜索願出さずに済んでよかったよ!うむ、それじゃ時間がある時にでも連絡してくれよ?』


「はいはーい、わかったよ。それじゃまた。」


『ツーツー・・・』


噂をすればなんとやらではないが、すごいタイミングだったな。

とまあ実は俺、結構裕福な家庭で育ったんだよ。誰に話す事でもないから知ってる人なんていないだろうけどさ。それに家の事情なんかで人を判断しないしされたくもない、俺はそういう男だからな。



 朝食を済ませ食後のコーヒーを嗜んでいると、じーさんから声が掛かる。


「三太君、昨日はご苦労じゃったな。どうじゃ?異世界というロマン、しっかり感じ取ったかの?」


「ロマンかどうかはさておき、すごくリアルなゲームって感じだったかな。でも魔物とか魔法とか、ファンタジー感があって結構楽しかった。」

現代っ子な感想を述べるとじーさんはうんうんと頷いているが、ゲームに思えても実際に死んでしまうこともあるという事を念押しされた。


「ところで管理が仕事って言ってたけど、魔物を倒して人々を守りましょうとかそういう勇者的な事をするのが仕事なの?」


「いんや、それはついでじゃ。むしろできるだけ関わらない方がいいことじゃな。まあ護身のためには仕方ないし慣れるためにも練習は必要じゃろうが、現地の人間が解決できそうなことにはなるべく首を突っ込まん方がいいぞい。」


「なるほど。そうなるとますます何をすればいいのかわからないなー。」


「そうさの、『異常』の排除がしてもらいたい事じゃが、言葉で説明するのも面倒じゃから、基本的に普通に生活していくことかの。あとは君の裁量に任せようと思っておる。」


「はぁ、そんないい加減で大丈夫か・・・?」


「ほっほっ、なんとかなるじゃろう。そういうことで、今日も頼むぞい。」


「はいよ、了解。」


「ちなみに今回から基本は実体で行ってもらうぞい。」


「ルイナとレイナはどうするんだ?」


「二人は憑依じゃ。」


そういうわけでさっそく地下へ行きカプセルに入る。そのまま前回の村へ直接転移した。

転移先は人目に付かない建物の陰で、俺の服装は前回と同じだ。そして左腕にルイナ、右腕にレイナも前回と同じ。ふとネックレスをしている事に気付く。


『あーあー、マイクてすマイクてす。』


「あぁじーさん、このネックレスは?」


『それはの、魔法の発動を助ける魔法のアイテムじゃ!加減が慣れるまでの補助装置とでも思っておけばよい。それと緊急帰還用のアイテムでもあるから、もしもの時はそれに意識を集中するんじゃぞ。』


なにやら便利グッズらしいのでいざという時は頼りにさせてもらおう。


『今回は実体じゃ。今こちらのカプセルにいた三太君の体はなくなっているぞい。この意味、わかっとるな?』


「怪我したら痛いし下手したら死ぬ、だよな?まぁ気をつけるさ。」




『よーし、おじさん!おすすめスポット、いこ☆』


そういうことでレイナおすすめの魔物狩りスポットへ向かう事になった。

そこは鬱蒼とした森の奥、道中ではちらほら見かけた野生動物が見当たらない場所だった。


「ここに魔物がいるのか?」


『そうだよー☆アタシでも大丈夫なところだし、何とかなると思うよ☆』


『でも無理はしないでくださいね?1匹なら問題なくても数が増えれば危険も増えるので・・・。』


「わかった。油断しないように気をつけるよ。」


そうだ、ゲームに当てはめて考えてみると、感知系のスキルとか魔法が役に立ちそうな場面だよな。そういうのってできるんだろうか。試しにやってみる。


動体、熱源体、音を条件として、これらの二つに当てはまるものを感じ取るように意識を集中してみる。すると、近くにいくつか反応があった。反応はあったが、漠然としすぎててわからないな。じゃあ次はマップ機能に挑戦・・・上空から眺めるように索敵するイメージで・・・・


「《感知型概念魔法》:鷹の目」


一気に視界が広がり、周囲の情報が勝手に集まってくる。これは便利。実体の今なら前回のように消費するだけではないらしいし、できるだけ常時発動していよう。


うーん。いちいちイメージを組み上げていくのって、面倒だな。一度組み立てたものをメモしてすぐに使えるようにしておければ・・・あ!そうだ!やっぱ魔法ファンタジーと言えばコレでしょ!という事でそのイメージを組み上げていく。


そして完成したのがこれだ!

《概念具現化》魔道書グリモワール


創ってみてわかったのだが、この本は具現化してしまえばそのまま存在していられるらしい。ふっ・・・便利グッズを自分で創造してしまった・・・俺、末恐ろしい子!

それでこの魔道書、なんとも便利な機能が付いている。一度出来上がった魔法を記録させることができるのは当然として、自分でページを捲る必要がない、つまり自動検索機能。さらに検索した時点で使う意思があったなら自動発動して、使わない時は小さな本型アクセサリーになる。なかなかファンタジーチックでオシャレではないか。我ながら良い仕事をしたものである。


自画自賛をしていると、魔道書がペラペラと捲れては新しい魔法が書き込まれていく。そして即発動している。何事だと思って辺りを見回すと、そこには大量の魔物の死体が・・・。丸焦げのもの、首がすっぱり落とされているもの、頭が爆散しているものと様々。


『ねぇ!おじさん!おじさんってば!』

『三太さん!?あの、三太さーん!』


二人が必死に呼んでいる声が脳内に聴こえる。


「え?なに?どうしたの?魔物がごみのようになってるのはなに?」


『おじさんがその本作ってる間に魔物がいっぱいきてたんだよー?もー、ちょっと焦ったよー。』

『はぁ・・・よかったですぅ・・・全然反応がないから何かあったんじゃないかって。・・ぐすん』


どうやら集中しすぎて周りが見えてなかったみたい。油断しない発言の直後にやらかしてしまっていたようだ。


「ごめんごめん、でもレイナすごいじゃん、一人でも余裕なんだな。」

そう言って立ち上がろうとすると・・・軽く眩暈がした。前回も帰る直前に経験したSP切れに近い症状。


『ごっめーん☆おじさんのSPほとんど使っちゃった!てへっ☆』


「おぅふ・・・すっげぇふらふらするぞ・・・。」


『それにしてもその本すごいね!思っただけで簡単に魔法出ちゃった☆』

『三太さん、いつの間に勉強したんです・・?』


「いやぁ、ほら、俺って結構ゲーマーだからさ、この世界をゲームだと仮定して想像してみたんだ。概念魔法って結構万能な感じだなって思って。でも毎回同じのが使えるとは限らないなら、記録しておけばいいかなって。」


『…おじさんオタクなんだね。…うん、良いんじゃないかな?アタシは気にしないよ?』

『わ、私だって気にしないですよ!オタクでも三太さんがすk…素敵です!』


「ちょっと傷つきました。もうぼくはだめです。穴掘って寝ます・・・。」


双子が必死にフォローしているがそんなことよりも実際結構身体がだるおもである。だってレイナが全ツッパしちゃったせいで空っけつなんですよ。なのでここはひとつ・・


《概念魔法》:穴ほりほり

魔法名とか実は適当でいいんじゃね?イメージさえできれば。とりあえず便利そうな魔法を一つ記録&使用して横穴の中で休憩することにした。壁に寄りかかっていると、ふわっと良い匂いがした。ルイナが実体化している!どこから取り出したのか、座布団?のようなものを敷いている。実体と非実体、途中変更できるのか。


『三太君、あっという間に慣れてきたようじゃの。頼もしい限りじゃ。ルイナから実体化させてくれと言われたのでさせておいたぞい。これで回復も多少早くなるじゃろう。それじゃごゆっくりの〜。』


「ルイナさん、お願いがあるんですが。」


「はい、どうぞ。そのためにお祖父様にお願いしたんですから。ふふっ」


「そっか、ありがとう。」


膝をぽんぽんすると吸い込まれるように頭を膝の上へ。気分的にこの方が回復早そうだし疲れちゃったし、少しくらい甘えてもいいよね?


レイナがうらやましそうにしていたので「もし休憩中に魔物が来たら任せた、俺の命はお前にかかってるぞ!」と言ったらうれしそうだった。頼りにされたいお年頃なのだろうか。


小一時間経ってガチ寝してた俺が「やっべ」と思って目を開けると、ルイナもこっくりこっくりしている。その寝顔を下から眺めていると、ルイナがそれに気付いて顔を赤くしている。


「よし、だいぶ元気になったし行くか。」


『きゃは☆ほんとだ、だいぶ元気になったね〜。もういくの?』


勝手に動く右手が俺の股間をひと撫でする。このおバカは勝手に何やってんですか!まったく!生理現象なめんま!

ちょっと動揺しつつそれを押し隠し右手をぺしっ!権限を取り戻す。意識がない間とか、こうやって勝手に動くってことだよな、ほんと取り憑かれてるみたい。それにしてもレイナに右手は危険すぎないか?このままでは右手が恋人というか右手に恋人というかそういう感じになってしまいそうだぞ。いざとなれば右腕をどこかに縛り付けておけばいいか…‥などと思いつつも、今解決しなければならない問題以外は先延ばしにしても大丈夫と自分に言い聞かせる。


今解決しなければならない問題といえば、ルイナはこのまま実体で行くのだろうか。


「ルイナ、このままでいいの?戻る?」

左手とルイナを交互に見やる。


「え?///レイナが右手で私が左手『で』だなんて////」

そう言って赤くなった顔を手で覆いながらくねくねしている。違う、そうじゃない。


「それもいいけどそうじゃなくて、憑依してなくて大丈夫?危なくない?」


「あ、そういう・・ご、ごめんなさい!とんだ勘違いを・・・。三太さんもまだ全快ではないですし、このまま村まで行きましょう。」


「そう?じゃあ魔物が出ても安心してね、守るから、俺の右手レイナが。」


「ふふっ、頼りにしてますね、三太さん、レイナ。」


『まっかせっなさーい!どかーんってやっちゃうから☆』

はいはい、なるべく静かにやろうねと滾るレイナを宥めた。


実体のルイナ、憑依している時と違って無理をするとSPがすぐに切れてしまうそうなので実際に守ってあげないといけないのだ。か弱い女の子を守るシチュエーション、男子なら多少なり憧れるであろう。


帰りも何体か魔物に遭遇したが、【鷹の目】と【魔道書】、そしてそれらを俺を通して共有しているレイナがサクサク処理したので難なく村の宿に着いた。歩きだと結構時間かかるから、瞬間移動とか空間移動とか、なんかそういうの欲しいな、などと思った。



 この世界の通貨は銅貨、銀貨、金貨、白金貨、アダマス鋼貨があり、1銅貨=100銀貨、100銀貨=1金貨、100金貨=1白金貨、一番安宿に1部屋1素泊まり1銀貨から。食事は最低でも15銅貨とのこと。この宿の場合は風呂が別料金で約1時間につき50銅貨で個室を借りるか無料の共用があるらしい。俺は共用でもよかったのだが、ルイナが実体化しているので2時間借りることにした。ということで受付で5銀貨を支払い風呂に入ってから部屋で寛ぐことにした。この宿は1泊4銀貨、日本円だと4千円くらいの感覚かな。その資金については、ルイナにお願いした。だって俺、無一文だもん。まぁしばらくはルイナ様様になりそうだ。


風呂はルイナを部屋に一人にするのも何かあったときにまずいので脱衣所で待ってもらうことになった。ルイナに先に入るように言ったのだが、俺が先になった。レイナは一旦戻って温泉に浸かるらしい。


湯船に浸かっていると、なぜかタオル姿のルイナが入ってきた。不可抗力により目の保養・・・じゃなくて混浴になってしまったわけで……なるべく見ないように心がける。とは言え僕も健全な男の子!ついついチラ見してしまうわけだが、出るとこが出てて引っ込むとこは引っ込んでいる美少女が目の前にいるのだ。保養であると同時に過ぎれば毒である。下半身に血が集まる前に話題を振る。


「そういえば今更だけど、ここの言葉って日本語なの?普通に言葉わかるんだけど。」


「それはこっちに来るときに、ある程度環境に合わせて作り変わっているかららしいですよ。詳しく知りたいならお祖父様に聞くのがいいと思います。ふふっ」


「そうなんだ、よくわかんないけど便利だな。じゃあお金もそういう感じ?」


「それは以前レイナと二人で来たときに魔物討伐の報酬で稼いだので結構お金持ちなんですよ。ふふっ」


聞くに、依頼や探し人などを貼り付けるボードが各町にあるらしく、冒険者パーティに加えてもらったりしたのだとか。その際にじーさん謹製アイテムで魔法と魔力を使えるようにしていたらしい。ちなみにレイナは3度の狩りでアイテムを壊した。




 今回は実体で来ているので、いちいち帰る必要はない。まぁ帰った方が快適なんだけどさ。普通に生活しろって言われてるしちょっとした旅行みたいに思っておこう。それにしてもいきなり混浴か・・・しかも対面で入ると足があらぬ所に当たっちゃいそうだし色々見えちゃいそうだし、かといって横並びだと肩が触れる。などと考えていると一部主張し出すのを感じて「のぼせる前に上がっちゃうね」などと言い先に上がことにした。お湯は少しぬるめだったのでそう簡単にはのぼせないが、状況にのぼせそうだったのだ。


二人とも上がって部屋に入って知ったのだが・・・この部屋、ベッドがひとつしかありません。どうしましょう。

ルイナも同じ事を思ったらしく、俯いてしまっている。


「・・・俺床に寝るからベッド使って良いよ?」


「ゆ、床じゃ硬くて疲れ取れないですよ!」


「大丈夫、ついでに寝袋とかせめて布団みたいなものでも具現化できるように練習もできるしさ。ベッドより良さそうなのができたら替わってもいいし。」


「そ、そうですか・・・。」


ルイナがベッドからこちらを見ている。あんまり見られてると気が散るんだが、ふっくらやわらかな布団をイメージして何度か挑戦してみる。しかしできたのは空気の塊でできた枕のようなものだった。薄い空気の膜でできた袋の中に圧縮した空気を詰め込んだようなものか。柔らかさはちょうどいい。やっぱり0から創るよりある程度材料になるものを用意した方がいいのか。その結果を見たルイナがベッドの隅っこで足を抱えて座っている。そしてこちらを見ている。


「うーん。できなかった。」


「そうですね・・。ひょっとしたらできちゃうかと思っちゃいましたけど。チャレンジは失敗したので、諦めてベッドで寝てください。」


「いやぁ、でもほら・・」


「でもじゃありません!三太さんは疲れているんですからベッドで寝ないとだめなんです!」


「とは言われましても・・・ルイナを床で寝かせるわけにもいかないわけで・・・」


「…じゃ、じゃあ私もベッドで寝ます!それならいいじゃないですかっ!」


「でもこのベッド狭いし・・・おっさんと添い寝なんて嫌じゃない?」

こういうときだけ自分がおっさんであることを素直に受け入れる。ヘタレなわけじゃない、そういう男なだけなのだ。決してヘタレではない。


「三太さんはおっさんじゃありません!それに嫌じゃないです!むしろっ……」


そう言ったルイナは、俺がつい今しがた創った空気クッションに顔を埋めている。ほぼ透明だから顔が真っ赤なのが丸見えである。ところで『むしろ』なんですか?好きなんですか!?これは世に聞くはにーとらっぷですか?などと聞けるわけもなく。


「わ、わかった、わかったから落ち着こうか・・・。」


ランプの灯りを消してベッドに入る。シングルサイズだから当たるところが当たっちゃうほどの近さだ。腕の置き所に困っていると、意を決したように鼻息一つ、ルイナが俺の腕を自分の首の下に持っていく。そう、これは腕枕である。特定の相手や、特に近しい人間同士にしか成し得ないものなのだ。


「いつもは私が膝枕しているので、今日は三太さんが腕枕してくださいね・・?ふふっ」


「そ、そういうことなら仕方ない。うん、これはいつもの恩返しということで仕方ないことだな。恩返しに腕枕を要求されただけだから俺は悪くないんだからな?」


と、天井に向けて言い訳をする。


「誰に言ってるんですか・・・レイナですか?」


「え?なぜにレイナ。」


「いつも三太さんにくっついてるから・・・?」


「たしかに・・まとわりつかれてはいるけど。誰に言ったわけでもなくて、自分の理性というか・・そういうやつだよ。」


「理性・・・理性が保てなくなったら・・・・その・・」


そう言うと紅潮した頬のルイナが距離を空けるどころか少しすり寄って潤んだ瞳でこちらを見ている。そういうのは、だめです。やばいです。はにーがとらっぷなのです。


「あー、あのさ、あんまりおっさんをからかっちゃダメだよ?そういうのに弱いんだから。」


「はぁ・・だからおっさんじゃないですって・・・。もういいです。おやすみなさい。」

向こうを向いて就寝宣言をするルイナ。でも腕枕はそのままのようだ。むしろ腕を絡ませて逃がしてくれない。



とりあえず、なんとか俺の理性はぎりぎり保てたようだ。あとは心臓と分身が落ち着くのを待つばかり。


そういえばレイナ、何やってんだろ。「一旦帰るねー☆」って言ってたからすぐ戻ってくるものだと思ってたが、俺の右手には戻ってきた気配はない。まぁあっちで寝てるんだろう、レイナだしな。そうして身体の疲れにプラスして気疲れした俺はそのまま眠りについた。


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