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目が覚めるとそこは見知らぬ部屋だった。そこで双子の姉妹(行きつけの喫茶店の店員さん)とその祖父と出会う。
なぜここにいるのかをこれから話してくれるというので聞くことにした。
「まずここがどこかじゃが、ここは三太君が気を失った喫茶店『アフロディーテ』の奥の家じゃよ。ワシはルイナに頼んで三太君にあの飲み物を薦めてもらったんじゃ。『いつもコーヒーのお客さんだからそんな怪しくて変な飲み物飲まないわよ』なーんて言っておったがの、ワシはルイナはできる子じゃと思っとったからの、うまく誘導できると思っとった。実際のところ軽いひと押し程度で陥落したがの。ほっほっ、ワシの孫ながら、ルイナ、おそろしい子じゃ。」
「もう!おじいちゃん何言ってるのよ!」
「ほっほっ、すまんの脱線したわい。それでじゃ、なぜ三太君をここに連れてくる必要があったかというとな・・・・」
事あるごとに爺馬鹿全開で脱線するので軽い説明にも関わらず結局1時間ほどかかった。
爺馬鹿は割愛して要約するとこういうことらしい。
1. 喫茶店に俺が来るとこの家の一室にある、『あるモノ』が反応していたこと。
2. 調べてみたところ俺の魂に反応していたこと。
3. 『あるモノ』と同質のモノが俺の魂に入り込んでいたこと。
4. それを取り出そうとしたが同化が進んでいて失敗したこと。
「ところで、タマシイって?オカルトチックな話?」
頭大丈夫?と思わず付け足してしまいそうだったが我慢した。
「そうじゃの、三太君には馴染みのない話よの。それなら実際に、三太君に反応した『モノ』を見せようかの。」
そういうと徐に立ち上がり、部屋のドアを開けて俺に手招きした。着いて行ってみよう。ちょっと興味あるし。
ちなみに話を聞いている間の双子はというと、姉のルイナが俺の左側に、妹のレイナは右側で俺の手をにぎにぎしながら座っていた。なぜ振りほどかなかったかって?そりゃあ何度か振りほどいたさ。だけど気付くといつの間にかにぎにぎしてるんだもの。それにちょっとマッサージみたいで気持ちよかった。体は大人、頭脳はちんちくりんなだけかと思ってたけど、意外な才能があったんだなと、評価を1段階上げることにした。
「ねぇおじ・・・おにーさん?失礼なこと考えてない?」
「いや?話聞いてる間ずっと手をにぎにぎしてるから、俺のこと好きなのかなって思っただけだよ。」
こう言っておけば自分の行動を自覚して恥じらいを覚えてくれるだろう。そうなれば多少は自重できる子に
「え〜?わかっちゃった〜?アタシもね、好きだよ〜って思いながら手にぎってたんだよぉ?以心伝心だねっ☆」
ダメでした。失敗です。この子はもう手遅れです。
そんなレイナに溜め息で返事をすると、レイナの頭上にはてなマークが浮かんでいるのを幻視する。
姉のルイナは頬をうっすら赤らめて恥ずかしそうにしてる。うん、それが普通だと思うんだよ。適当な事ばかり言ってそうなレイナと違って、ルイナさんは正統派ゆるふわ美人可愛い女子である。要は天使、いや、女神である。異論は認めない。
そんなことを考えながら歩いているとじーさんは地下へ通じるというドアの前で振り向いた。
「ここがその『モノ』がある地下室への入り口じゃ。さ、いこうかの。」
ドアを開けると階段になっており、その階段を下っていく。30段ほどの階段の先には両開きの扉があった。じーさんはその扉を開け、部屋に入るよう促す。部屋はほぼ真っ暗で足元がよく見えないが、5メートルほど先に明滅を繰り返す電球のようなものがあるように見える。じーさんはそこにいるようだ。
「きゃっ!」
左腕にやわらかさを感じてそちらを向くと、ルイナが腕にしがみついていた。暗いからね、躓いたのかな。
「きゃー(棒)」
今度は右側である。しかしまぁ棒読み加減が半端ねぇ。これでわざとじゃなかったら逆にすごい。
「ねぇねぇおにーさん、両手に華だね!うれしい?うれしいよね?☆」
「あー、はいはい。うれしいよー。(棒)」
「もう・・・レイナったらわざとそういうことするんだから・・・。」
「だってルイナみたいに毎日来てるのに毎日転ぶようなのとは違うもーん。それにおじさんは初めてなんだからアタシが手取り足取り教えてあげなきゃって思ったんだもーん。」
言い回しがちょっと問題ありな気がするが、まぁ気遣ってくれてるんだろう。
「もうレイナってばぁ〜・・・」
顔は暗くて見えないけど、もじもじしてるっぽい。
そんな調子で歩いて行くと、レイナの導きもあって躓かずに目的の場所に着くことができた。実際数メートル程度だからそんな大層なことではないんだけどね。
「これじゃ。これが反応していたんじゃよ。」
そこには高さ1メートル程度の簡素な円柱の台座と、その上にゆっくりと回転しながら浮かんでいる手のひらサイズの透明な立方体があり、立方体の中には直径1センチメートル程度の欠片のようなものが中心部分にあった。その欠片は部屋に入った時よりも強い光を放っていて、部屋の明るさが豆電球を点けたくらいになっている。
「これがの、三太君の来店中に限って光を発するようになってのぉ。」
もっとよく見てみようと思い顔を近付けると、さらに明るさを増し、小刻みに震えだした。
ピシッ・・・ピシッ・・・・
あれ?これってどう考えてもよろしくない音だよね?そう思って周りをみると、双子は揃って腕にしがみついたまま興味津々といった様子でそれを見ている。二人の様子を見る限り安全なのだろうと思い、もう少し顔を近付けて見てみる。うーん、よくわからんな。
「なぁ、じーさん、これって何なんだ?」
そう言ってじーさんの方を見ようとした時
「パリィィィン!!!」
薄いガラスを割ったような音がして、咄嗟に視線がそちらへ動く。
立方体の中にあった光の欠片のようなものが俺の顔、眉間に向かって飛んできてーー。
「う〜ん・・・眩しい・・・」
そう思って手で庇おうと腕を動かすと、手が柔らかいものに当たる。眩しさで目を開けられないのでとりあえずそれが何か確認しようと指を動かすと・・・
「あんっ・・」
桃色ボイスが聴こえて一気に脳が覚醒する。これ絶対揉んだな。しかもいいとこに指当たってたと思う。指の感触的にそう思ったわけだが、そんなことより土下座の準備した方がいいかもしれないので急いで体を起こそうとする。
「ゆっくりでいいですからね。」
俺の胸に手を当て、優しく声を掛けられた。
最初に目覚めた時と同じく、少し甘い香りがする。あぁ、なんだか安心するな。
「これってもしかして膝枕?」
「はい、そうです。最初と同じですね。ふふっ」
「はは・・・そうだね・・。なんだか安心する。」
「じゃあもう少しこうしてましょうか。」
そう言って頭を優しく撫でられる。さっきよりもっと安心する。
とは言ってもこの状況、自分の年齢の半分くらいの女の子に膝枕をしてもらって、さらに頭なでなでとは。ルイナさんの包容力たるや、俺を救いすぎてやばい。どこぞのちんちくりんとは違うな。
「おじさん起きたー!?」
ドアを開けるのが先か声をかけるのが先かという勢いでレイナが邪魔しにきた。
「・・・おじさんじゃねーし。」
精一杯の返事だった・・・。
「わーん!よかったよおおお!」
その直後、腹部にとてつもない衝撃、顔面はやわらかいなにかに包まれ、後頭部は撫でられてるのか締め付けられてるのかという感覚。天国と地獄を同時に体感しつつ、だからこそ冷静に判断できた。今の状況が膝蹴りされつつ顔を胸で挟まれているという事を。ルイナがアワアワしている声がかすかに聴こえるが、レイナは俺が死ぬまで膝を退かさないつもりなのだろうか。顔面は幸せです。
漸くレイナが冷静さを取り戻して膝を退けてくれたので呼吸を整えた。
「レイナ、どうして俺が目を覚ましたってわかったんだ?」
「んー、おじさんが失礼な事考えてる時の感覚がしたからかな?」
マジかよ。このちんちくりんそういうとこ敏感なのか。
「おじさん?今また・・・」
おぅふ、こいつが察知するのはちんちくりんか。なるほど、気をつけよう。
「あぁ、なんでもないから気にしなくても大丈夫。」
いつの間にか目も慣れたな。普通に開けられるようになってる。
ジト目でこちらを見ているレイナから視線を外し、天井に向ける。そういえばまだ膝枕してたんだったな・・・。あぁ、目の前にたわわが見える。
「あ、ごめんね、ずっと膝枕させちゃって。」
そう言うとルイナが視界を邪魔するたわわを越えてこちらを覗き込もうとする。なので胸があたる。ありがとうございます。
「あっ、あ、いえ、大丈夫です、むしろこうしていたいというか・・」
「おやおや〜?おじさん、ルイナの胸ばっかりみてるじゃん。アタシの胸だって負けてないんだからね!うりうり〜☆」
そう言って胸を顔にのせてくる。まぁ、たしかにほとんど同じくらいなのかな。ルイナの方が若干大きいような気がするが。なんだか今日は巨乳JKに鍛えられたおかげでだいぶ免疫がついたようで、結構冷静でいられる。
「んー・・うん、わかったらちょっとどきなされ。」
なぜか年寄り臭い話し方になって自分でも驚いた。
「うーわ、じじくさ。」
レイナ、辛辣〜。今自分でも思ったから、反省しようと思ってたとこだったから。などと心の中で唱えて許しを請う。
こんなやりとりをしてる間も、ルイナはずっと頭を撫でてくれてる。撫でるの好きなのかな?
「そんなことより、じーさんは?」
徐に起き上体を起こしつつ部屋に見当たらないじーさんについて尋ねる。
「お祖父様ならもうすぐ来ると思いますよ?なのでそれまでもう少し休んでいましょうねー。」
そう言うとルイナは、上体を起こしかけていた俺を自分の膝の上に押し戻す。そのまま撫でもセットらしい。すばらしいな。
「あー!ずる〜い!アタシにもさせてよ〜」
「すまんなレイナ、俺の頭は一つしかないのでな。」
「ほほぉ。では二つに割ればいいよね☆」
などと物騒な事を言い出したところでじーさん登場。ナイスタイミングだよ。神かよ。
「三太君、すまないのぉ、1日に何度も・・・・」
「いやぁ、いいよ。今日は特に予定もなくてスマートフォンの修理が終わったら帰って存分に寝るつもりだったしさ。」
いつの間にか俺の警戒心が薄れていたことに自分で気付く。そしてスマートフォンを修理してもらっている事を思い出した。
「おぉ、そうじゃった。すまーとほんというのはこれじゃろ?受け取っておいたぞい。修理代もこっちで持つから気にせんでいいぞい。」
「おっ、ありがとう助かる〜。さて、ちゃんと電源入るかな〜っと。」
電源ボタンを長押しすると問題なく電源が入った事を確認し、安堵する。だってこれ、今年の新モデルなんだもの。スマートフォンでゲームをやることが常な俺にとって、良いものを手にいれることは必須なのである。
「そういえば地下で一体何があったんだ?豆電球があったのは覚えてるんだけど。」
「豆電球?あぁ、アレのことじゃな。実はな、アレは魂というやつでな、それが三太君、君に反応していたのじゃよ。それでな、アレに近付いた三太君に引かれるように結界を突き破って外に出てしまったのじゃ。」
「外に?じゃあ今は地下でふわふわ浮かんでたりするわけ?それとも家の外まで行っちゃった?」
「ほっほっ、結界を破って行き着いた先は、君じゃよ、三太君。君の魂に入り込んだようじゃ。」