平成30年12月09日(日)
3回目。坪川素晴、アラサー、独身、どこにでもいるサラリーマン。「何が好きかより何が嫌いか」で自分を語る。
俺は異世界転生モノが嫌いである。「嫌いである」と言いつつ、前回うっかり異世界(「愉悦部」ワールド)へ行きかかってしまった。正に「世に異世界モノのタネは尽きまじ」。つまりは「嫌い」とは言っても、精確にはlove and hateであり、そこから離れることができないナニカ(それこそ愉悦等)を感じることもまた事実なのであろう。では、何が気に食わないというのか。パッと思いつくのは、
(1) そもそもその物語において「異世界設定」は必要なのか?
(2) 仮に「異世界設定」が必要であったとしても、転生させる必要はあるのか?
の2点か。
(1)に関していえば、たとえば
「異世界設定」と「SF(Sukoshi Fushigi)設定」は何が違うのか?
という問とも関連する。「片や魔術で、片や科学だ」という区別があるのかもしれないが、かのSFの大家は「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」という名言を残しているし、「科学と魔術が交差する時、物語ははじまる」という謳い文句の有名作品は「異世界設定」ではなく、「SF設定」の物語だろう。そう考えると『そもそも「異世界設定」って何だよ』という話になってくる。この辺りの厳密な定義に関してどのような研究がなされているかは知らないが、素朴に考えると、「SF設定」は独自のルールが設定された世界を基本的には1つ考えるのに対し、「異世界設定」は我々の「ノーマルな世界」と我々の世界と異なるルールが設定された「アブノーマルな世界」という少なくとも2つの異なる世界を考えるという差異があるように思う。勿論、「SF設定」で複数の世界(魔術サイド、科学サイド、etc.)を考えることもあるが、「SF設定」の場合はそれら複数の世界(stage)を更に包含する大枠(universe)とルールが想起されていると考えれば、やはり1つの世界を考えていると言って良いように思う。ともかく仮に
『「異世界設定」とは「ノーマルな世界」と「アブノーマルな世界」という少なくとも2つの異なる世界を考えることだ』
とする。そうだとして、それにはどんな意味があるのか?単に何らかの異能描写を行うだけならば、わざわざ世界を2つ以上も用意する必要はないはずである。
この問題は存外難しそうなので、一旦措くとして、それをクリアできたとしても(2)についてはどうするのか。たとえば「転生」ではなく「転移」ではダメなのか?実際、10年くらい前は「転移」の方が幅を利かせていた気がする。「ゼロの使い魔」なんかは典型で、しかもご丁寧にも異世界に転移したことで、主人公が(Godに会ったわけでも、転生したわけでもないのに)異世界に馴染み、イベントをこなして行くことで次第に異能の力に目覚めていった。たとえば、そういう設定ではダメなのだろうか。敢えて最初に一回何かに撥ねられないといけない理由、必然性はどこにあるのか。
まぁ、「ある日突然不思議なことが起こって異世界に飛ばされました」と「ある日突然死んで異世界に転生しました」とは少なくとも結果としては同じことだし、10年かけてトレンドが前者から後者に変遷していったというだけのことかもしれないが、個人的にはイマイチ釈然としない。これは転移とは異なり転生が「転生設定」として、「異世界設定」とは独立に、それ自身が固有の物語の設定要素(たとえば三島由紀夫の「豊穣の海」)になることがあり、安易に乱用することを嫌っているからだと思う。実際、転生といえば普通は輪廻転生を指し、異世界ではなく再びこの世界(あるいは六道輪廻)を廻りゆく設定の物語の方が多いのではないか。そこで「異世界とはこれすなわち六道輪廻のことナリ」と主張する作品があれば、『なるほどこれが「異世界転生」か』と得心もいくのだろうが、少なくとも俺はその手の作品を寡聞にして知らない。
長々書いたが、要するに物語を展開する上での必然性がよくわからないのに、安易に「異世界(転生)」という冠が使われている気がして嫌なのだ。無論、ちゃんと統計を取ったわけでもなく私的な偏見だが、しかし10年前にはこうした感覚は抱かなかったので、まるっきり無意味な固定観念というわけでもないように思う。ともかく猫も杓子も「異世界」、世は正に大異世界時代。ヘタをすれば『「異世界」という冠さえつければ、とにかく何でもアリ』という感さえあるのではないか。異世界電話、異世界剣士、異世界魔術師、異世界団長、異世界レストラン、異世界パズル、異世界ゲーム、異世界ホテル、etc. 正直、もはや何があって何がないのかさえもわからない(辞書を作る必要があるかもしれない、需要があるかは知らないが)。まるで異世界のバーゲンセール、いや「異世界大喜利」だな。
いっそ本当に「大喜利」にしてしまった方が面白いまであるかもしれない。
4回目に続くのか?