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妄想備忘録  作者: 坪川素晴
10/10

幼女先輩の憂鬱

10回目。

坪川素晴、アラサー、独身、どこにでもいるサラリーマン。

たまたま聞きに行った講演会にいた幼女先輩の物語を書いてみる。

 くそ忙しい年末の合間をぬって、付き合いから1日で別会場の二講演を梯子。で、そのうちの一つがエラい先生による宇宙の話だった。


 『こちとら今年は「宇宙よりも遠い場所」の話をみたぐらいやぞ』と少し意気込んでいたが, 案の定「宇宙よりも遠い場所」はおろか宇宙の話もダメだったよ。そんなオレのことはさておき、ともかくこの世界に存在するものは、星だろうが、陽子だろうが、ブラックホールだろうが、永遠のモノなど存在しないということはわかった。そしてその講演終了後、おもむろに手を挙げた幼女もとい幼女先輩の姿がそこにはあった。『何がはじまるんです?』と思っていると幼女先輩は奥床しくこう尋ねたのだった。


『最後のブラックホールはどうなっちゃうの?』


一瞬なんのことかわからなかったが、何秒か考えてハッと気が付いた。きっとこの幼女先輩は、「百億の昼と千億の夜」を何兆、何京、何涯と超えていき、星も、銀河も、物質で一番長生きするはずの陽子さんですら完全に消え去って久しくなったであろう、時の最果てにただ一つ残された、正に「終末のブラックホール」に思いをはせ、彼の未来を案じているのだ。こちとら来年どころか、明日や今日の御飯の心配をしているというのに、である。でもオレが幼女先輩の問のココロを推しはかることができたのと同時に、エラい先生は無慈悲にも


『それは・・・、消えちゃいます。それまでに宇宙があれば。』


と言い放つのであった。それを聞いた幼女先輩は再度


『それまでに宇宙が無くなっちゃったらどうなるの?』


と尋ねる。だが先生はやはり


『無くなっちゃいます、消える前に。』


と残酷な真理を告げる。ことここにいたり、幼女先輩は遂に泣き出してしまうのであった。一体、そこに居た幾人の大人が先輩のその悲しみを知るだろう?


 だが、このエラい先生を非難することはできない。その質問に対しては、オレだって恐らく寸分違わず同じ解答せざるを得ないだろうから。定番の「お星様になったのよ」なんて子供騙しではその幼女先輩は誤魔化せない。何せ舞台はその「お星様」達さえもがとっくの昔に絶滅して果てた更にその果ての果ての未来なのである。


『何が「かがくのちからってすげー」だ。一人の幼女を悲しませることしか出来ないではないか。なんと科学とは無力なのか』


と現代科学、現代文明の虚しさを感じざるを得なかった。しかし同時にこうも思った。


『そうか。彼女は正に今このとき、我々が決して逃れえぬ絶対の宿命を、``喩えようのないかなしみ''を知ったのだ』


実際、宇宙の歴史ほどではないが、昔似たようなことを思ったことがあったような気がする。それこそ「ダイの大冒険」の幼き大魔道士のように、ふとした不安が頭をもたげ夜も眠れなくなるような、得もいえぬ恐怖に襲われた日が、確かにオレにも存在したのだ。きっとそれと似たようなものが、今日、あの幼女先輩に訪れたのだと思う。

 結局、その恐怖、かなしみに対する対処法、解決策は未だにみつかっていない。恐らくそんなものはないのだろう。にも関わらず、それらはいつの間にか忘れ去り、大して気にも留めなくなってしまった。

でも完全に消え去ってしまったわけではない。今でも頭のどこか奥底、いやひょっとすると実は案外意識の表層のすぐ近くに潜んでいる感じがする。


 そんなとりとめも無いことを思い出したり、考えたりしながら、心の中で幼女先輩を励ましてあげた(実際に声をかける度胸は無かった。幼女先輩も女性ナノダ)。


『幼女先輩、泣かないで。「だから人間は一生懸命生きるのよ」。「一瞬だけど、閃光のように」!』


そして久々に『「ダイの大冒険」が読みたくなったなぁ』と思い、夕日をみながら帰路に着く。そんな冬至だった。

11回目に続くのか?

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