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鬼闘神楽  作者: 武神
第3章 闇からの挑戦
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弐拾ノ舞 たまには二人で

皆さまはどの様なGWをお過ごしされましたでしょうか。

私は代休含めて11連休でしたが、それはそれで暇です……


『本日未明、埼玉県さいたま市大宮区の路上にて会社員、田中理恵さん(26)が首から血を流して倒れているところを発見され、救急車で運ばれましたが、搬送先の病院で死亡が確認されました。死因は頸動脈からの失血で、警察では手口が全国で多発する通り魔のものと同一であるとして――――――』



 ――――――ブツンッ!



「まったく、どこの局もバカみたいに同じ事ばかりね。…………って、仕方無いか。」



 結衣が通り魔に襲われ、そして「アイナ」らしき人物に倒された出来事から3日が経っていた。

 初めは思わぬ事件の解決だと喜んだ。何か釈然としない結果ではあったものの、元凶が取り除かれたのだ。解決かと言われると怪しいが、それでも終息の兆しを見せるだろうと誰もが思っていた。

 美麻も寛二も担当地区へと帰っていった。


 その矢先の出来事だ。

 一哉を含めて、一同は今やお通夜のような空気の中で項垂れるしかない。

 殺されたのは、2年前に北関東某所の心霊スポットにイタズラに入り込んだ女。忌土地と化した地に無防備に踏み込み、悪霊に呪われた女性だった。

 その時に対応したのは、他でもない一哉と咲良だ。


 結局のところは何も変わってはいなかったのだ。

 解決したかと思われた通り魔事件は、南条家の面々を嘲笑うかのようにこうして再び起こっている。まるで「我、此処に在り」と主張するかの様に――――――



「でも、どうするのお兄ちゃん? 手がかり、また無くなっちゃったけど。」



 佐奈の言う通り、先日の襲撃者が倒された事で、対策院関係者を狙った連続通り魔事件の調査は再び暗礁に乗り上げていた。

 また、敵から来るのを待つしかないのか。

 だが、一哉としてもこれ以上好き勝手動かれるのは面白くない。今までの様に対処療法的に対応しているだけでは、いつか致命的な何かを失う。そんな気がする。



「アイツを…………『アイナ』を追うのはどうだろう?」



 一哉はふと思い出したその名前を口に出す。

 先日、対策院にたった一人で殴り込みをかけてきた男。

 そして、一哉の目を離れた結衣を救った人物。

 結衣から聞いた話によれば、敵である『魔人』なる存在の事を相当詳しく知っているようであったし、もはや一哉に心当たりのある、事件解決への糸口の可能性は「アイナ」唯一人しか持っていない。



「でもお兄ちゃん、その人に会うあて有るの? それに、会ったとしても殺意満々で襲いかかってくる未来しか見えないけど。」


「問題はそこなんだよ。アイツがどこにいるか、まるで検討がつかない。それに、仮に会えたとしても、間違いなくこっちを殺す気で襲いかかってくるしな。」



 一哉は先日の「アイナ」との戦闘を思い出す。

 常軌を逸した膂力に、「龍の(コンファイン・)拒壁(ウォール)」なる霊術の無効化魔術。そして、一哉に向けられる激しい憎悪。

 一哉も全力で戦って漸く互角程度。

 しかも、いつ感情の制御が出来なくなるかわからない爆弾付きである。

 当然ながら、悠長に話を聞けるような相手ではないだろう。



「だが、それしか可能性が無いならやるしかないだろ…………」


「一哉兄ぃ…………」



 正直、積極的に取りたい手法ではないが、この状況では致し方ない。一哉は何か「アイナ」と会う方法は無いかと考え始める。

 だが、良い方法が思いつかない。

 まさか街中で暴れる訳にもいかず、コンタクトの方法が全く無い。

 早くも頓挫の可能性が持ち上がってきた案に一哉が頭を悩ませていると、そこに、今まで口を挟まなかった結衣が声をあげた。



「一哉君………………。私にも、何か出来る事無いかな?」



 何かを思い詰めたような顔。

 この状況に責任を感じているとでもいうのだろうか。

 だが、この状況に対して、結衣に何の責任があろう。

 それに一哉としては、結衣に無理に関わって欲しくなかった。

 何しろ結衣は既に一度襲われているのだ。4ヶ月前の東雲家への【鵺改(キメラ)】の襲撃、巻き込まれた【砕火】の襲撃と合わせて計3度も命の危機に陥っている。



「結衣はそんな事気にしなくて良い。前から思ってたが、結衣は何かと怪魔絡みの事件に巻き込まれやすいみたいだし、そもそもこの事件は下手に首を突っ込まない方が良い。」


「で、でも…………」


「そう、結衣さんは黙ってて。何の力も無い癖にしゃしゃり出ないでください。ハッキリ言って迷惑です。」



 相変わらず結衣に対しては容赦の無い佐奈の言い草だが、今回ばかりは一哉も何も言わなかった。

 実際問題、狙われて自衛できない人間が現場に出てくる事程、足手まといになる出来事も無い。

 結衣には悪いが、今は大人しくしていてほしい。

 もうすぐ、大学の前期期末試験。

 それが終われば、異様に長い夏休みの始まりだ。

 結衣には大人しく屋敷に居てもらって、その間に何とか『アイナ』を探しだそう。

 一哉がそう考えていた時だった。



「まあまあ、そう言わないであげてください、南条佐奈さん。結衣さんも歯痒いんですよ。」



 南条家に突如現れたのは、広島に戻った筈の嶋寛二。

 人の良さそうな笑みを浮かべながら、部屋へと入ってくる。



「嶋、美麻さんと広島に帰ったんじゃなかったのか?」


「ええ、そうだったんですがね。でもいざ戻ってみたら、また例の通り魔事件が起きてるじゃないですか。居てもたってもいられなくなって、戻ってきたという訳です。」


「おいおい…………。まさかとは思うが、美麻さんには――――――」


「言ってません!」



 この嶋寛二という男、上司の許可無く東京へと戻ってきてしまったらしい。

 呆れのため息を吐くしかないのだか、丁度人手が欲しかった一哉にとっては、実は願ったり叶ったりの状況である。



「まあ、こっちも人手が欲しかった状況だ。素直に歓迎するぞ、嶋。」


「こちらこそよろしくお願いいたします、南条特級。」



 寛二は一哉に握手を求めると、そのまま結衣の方へ向かう。

 何故かはわからないが、寛二は結衣をいたく気に入っているらしく、結衣が側に居るとき、寛二の優先順位は結衣が最上位に来るらしい。

 一哉としては何となく釈然としないが、周りに結衣に良くしてくれる人が少ないので、放っておいている。



「結衣さん、お久しぶりです。」


「あ、あはは…………。久しぶりって、2日ぶりですよ? 大袈裟ですって。」


「何をご冗談を! 結衣さんの様な方を一日でも、一目見られないとあれば、それは重大な損失ですよ!」



 結衣は明らかにドン引きしているのだが、寛二はお構いなしだ。

 コレには、佐奈も咲良も生暖かい視線を送って見るしかないようで、誰も止めようとしない。

 一哉としては、寛二とは再発する通り魔事件の対策を話し合いたいのだが、困ったものである。



「それに結衣さん。僕が来たからにはもう大丈夫です。」



 「いや、別に全然大丈夫じゃないだろ」とは思う一哉。

 だが、止めたところでどうせ寛二には止める気は無いようで、言うだけムダなのである。



「心配そうな顔しなくても大丈夫! 怪魔だろうと、不審者だろうと、貴女の事は僕が護ってあげます。だって僕は鬼闘師なんですから!!」



 果てはこんな事を言い出す始末だ。

 このセリフを聞いた佐奈と咲良は吐きそうと言わんばかりの様子だ。



「うっわ。よくあんなクサいセリフ吐けるわね。ちょっと背筋ゾワってしたわよ。」


「うん、咲良ちゃん、私も。恋は盲目って言うけど、アレはちょっと…………」



 一哉自信も「ちょっとコレは無いな」等と思った寛二のセリフだったが、一哉は不思議なことに、このフレーズをどこかで一度聞いたことがあるような気がした。

 まさか自分が言うわけもなく。

 じゃあ、親友の智一かと思ったが、それも違う気がする。

 かなり最近聞いたような、だが懐かしい気もする言葉。

 一哉は思い出せそうで、思い出せないという何とも引っかかる感覚に陥っていたのだが――――――



「その…………言葉…………」



 なぜか結衣が驚愕の表情で寛二を見ている。

 という事は、結衣に関係している言葉なのか。

 気にはなる。

 だが、全く関連性を見出せなかった一哉は、自分のそんな感覚を放置する事にした。

 この事が後々、事件を加速させるとは思いもせずに。



● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇



「それで嶋。話は戻るが、俺は対策院を一人襲撃してきた、あの『アイナ』という男を追おうと思う。」


「ああ、あの時の…………。僕も一度、例の『魔人』に結衣さんが襲われたときに遭遇してますが、大丈夫ですか? あくまで僕の直感ですけど、アイツ相当ヤバいですよ。」


「そんな事はわかってる。俺は奴と直接戦ったんだ。正直、次に戦って勝てる見込みは半々か、それより少ない位だな……」


「お兄ちゃん…………」



 今度こそ、一哉は寛二と共に連続通り魔事件の抜本的解決に向けた打合せを行っていた。

 一哉の懸念点。

 待っているだけでは被害が拡大し続け、いずれ取り返しのつかない事になる。

 この点に寛二も同意し、今こうして佐奈を含めて3人で打ち合わせをしているわけだが――――――


 結局行きつくのは、自分達から攻めるのであれば『アイナ』を攻めるしかないという事。

 だが、それはあまりにも危険を伴う手段。

 そして、それ以前に――――――『アイナ』が何者で、どこに行けば会えるのか見当もつかない。



「問題はどうやって奴を探し出すか、なんだが…………。何か良い案無いか、嶋?」


「えぇ……っ?! ここでその無茶ぶりですか?! 僕が知ってるわけないじゃないですか。」



 当然の反応だろう。

 『アイナ』と遭遇したのは、一哉を含めた関東地区管轄の一部の鬼闘師のみである。

 少なくとも一哉が把握しているだけで、「龍の腕を持った人物」との交戦履歴はその1件を除いて一度も無い。

 情報が無い方が当たり前なのだ。

 そして、非常に情けない事に、一哉側に情報がほとんど無いのは毎度の事である。



「嶋君、使えない。」


「酷いっ! いくら何でもそれは酷いですよ、南条3級!」



 ついでに、佐奈が異常に毒舌なのも毎度の事である。





 それから1時間ほど話し合った一哉と佐奈と寛二は、結局「なんとかして『アイナ』を探し出して情報を得る」という、何の解決にもならない方策しか導き出せなかった。

 途中から、再び結衣と咲良も加えて議論していたのだが、もはや完全に専門外――――しかもうち一人は完全な一般人だ――――の人間を加えたところで実りは見込めない。



「これ以上話してても埒があかんな。」


「そうですね。とりあえず今日はお開きにしましょう。」



 結局これ以上話しても時間の無駄ということで、寛二はひとまず帰ることになった。

 寛二は宿を既に取っているらしく、そちらに行こうと言うわけだ。

 単独で、しかもいきなり来たにしては準備が良い。



「嶋。さっきも話したが、俺はとにかく、明日から『アイナ』の手がかりを得るために、本部に行こうと思う。気になる情報もあるしな…………」



 一哉は光太郎から聞いた、西薗の娘のデータが消されているという報告を頭に思い浮かべる。

 まさか今更西薗家が関わっているとは思えないが、可能性がゼロでないのであれば、潰しておきたいと思うのが一哉の性分であった。



「わかりました。結衣さんの護衛は任せてください。」



 結衣の護衛は寛二に頼むことにした。

 二級鬼闘師である寛二には荷が重い話だろうが、いかんせん人が足りない。

 対策院上層部はこの状況でも、何故か情報をひた隠しにしており、上級以下の鬼闘師には、一部を覗いて情報が完全に伏せられている。


 とにかく動員できる人数が少なく、しかも美麻も居ないこの状況では、寛二に任せるしかない。



「それでは南条特級。また明日。」



 そう言って出ていく寛二。

 玄関から出た寛二を見て、各々部屋に戻ろうとする南条家の一行だったが、一人結衣だけが、寛二を呼び止めた。



「あ…………待ってください、嶋君!」


「どうしました、結衣さん?」



 寛二が不思議そうに振り返る。

 一哉達も結衣の行動に驚きの視線を送るしかない。

 何しろ、結衣は寛二のグイグイ言い寄ってくる姿勢を苦手にしており、自分から話しかける事など殆ど無かったのだから。



「あの…………嶋くん。」


「はい、結衣さん。」



 寛二は真面目な表情で結衣を見つめる。

 結衣は少し言いづらそうに言い淀むと、さっきの比ではない、衝撃的な言葉を吐き出した。



「明日、一緒に出掛けませんか!」


「「「………………はぁっ?!」」」



 佐奈と咲良は勿論、一哉と当事者であるはずの寛二までもが目を丸くして驚く。



「ゆ、結衣……?」


「いきなりどうしたんですか、結衣さん……?」


「えっと…………ホラ。明日から嶋君に護って貰うわけですし、たまには二人きりで親交を深めてみるのもどうかと思いまして…………って、理由なんかどうでもいいじゃないですか! ね、行きましょう、寛二君?」



 いつもと違ってかなり強引な結衣に、一哉と佐奈と咲良は唖然とし続けるのみ。



「え、えぇ……構いませんけど…………。僕は嬉しいですし…………。」


「じゃあ、明日12時にココで待ち合わせましょう! わざわざ来てもらうのは申し訳ないですが、護衛してもらわないといけないわけですし…………。」



 結衣は矢継ぎ早に寛二との約束を取り付ける。

 それこそ、これまで散々積極的だった筈の寛二が圧倒される程の勢いで。



「じゃあ嶋君、また明日。あ、それと、佐奈ちゃんと咲良ちゃん。大事なお話があるので、後で私の部屋に来てください。」



 突発的な嵐は自室へと帰っていった。

突如寛二とデートする事になった結衣

その行く末とは……

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