表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼闘神楽  作者: 武神
第3章 闇からの挑戦
66/133

Future Episode 00【新時代】

突然ですが、間に短編を挟みます。

令和記念ショートストーリーです。

『確かにあの子は変わった……。でも、死んでも変われないものだってあるのよ…………今の私みたいに……。』



 俺の胸の中には彼女のあの言葉がいつまでも渦巻いている――――――







「いってきます、兄さん。」


「ああ、気を付けてな、佐奈。」



 時代というものは移り変わる。

 実は変わらないという事は中々難しく、どんなものだって大なり小なり変わってしまうものだ。

 佐奈だって変わった。

 変わってしまった。

 それは人の成長という名の変化なのか、それとも無情な時間の流転の結果なのか。


 俺は佐奈の背中を見送りながらそう思う。

 今は2019年5月1日。

 あの戦いから早5カ月――――――







「ほら、一哉兄ぃ。ネクタイ曲がってるわよ。」


「む……。やっぱ慣れんな、コレ。何回結びなおしてもこうなるんだが……。」


「あははっ! 元・天才特級鬼闘師様も、ビジネスマンになるには一苦労じゃない?」


「うるさいぞ、咲良。」


「ごめんごめん。でも、これから何回も面接受ける事になるんだから、ネクタイぐらいしっかり結べるようになりさいよ?」



 もちろん、変化というのは個人だけに留まらず、色々な所に現れる。

 それは当然ながら、俺の家である南条家にも現れている。


 まず一つ、結衣は父親と新しい家に移り住むことになり、この家を出た。

 「こういう事は年が明ける前に……」と、戦いが終わってすぐ、結衣はこの家を出て行った。


 そしてもう一つ、咲良がこの家に本当に住むようになった。

 帰ってきた佐奈がまるで別人のように大人しくなったのと入れ替わる様に、咲良はこの家に住むようになった。


 あの戦いで北神神社は崩壊。

 対策院が消滅した影響で、維持する意味が無くなった北神神社は、放棄される事が決まった。

 結果、いつかの結衣の様に家を失った咲良だったが、咲良の場合は、両親について分家筋の神社に移り住むという事も可能だった筈だった。

 実際、咲良の両親はこの地を離れ、遠く東北の地で再び神主になっていると聞く。

 だが。



「うん、かっこいいわよ。さすがは私の初恋の人。」



 俺が思うに、咲良のこの行動は、何か振り切ったように俺に対してアピールしてくる、結衣や莉紗に対する牽制と嫌がらせだと思っている。

 実際、咲良はまるで専業主婦の様に屋敷に居座り、隙あらば俺と共に居ようとする。

 それも、比較的過剰なスキンシップ付きで。


 確かに俺はあの時トラウマを克服し、いわゆる「普通の恋愛」というものができるようになった。

 だからと言って、いきなり自分に好意を寄せてくれる女の子が4人いて、そこから一人選べと言われても無理な話である。

 まあ、うち一人は実の妹だが。







「よぉ、一哉! 案外、スーツ姿のお前も様になってるな!」



 俺と同じくリクルートスーツに身を包んだ智一が、不必要なほど大きな声と共に俺の肩を叩く。

 俺達は大学4年生。

 まあ、早い話が就活真っただ中というわけである。



「智一……。お前、ここ一応会社だ。もっと静かに喋れ。」


「おっと。南条君はこれまたお堅い事!」


「うるせえ。放っていくぞ。」



 人々は立ち直りが早いというのか、覚えていられないぐらい忙しいというのか。

 まるであの5カ月前の出来事など無かったかのように、世界は回っている。

 あれ程の事があったというのに、街行く人はそんな事などお構いなしに歩いている。


 対策院とは何の関係も無かった彼らも、あの戦いの事は知っているだろうに。



「一哉君、鈴木君、おはよう。」


「結衣、おはよう。」

「おはよう、東雲さん。」



 そこに、同じくリクルートスーツに身を包んだ結衣がやってくる。

 結衣が南条の屋敷を去ってから5カ月。

 研究室配属等もあり、顔を合わせる機会は減ったが、別に結衣に会わなくなったわけではない。

 むしろ、同居していた時よりも一緒に出掛ける時間は増えているかもしれない。



「今日は頑張ろうね、一哉君、鈴木君。」



 変化と言えば、結衣もそうだ。

 まだうちに来たばかりの頃は、彼女のイメージ通り大人しく控えめであった結衣は、そのイメージを覆しつつある。

 というよりは、俺が11年前の事を思いだした事が彼女にとって大きかったのだろう。

 あれからどこか、結衣は積極的になった――――――気がする。


 世界は常に変化するものだ。







「ありがとうございました。」



 面接も終わり、会場のビルから出る。

 春先にもかかわらず異様な陽気に包まれる今日は、スーツ姿だという事も相まって汗ばむ程だ。

 対策院の鬼闘師として活動していた頃は夏場でも全身黒装備の服で固めていたが、それにも劣らない暑苦しさだ。

 日本のサラリーマンというのはよくこんな格好で日々動いている者だ。

 尊敬に値する。



 あの戦いの後、対策院は消滅し、仕事としての鬼闘師の任務は全て無くなった。

 政府側は頑なに対策院の存在を否定し、まるでトカゲの尻尾切のように闇の中へとその存在を葬った。

 つまり俺達対策院所属の人間は、須らく失職した事と変わりない。


 俺の様にたまたま就職活動と時期が被った人間ならまだしも、咲坂さんや美麻さんの様にそれなりに歳を重ねた人達は今も今後の生活への不安に苛まれていると聞く。


 世界はどんな時だって回る。

 例え俺達を置いてでも。



 俺達は前に進めるのだろうか。

 いや、例え希望が無くても進むしかない。

 生きている限り。

 俺達が自分が人として生きている限り、前に進んで歩いて行くしかない。

 それが俺達があの戦いの果てに見出した答え。



『それでも私は変われない。変わるつもりも無い。だから、私は…………人間などでは無いの。』


『私は…………貴方の記憶の片隅にほんの一かけらだけいればいい。だから…………私を……忘れ…………ないで。』



 世界は回る。

 回って変化する。

 変われない者達を置いてけぼりにして。


 俺達が命を懸けて護ったこの世界に、意味などあるのだろうか。

 その答えは……今の俺にはわからない。



 2019年5月1日。

 年号が「平成」から「令和」へと変わるその日。

 日本は新時代を迎える。

 俺達にも……新時代が来る。



 人生とは旅だ。

 勝手に周り続ける世界を駆け抜ける、永遠の旅だ。

 俺の旅の目的は見えている。

 そのために俺は旅をする。


 今の俺が抱く疑問をの答えを――――――見つけるための。

最後までお読みいただきありがとうございました。

今回の短編は、最終回後の時系列となります。

本編は最終回はおろか、折り返し地点にもついておりませんが、どのようなストーリーを経てこの未来に辿り着くのか。

長々とはなりますが、お付き合いいただけますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ