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鬼闘神楽  作者: 武神
第3章 闇からの挑戦
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extra episode 08【お友達はアイドル】

今回のextra episodeは久々の佐奈視点。

第3章冒頭の10ヶ月前、学園での一幕となります。

――――――10ヶ月前・美星女学院中等部3-C教室



「ねえねえ、佐奈ぁ。ちょっと良いかなぁ…………?」



 だいぶオドオドした態度で私に話しかけてきたのは、中学入学以来の私の友達の桃瀬瑠璃だった。



「どうかした、瑠璃?」



 瑠璃はとても可愛い女の子。

 大きなタレ目に、丸くて小さな顔。小さな鼻に、艶のあるピンクの綺麗な唇。そして腰を越えるほど長い、ストレートロングの濃い茶髪。その絵に描いたような可憐さは、女の私でもたまにドキッとしてしまうんだよね。

 それにしても、その凄く長い髪は鬱陶しくないのかな。髪も傷みやすいし、髪洗って乾かすのにも時間かかるから、手入れが大変そう。私はロングヘアーの手入れの大変さを知っているので、手入れの簡単さと可愛さを両立できるショートボブにしてるんだけどね。


 私の思考はどんどん横道に逸れていくが、話しかけてきた瑠璃は話を切り出そうとしては口をつぐんでを繰り返し、何も状況が進展しない。

 ここが瑠璃の悪いところだと私は思う。

 瑠璃は可憐を絵に描いたような容姿をしているけど、その見た目通りというのか、何というのか、とんでもなく気が弱い。

 人見知りでは無いんだけど、そこそこ付き合いのある筈の私に対してすらここまでオドオドしているんだから、相当なモノ。

 ちょっと焦れた私は、当てずっぽうに話題を当ててみた。



「瑠璃~。そんな言いづらい話題って事は………………お兄ちゃんの事?」


「――――――っ?! ~~~…………!!」



 そんな分かりやすく動揺しなくても良いのに……。

 そして当てずっぽうだったのに、バッチリ当たっているのに呆れ半分。


 実は私と瑠璃、私のもう一人の友達の友里は、たまに南条の屋敷で遊ぶのだけど、瑠璃は初めてうちに来た時に会ったお兄ちゃんに一目惚れしたらしい。

 私は「お兄ちゃんには咲良ちゃんが居るから」と、諦めるようには言っているのだけど、まるで聞いてくれない。それどころか「わたし、北神先輩に絶対負けないもんっ!」などと、ライバル意識すら持っちゃってるもんね…………。

 私も瑠璃にだけはあまり強く言えなくて、結局なぁなぁになってしまっているのは否めないなぁ。



「あ…………あ、あぅ…………えっと、一哉さん……元気?」


「うん、元気だよ。お兄ちゃん今夏休み期間中だからね。大体筋トレしてるか寝てるよ。瑠璃、またうち来たいの?」



 私がそう聞くと、瑠璃は顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 その様はとても可愛いんだけど…………瑠璃がお兄ちゃんのハートを射止める確率は、私が邪魔しなくてもゼロだと思う。

 というのも、瑠璃の淡い恋心はお兄ちゃんにバッチリバレているからね。あの、超絶鈍感の朴念仁で、仕事魔神のお兄ちゃんがだよ? びっくりしちゃうよね。

 でも、あのお兄ちゃんが瑠璃の気持ちに気づいてて、何の興味も拒絶反応も示さないって事は、ハナからそういう対象に見られてないって事だもん。まあ、そんな事瑠璃には言えないけど。

 そんな事を考えていた私だったが、瑠璃の答えは全く予想外ななモノだった。



「あぅ…………また一哉さんに会いたいのは会いたいんだけどね、今回は違うよ。…………ねぇ佐奈ぁ…………。一哉さんってアイドルって好きなのかなぁ…………???」



 はい―――――――っ?!

 ちょちょちょちょ……ちょっと待って!

 一体これどういう文脈?!



「わたし、これに応募してみようと思うんだ………」



 そう言って瑠璃が差し出してきたのは、何とアイドルのオーディション募集のチラシだった。

 え? え?

 瑠璃がアイドルってどういうことっ?!



「一哉さん、わたしに優しくしてくれるけど、そういった対象としては全く相手されてないでしょ…………? 前も頑張ってデートに誘ってみたけど、なんかちっちゃい子のたわ言みたいに流されちゃったし…………。」



 ――――――ああっ! そういえばそんな事あった!

 絶対にやめといた方が良いって注意したのに、瑠璃が勝手に暴走してお兄ちゃんにこっぴどくフラレた事!

 あの時の瑠璃を慰めるのはホント大変だったんだから。

 いやまぁ、お兄ちゃんが過去のトラウマで色恋沙汰に拒絶反応示す様になってるのはわかってるし、あの激しい拒絶反応で瑠璃を傷つけなくて済んだから良かったけど。

 もうちょっと言葉選んでよ、お兄ちゃん…………。



「んー、でもその話とアイドルに何の関係があるの?」



 私は単純な疑問を瑠璃にぶつける。

 瑠璃が、お兄ちゃんから、私の友達としてはともかく、女の子としては全く相手にされていない事は今更なので、特に何も言う事は無いけど、それとお兄ちゃんがアイドル好きかどうかなんて全く繋がりが見えてこないもん。

 頭に大量のはてなマークを浮かべている私に、瑠璃は顔を真っ赤にしながらも、どこか決心したかのような顔をして答えた。



「今のわたしは、一哉さんにはどうでも良い存在かも知れないけど…………。アイドルになって有名になれば、一哉さんも少しは振り向いてくれるかなって…………! それに、一哉さんがアイドルが好きなら、効果覿面だと思うし………………。」



 うーん?

 え、何?

 お兄ちゃんに振り向いてもらうためにアイドルになるって?

 夢見る少女顔で瑠璃が何か言ってるけど、この子の思考回路が全く理解できないよ…………。

 どこの世界に好きな男の子を振り向かせるために、アイドルになろうとする人間がいるの?

 あ、居たわ。目の前に。

 瑠璃のもはや理解不能な思考回路に、もはや呆れを通り越して尊敬の念すら感じるよ。


 でも、その努力はきっと無駄に終わるよ。

 お兄ちゃん、絵とか音楽とかほんっと興味ないもん。何度か強制的にジャズを聞かせた時なんか、2分で寝てたもん。

 だから、お兄ちゃんの気を引くためだけにアイドルになるのはやめた方が―――――――



「ねぇ、どうかな、佐奈ぁ…………?」



 瞳を潤ませて私を見つめる瑠璃に、私はとてもそんな事を言えなかった。

 いつもそうだけど、なぜか私は瑠璃にだけは甘くなってしまうんだ。ホントなんでだろうね。咲良ちゃん以外の女の子がお兄ちゃんに近づこうとする度に排除してきた私だけど、瑠璃にだけはそれができない。別に何か助けてあげるつもりは無いけど、瑠璃がしたいと思う事は、私には否定することができないんだ。

 だから「そんな常にオドオドしてたら、まずオーディション受からないでしょ」とは思っていても言ってはいけないのだ!



「ま…………まぁ、いいんじゃない? 瑠璃には瑠璃のやり方があるもんね。」



 そう言いながら、私は瑠璃の持っているチラシをひったくる。

 なになに…………?

 「『D-princess』追加メンバーオーディション」だって?

 申し訳ないけど、聞いた事もないアイドルグループだよ。地下アイドル…………?

 そうして眉を潜めながらチラシを凝視していた私だったけど、突如首に巻き付く生暖かい何かの感触にビックリして飛び上がった。



「うひゃあ…………っ?!」


「さーなー。何してるの?」


「ちょ…………友里! ビックリさせないでっていつも言ってるじゃん!」



 私の首に絡み付いて――――――もとい、後ろから抱きついてきたのはもう一人の私の友人である、関川友里だった。

 友里は可憐な見た目の瑠璃とは違って、ザ・委員長って感じの子だ。普段からその見た目通りとても真面目でキッチリしてる子だけど、なんか私とスキンシップするときの距離感が妙にエロいんだよね。先生達やお兄ちゃんの前では、委員長キャラで通してて、「エッチな事なんか出来ません!」と言わんばかりの態度を取るくせに。

 たまに、友里は実はレズなんじゃないかと思うことがある。

 まあ、友里は学外に彼氏が居るらしいから、そんな事無いと思うけどね。それにしても彼氏か…………。くそぅ…………私と瑠璃は叶わぬ恋をしているというのに、ズルい奴め…………。



「んー? 『追加メンバーオーディション』??? え、何、佐奈、アイドルになるのっ?! いいねっ! 佐奈はめっちゃ可愛いんだから、トップアイドル間違い無しだよ!!」



 ………………このおバカ!

 何で私がアイドルなんかやらなきゃなんないのさっ!

 委員長なのは見た目だけかっ!

 私はお兄ちゃん以外には絶対媚び売らないんだから!


 内心憤慨した私が友里に文句を言おうとしたが、それより先に口を開いた人がいた。瑠璃だ。



「えっとね、それ、私が受けようと思ってるの…………。」



 そんな瑠璃に、私はホンの少しだけビックリしていた。

 こういう時に瑠璃が話に加わるのは、結構珍しいから。いっつもオドオドとしている瑠璃が、話を振られていないのに自分から会話に加わってくるのはそうある事じゃないんだよ。



「わたし、やっぱり一哉さんに振り向いてほしくて…………。アイドルになったら、少しは一哉さんもわたしの事、意識してくれるかなって。それに、少しはわたしも一哉さんとお話できるかなって…………。」



 そういえばそうだった。

 最近瑠璃をうちにあまり呼んでないから忘れてたけど、瑠璃は根本的にお兄ちゃんと話すことすら出来ないんだった…………。顔を見るだけで照れちゃって言葉が出てこないなんて、どんだけ純情ちゃんなんだよぅ!

 本来、恋敵でしかない筈の瑠璃を無下に出来ないのは、やっぱりこういうところが可愛いからなのかな。



「そ。私じゃなくて、瑠璃。私がアイドルになるとか言うわけ無いじゃん。…………もうすぐ家業手伝おうとか言ってるこの時期にさ。」



 当然家業っていうのは鬼闘師の事で、半年ぐらい後に任官試験が控えている。元々アイドルになる気は無いけど、どちらにしろ私には無理な話なんだよね。



「ふーん…………。って、ええ?! 瑠璃がアイドル? 嘘でしょっ?!」



 友里、それはいくらなんでも瑠璃に失礼だよ。

 ほらぁ、瑠璃がむくれちゃってる…………。まあ、そんな瑠璃も可愛いんだけどね。



「い…………いいでしょっ、私がアイドルやっても! それとも、何か悪い? 友里に迷惑かけた…………っ?!」


「え、あ、いや…………。悪いってことは無いと思うよ? でも瑠璃、人前出るの凄く苦手なのに大丈夫なの? そんなんじゃ、オーディション受かんないでしょ。やめといた方が良いんじゃない?」



 あ~あ、言っちゃったよ、友里。

 私は思ってても言わないようにしてたのに…………。そんなわかりきった事指摘して怒らせなくても。



「友里、酷い! いいもんっ! 絶対、オーディション受かっちゃうんだから…………!」



 瑠璃は肩を怒らせて教室から出ていってしまった。

 ほら、言わんこっちゃない。瑠璃は可憐で可愛いけど、誰よりもお子ちゃまなんだから、そんな事言ったら怒るに決まってるじゃん。



「友里、さすがにさっきのは言い過ぎ。瑠璃にあんな事言ったら怒るの、友里だったらわかってたでしょ?」


「う…………。でも、ちゃんと教えてあげた方が本人の為になるんじゃないかな………………?」


「それはそうかもしれないけど………………。でも、瑠璃がやる気満々なのに、わざわざちゃちゃ入れる必要ないじゃん。」



 事も無げに答える私に、友里はビックリした顔をしていた。私、何か変な事言ったかな?



「ふ~ん…………。珍しいね、佐奈。佐奈がお兄さんの事で躍起にならないなんて、どういった風の吹き回し?」



 失礼だなぁ、友里!

 私は別に瑠璃のする事の邪魔をするつもりは無いんだ。別にお兄ちゃんに直接何かしようってわけじゃないし…………

 確かに、私は瑠璃には甘いかもしれないけど別にそんな事友里に関係ないじゃん。

 それに――――――



「瑠璃は凄く気合い入れてアイドル目指してるけど、お兄ちゃん、実は音楽とか絵とか全く興味ないんだよね。だから、最悪デビューしても気づかなさそう。」


「うわぁ…………。それ、瑠璃に教えてあげたの? さっきの瑠璃の様子だったら、絶対聞いてないよ、それ。」



 あ、ヤバっ。

 さっき聞かれてたのに、瑠璃の可愛さにつられて、言うの忘れてた…………!

 あるまじき失態を犯したことに気付いた私の顔を見て、友里が溜め息を漏らす。



「図星なんでしょ。」


「いやまぁ…………色々あって言い損ねたって言うか…………。やっぱり、今から追いかけて教えてあげた方が良いのかな?」


「まぁ、大丈夫じゃない? 瑠璃のあの引っ込み思案だったら、オーディションも受かんないでしょ。」



 うわ、ひっどいなぁ。

 と言いつつも、私も正直、瑠璃がアイドルになれるなんて思ってない。確かに、瑠璃は顔も仕草もとても可愛いのだけれども、私に対してですら喋るときにどもってるようじゃ、厳しいでしょ。

 だから、友里と二人で瑠璃の慰め会をしてあげよう、なんて計画していたんだけど――――――



「みてみて、佐奈、友里っ!! わたしも、やればできるでしょっ?」



 そう言って、満面の笑みでオーディション合格通知の紙を私達に見せる瑠璃に唖然とする事になるのは、それから大体3ヶ月後の事だった。

今回は閑話休題ということで、今まで設定はされていても、微塵も出てこなかった、佐奈と咲良の学園の話を書いてみました。

本当はもう少し後に掲載予定だったのですが、本来載せる予定だったショートストーリーが書き上がらなかった為、急遽繰り上げ掲載でございます。

大体、仕事が忙しいのと、デビルメイクライが面白いのが悪い(爆)


次回は本編に戻ります。

よろしくお願いいたします。

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