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鬼闘神楽  作者: 武神
第3章 闇からの挑戦
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壱ノ舞 騒がしい夜

最後の、4人目のヒロインが遂に登場します。

名前だけですが。

「おい、佐奈。行儀悪いぞ。」


「だってお兄ちゃん。今日のこの番組、瑠璃が出てくるんだよ?! 友達としては絶対見なきゃだもん。」



 一哉がテレビにかじりつく茶髪ボブカットの天真爛漫少女に注意する。

 その少女――――――南条佐奈は一人食事も取らずに、南条家の32インチ液晶テレビの前に張り付いているのだ。一哉の言う通り、行儀が良いとは言えない。

 7月下旬という夏の入り口ともいえる季節で、湿気が多いにも関わらず、茹だるような暑さの夜。そんなこの日の南条家の食卓はいつもより少し騒がしかった。



「すみません、お兄さん、咲良先輩、東雲さん、なんかお邪魔しちゃって…………。」



 申し訳なさそうな顔で一哉達に謝ってきたのは、関川友里という、佐奈と同じセーラー服に身を包んだ、黒髪ショートボブの髪型に縁無しの眼鏡をかけた少女だった。見た目は委員長タイプの少女で、結衣に少し似ている。この少女は、佐奈や咲良と同じ美星女学院に通う佐奈の友人であり、一哉も多少面識があった。美星女学院は中高一貫校であり、中学時代から仲の良かった友里は何度かこの家に遊びに来ていたのだ。

 当然ながら、彼女は自分の友人やその兄、そして自分の先輩が、一般人には話す事の出来ない、秘密の仕事をしている事など知らないのだが。



「いや、構わないよ友里ちゃん。別に君が家に来ることは問題では無いから。」



 一哉は無表情癖持ちなりに安心させようと微笑んだつもりだったのだが、逆に友里は更に申し訳なさそうな顔になっている。どうも上手く笑顔を作れていないらしい。

 向かいの席に座る咲良も「これで笑っているつもりなのかしら? 一哉兄ぃらしいと言えばらしいけど………………」などと呟いている。


 今、南条家の食卓には和食が並んでいる。

 全て作ったのは、今日の食事当番であり、南条家の居候でもある東雲結衣であった。

 結衣の作る料理は比較的和食が多い。とりわけ腕が突出しているわけでも、何か独創的なオリジナルメニューを持っているわけでもないが、とても美味しい家庭の味だというのが一哉の結衣の料理に対する感想だった。

 実際味は良く、咲良などはテレビなどには目も暮れずに食べている。


 話は佐奈のテレビの話に戻るが、今日友里が南条家を訪れている理由は、二人のもう一人の学院の友人である桃瀬瑠璃がテレビに初登場するので、その雄姿を二人で見ようというものだった。

 全くそんな事を聞かされていなかった一哉は、結衣と二人で大学から帰って来た時に、

 佐奈がかじりつきながら見ているのは人気の音楽番組。

 桃瀬瑠璃は最近人気のアイドルグループ「D-princess」の一員である。今日はその「D-princess」の出演日でもあった。

 今、テレビの中ではシンガーソングライターの女性が自らの曲を披露していた。



「ねえねえ友里。瑠璃、いつ出てくるんだっけ?」


「えっと……。確かこの次、かな?」


「お、じゃあもうすぐじゃん! 楽しみだねっ!」



 そんなやり取りを一哉が微笑ましく眺めていると、さっきまで我関せずと味噌汁を啜っていた咲良が勘繰る様な視線を送ってきているのに気がついた。



「どうした、咲良?」


「…………一哉兄ぃってこういうの興味あるの?」



 咲良はテレビの方に一度視線をチラッと送ると、一哉に聞いてくる。



「こういうのって……アイドルの話か?」


「そう。最近、何だかんだと人気じゃない、ディープリ。貴方はその瑠璃ちゃん? とも面識があるみたいだし、好きなのかなって。」



 ディープリというのは、最近できた「D-princess」の略称。近頃だと、あまり周囲の話題に興味が無い一哉ですらも何度か耳にする事がある程だ。

 それに、佐奈と友里のお目当てである瑠璃とも、一哉は面識がある。もっとも、精々2度か3度会った事がある程度ではあるが。そういった情報を中途半端に知っているがゆえに、咲良が一哉もそういったアイドルに興味があるのではないかと思うのも、無理もない話ではある。



「いや、全く興味無いな。だいたい咲良、俺が音楽聴いているところを見た事あるか?」


「それは無いけれども…………。確かに一哉兄ぃ、音楽とか絵画とか、ほんっと興味示さないものね。佐奈とは大違いだわ。」


「まあな。俺は子供の頃から忙しかったから、そういう芸術的なモノに触れる機会も無かったし……。瑠璃ちゃんがいくら佐奈の友達だからといって、俺も一緒になって応援する理由にはならんな。そういう咲良はどうなんだ? 確か、この前見た映画に出てた神崎朱里って『D-princess』のメンバーだろ。」


「それこそ関係ないわよ。だいたい私、神崎朱里が好きなんて一度も言った事無いと思うけど。」



 そう言うと、咲良は再び味噌汁を啜り出した。これ以上の話題は興味無しといった雰囲気だ。一哉としてもアイドルには興味無く、それ以上話題を続ける意味もない。あっさりと話題は打ち切られる。

 しかしそこで突然、ある話が一哉の頭の中で蘇る。



「アイドルといえば……。結衣の部活の部長って確かアイドルやってるとか言ってなかったか?」


「ふぇ……?! な、何かな、一哉君?」



 声をかけられた結衣が、ぼーっとテレビを見ているところに、急に話題を振られて飛び上がった。

 長く美しい黒髪を持った小柄なその女性――――――東雲結衣はこの流れで自分に話が振られることは無いと踏んでいたのか、必要以上に動揺した様子を見せている。

 今日は、結衣にとっては初めましての友里も家におり、久々に結衣の人見知りな一面が表に出ていたようで、一哉も少し可哀そうな事をした気分になる。



「急に声かけて悪いな。いや、この前言ってただろ、天文部の部長がアイドルだって。どんなアイドルなんだって気になってな。」


「うーん……。アイドルつながりだからって急にその話題出てくるの? ちょっと唐突過ぎてビックリしちゃったよ。」


「俺にとってアイドルとはその程度の認識だ。」


「認識がざっくりしすぎてるよぉ…………。うーん、でもね、期待させちゃったところ申し訳ないけど、私も部長がどういうアイドルなのかって全然知らないの。芸名とか、所属してるグループとか全然知らないよ。」



 ここで結衣から帰ってきた回答は意外なものであった。

 結衣の以前の話では、一哉達の通う東都大学にアイドルが居るというのは有名な話であるという事だった。しかもその人物は、結衣の部活の先輩であり、部長であると。

 であれば、その詳細も知らされているのかと思いきや、返ってきた回答は全然知らないというもの。しかも、何か訳知りの様な口ぶりで話していたのだから、意外だという他ない。



「大学で有名な話って言ってもね? 誰がアイドルやってるって事までは実は知られてないの。私はたまたま部長から教えてもらったから知ってるけど……。それに、私も部長がアイドルやってるって言うのは教えてもらったけど、どんな名前で活動してるとか、どんなグループに入ってるとか全然教えてもらってないの。身バレするのが面倒なんだって。なんか活動してるときは少し見た目変えてるみたいだし。」



 そんな話をしていると、テレビでは先程まで歌っていたシンガーソングライターの出番は終了していた。

 テレビの前では佐奈が「D-pincess」の出番を今か今かと待ち構えている。その様子はまるで遊んでもらえると期待している犬の様であり、彼女の興奮が手に取る様に伝わってくる。

 友里もそのタイミングで食事を終えて箸を置くと、佐奈の隣に行って友人の出演を待ち構えていた。


 そうすると食卓に残されるのは、一哉、結衣、咲良の3人。一哉は一哉でテレビの内容に興味は無いし、結衣もテレビがついているから何となく見ているだけといった感じだ。咲良に至っては、味噌汁をおかわりしてまで相変わらず啜っている。



「あ、来たっ、ディープリ!!」


「ホントだ……。あ、瑠璃いたよ、佐奈。」



 テレビの前の、姦しい女子高生2人を眺める一哉。

 一哉自身はアイドルには興味は無いが、こうして楽しそうにしている妹を眺めているのは気持ちが暖かくなってくる、究極の癒しである。今日も変わらずシスコンな一哉であった。


 テレビの中では、5人組の女性アイドルがスタジオに入場しているところだ。

 その5人中でも、二人の友人である桃瀬瑠璃は一番小柄な濃い目の長い茶髪をツーサイドアップにしている少女だ。目に見えて緊張しているせいなのか、身に纏うミニ丈のアイドル衣装も相まって、とても幼く気弱な少女に見える。

 一哉は瑠璃と会った事があったが、その印象は実際に間違っておらず、3人の中で一番気が弱く、いつも佐奈に振り回されているというイメージである。そのため、その気弱な瑠璃がアイドルになったというのは少し意外な話でもある。



「桃瀬瑠璃…………ね。私達の学年でも噂になってるけど、確かに男ウケしそうな見た目だわ。」



 さっきまで味噌汁を啜っていただけだった咲良がいつの間にかテレビの画面を見ていた。だが、どこか咲良の表情は不機嫌に見える。

 そんな咲良の様子を一哉が見ていると、咲良は少し頬を赤くしてそっぽを向く。二ヶ月前の【砕火】との戦い以来、南条家に再び入り浸るようになった咲良だが、あまり一哉に対する態度が変わったりしたという印象は無い。強いて言えば、やたらとスキンシップしたがる様にはなった。相変わらず、言葉遣いは辛辣なままだが。

 咲良のよくわからない態度に、一哉の頭には疑問符を浮かべて――――――


 ――――――――カチャンッ…………


 突然、一哉の隣に座っていた結衣が持っていた箸を落とした。

 見れば、結衣の顔は唖然としており、わかりやすく驚愕の表情に染まっている。



「どうした、結衣?」


「――――――部長…………。」


「は?」


「だから部長なんだってば…………!!」



 全く要領を得ない事を言う結衣に対して困惑する一哉に、結衣は興奮と驚愕と困惑がない交ぜになった表情で見つめながら、テレビを指差した。つられて一哉もテレビの方に視線を送る。



「今出てる『D-princess』のセンター、あのショートカットの人っ! 天文部の――――――私達の部長だよ!!」



 結衣が指差す先のテレビの画面の中。

 そこには背の高い黒髪のショートカットの女性アイドル―――――――「小倉莉紗」というテロップのついた女性が映っていた。

最後のヒロインはアイドルでした。

どうぞよろしくお願いいたします。


いつもお読みいただきましてありがとうございます。

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