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鬼闘神楽  作者: 武神
第2章 炎獄の亡霊
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終ノ舞 エピローグ2~咲良の決意~

第2章エピローグです。

第2章でスポットを当てた咲良の視点で締めくくります。

 痛む身体のせいだろうか。

 咲良は再び目を覚ます。

 一度は死も覚悟したが、こうして再び目が覚めた事に感謝すべきだろうか。

 ふら付く身体とガンガンと痛む頭に鞭を打って咲良は立ち上がる。


 目の前には気味の悪い赤黒いドーム。

 全く覚えが無いが、恐らく一哉はこの中だ。

 気を失う前に一哉を確かに見たのだ。きっとこの中で戦っているに違いない。

 【焼鬼】に二人がかりでようやく勝った自分と一哉。その【焼鬼】の遥か上の力を持つ【砕火】。佐奈と二人がかりでもいいようにあしらわれて、ただの一撃で動けなくされた程の相手。普通であれば一哉一人で【砕火】に挑むなど無謀そのもの。

 だが、咲良には何故か一哉が勝って中から出てくる未来しか想像できなかった。

 何の根拠もない妄想。それでも、それは確信に近いものがあった。



「そう。一哉お兄ちゃんがあの世界に一人で入ったなら…………逆に心配する事は無いのかもしれないわね。」



 そんな独り言を肯定するかのように、目の前のドームにひびが入る。

 ひびは段々と広がり、亀裂となってドーム全体を包み込み――――――


 ――――――ガシャアアァァァン……………ッ


 ガラスが粉々に砕け散る様な、甲高いけたたましい音を立てて崩れ去る。

 砕け散った赤黒い破片は一気に紅い光と化して霧散。

 中から、二振りの日本刀を持った一哉と、体積の1/3を失った紅い魔石が出てくる。



「貴様の本当の能力は、自分に有利な結界領域を構築する事と、その中での熱の自由操作なんだろう? ()()()()()()()()()()()()()()()()。自分の本体の姿を光の屈折を利用して虚空に投影してるに過ぎない。そして、自分に有利な結界領域を構築して、世界を跳んだと錯覚させ、混乱のままに叩く。」



 中から出てきた一哉は無傷。

 どうやったのだろうか。何がどうなっているのか。なぜ息も乱さず、相手を結晶態に戻せているのだろう。

 自分があれ程までにやられた相手にここまで完勝してしまう一哉に対し、疑問は尽きない。



「普通なら、あの中に取り込まれた時点で死ぬんだろうから誰も気づかないんだろうが、あの中は別に別世界なんかじゃない。恐らくは貴様の張った結界の中に自分の都合の良い世界を投影して、疑似的に再現しているだけだ。だからこそ、貴様はあの中でのみ自由に指定空間に熱を発生させられるし、外部からあの世界に干渉できる。俺との戦いにおいて、態々結界を貼りなおしたのも自分の能力を最大限発揮する為なんだろう?」


≪――――――≫


「だが、貴様のご都合主義の世界は破った。もう終いにしよう。こんなくだらない舞は。」



 そう言って一哉は【鉄断】を魔石に近づける。

 一哉の勝利だ。あの魔石を砕けば、全てが終わる。

 あの会議で見た魔石の再生。それは恐らく【砕火】の仕業だ。自称・神たる権能を用いて再生させたに違いない。それは自らの憑代を確保するため。だが、それも【砕火】さえ倒せばもう起こらない。

 そう歓喜しそうになる咲良だが、事態は甘くは無かった。



≪驕ルナト言ッタ筈ダ、人間ヨ。≫


「――――――っ!!!」



 魔石は再び紅い閃光を放つ。

 再び魔石は紅い球体となり、鳥型の姿を形成。

 朱雀とも鳳凰とも取れる、深紅の美しい形態へと姿を変える。

 しかし、やはり魔石の1/3を失った影響は大きいのだろう。再び顕現した深紅の巨鳥は右の羽と尾羽を失っていた。



「…………っ。まだそんな力が残っているのか! どこまでタフなんだよ…………。」



 一哉が忌々し気に舌打ちする。

 咲良はその光景に身震いする。

 状況は明らかに一哉の有利だ。だが、一哉の顔からはその優勢の状況が読み取れない。楽観的に見て互角という所だろう。



《我ガ『炎獄』デナケレバ、サッキノ技モ使エマイ?》


「――――――!」


《ダガ、今日ノ所は貴様ノ力ニ免ジテ退キ下ガロウ、南条一哉。俺/私(わたし)モ大分力ヲ遣ッテシマッタカラナ。》



 【砕火】がそう言うと、その身体が紅い光に包まれ始める。

 その光は段々と散っていき、どんどん【砕火】の存在が薄くなってゆく。



≪ダガ、貴様ハ『黒帝』殿ニ目ヲ付ケラレタ存在。ソウシテ穏ヤカニ暮ラセルノモ後何日ダロウナ?≫


「『黒帝』……だと?」


≪今日ノ褒美ニ、一ツ良イ事ヲ教エテヤロウ。俺/私(わたし)()()()()()()()。ダガ、我等神ガソノママ現世ニ現レレバ、コノ世ニ及ボス影響ハ計リ知レヌ。≫



 【砕火】は薄れゆく身体で語り続けている。

 それと同時に、異常気象によって上がり続けていた気温もどんどん下がってきているのを感じる。

 今ではもう、少し肌寒い位だ。

 元々猛暑のせいで薄着だったのに、服が焼けてさらに薄着になってしまっている咲良には、この急激な温度変化はかなり厳しいものがある。



≪故ニ力ノ九割ヲ封印シテ顕現スル事ニナルノダガ、『黒帝』殿ハ神ヲコノ世ニ制限ナク降ロス術ヲ編ミ出シテイル。今回ハソノ実験デモアッタノダ。今日見セタ俺/私(わたし)ノ『炎獄』ハ、ソノ術ヲ使ッテ俺/私(わたし)ノ存在スル領域ヲ再現シタモノ。貴様ノ想定通リダ。ダガ、ソレデモ全力デ出セル力ハ六割程。≫



 その言葉に咲良は戦慄する。

 霊力の大半を失っていたとはいえ、『除魔の舞』で一人を護り切るのがやっとだった規模の蒼炎。それがたった最大でも6割程度の力で放たれたものでしかないのだとしたら。

 【砕火】の全力を受けた時、あの力を止める事は果たして叶うのだろうか。

 いや、自分では――――――今の自分では、一哉の足手纏いにしかならないだろう。



≪ダガ、ジキニソノ術モ完成スルダロウ。【神流】ハフザケタ女デハアルガ、コウイッタ仕事ノ手合イハ確実ダ。最終調整ガ終ワレバ、俺/私(わたし)ノ『炎獄』ガ現世ニ現界スル。ソノ時、完全ナル力ヲ発揮シタ俺/私(わたし)ト貴様ガ戦ッタ時、何ガ起コルノダロウカ楽シミダ。≫


「くそっ…………待て………っ!!」


≪最後ニ言ッテオクガ、精々【神流】ニハ、他ノ四天邪将ニハ気ヲツケル事ダナ――――――ッ!≫



 そう言い残した【砕火】は紅い光の粒子となって消えた。

 同時に、ここ数週間関東地方を騒がせた猛暑も終わりを告げる。

 後には何事も無かったかのように、いつもの南条家の屋敷があり、倒れたままの結衣と佐奈が居た。

 二人とも無事の様だ。

 咲良はほっと胸を撫でおろす。



「咲良……。大丈夫か……?」



 闘気を解いた一哉が咲良に向かって歩いてくる。

 咲良は一度は自分の命を諦めた。だが、目の前の彼はそんな自分の前に颯爽と現れて、助けてくれたのだ。最高の形で。

 それを想うと、胸が締め付けられるような、温まる様な複雑な気持ちになる。素直に好意を伝えたい自分と、泣きたくなるような気持ち、恥ずかしくて突っぱねたい気持ちが同居する。

 まだまだ自分はこの恋に素直になれそうにない。だけど、自分の気持ちに嘘はつかない。つきたくない。

 だから――――――。



「あら、今の私を見て無事だって思うなら、だいぶ眼がおかしいわね。何だったら、私が診てあげるわよ?」



 そんな憎まれ口を叩くのだ。

 この1か月ほど、あのデートの日を境に自分は凄く揺れ動いた。変に素直になったり、全く素直になれなかったり。

 でも、咲良は本当は気が付いていた。いや、今になってわかったという方が正しいのか。

 あの日、暴走した自分が愛の告白紛いの言葉を口走った時、一哉の顔が凄く苦しそうだった事に。

 彼が何故そんな顔をしたのかは、咲良には見当がつかない。

 少なくとも自分が嫌われているという事は無い筈だ。あの日、「昔みたいに戻りたい」と言ってくれた一哉の気持ちは本物だったと思うのだ。

 だったら、あんな顔をしたのには必ず理由がある。



「手厳しいな。遅れてすまなかった。とにかく病院に連絡を――――――」


「別に良いわよそこまでしなくても。こんなの寝てれば治………痛ぅ………!!」


「バカ野郎。俺の時ほどじゃないとはいえ、ほとんど全身火傷してるんだぞ。良いから俺の言う事を聞け。」



 眼前の幼馴染には大きなトラウマが二つある事は知っている。

 だが、その両方を直接見たわけではない咲良はその詳細を事細かに知っているわけではないし、佐奈だってその件に関しては8年以上経った今でも口を噤んだままだ。

 10年もの付き合いがあって、案外自分は一哉の事を知らない事を今更になって気がつかされる。

 彼を求めるなら、まずは彼を知らなくてはならない。

 だから咲良は決意するのだ――――――



「仕方がないわね。今日の所は貴方の忠告に従うとするわ。」


「そうしろ。このままだと折角の可愛い幼馴染が台無しだからな。」


「――――――?! な、何でそんな事さらっと言うのよ、このバカっ!!」


「ん? 俺、何か変な事言ったか?」


「~~~~――――――っ!!! この唐変木!!! バカっ!!」



 一つ、南条一哉の隣に立つ女として相応しい強さを身につける事。それは人間としても、祈祷師してもだ。

 一つ、絶対にこの想いを彼に伝える事。素直になれなくてもいい。自分は自分らしく、彼に自分の想いを伝えるのだ。

 そしてもう一つ。絶対にあきらめない事。一哉の事を、自分の事を。今回、本当に死にかけてわかったのだ。咲良は最早一哉無しでは成り立たない程、その中を一哉が占めているという事に。そして一哉も、こんな自分でも、居なくなった時は大層悲しむだろう。彼はそういう男だ。大切な者の為に全力で戦う。だったら、咲良が咲良自身を諦めるのは彼への冒涜に他ならない。

 だから、例え想いを伝えて拒絶されたって絶対に諦めない。彼を理解し、彼の隣に居るに足る人となって隣に立つのだ。


 冷え込む5月下旬の夜の空の下。

 17歳の少女は決意を固める。

 人は目標と中心となる柱があれば、どんなに辛くたって前に進めるのだから。



● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇



 咲良と一哉が戦いの余韻に浸っている頃、一匹の小型怪魔が南条家の敷地内を駆けていた。

 その怪魔は赤黒いプレートを口に咥えると、一目散に駆け出し、土の中に潜る。

 汚染重度Dの雑魚怪魔【土竜鼠】。

 怪魔としてはあまりにも弱く、あまりにも少ない霊力量故に探知されづらい。

 そんなところがお気に入りなのだ。


 ――――――この女、神流にとって。


 土から出てきた【土竜鼠】から金属プレートを受け取ると、神流は南条家の屋敷へと視線をやる。神流にとって、南条の屋敷は思い出深い場所であると同時に、因縁深い場所でもある。

 なぜなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()



「一哉。もう少し、もう少しよ。もうすぐ私とあなたが生きるにふさわしい世界ができる。もう今度は誰にも邪魔させない。」



 そう呟くと神流は外套のフードを被って踵を返す。

 その足取りはどこか重く、元々漂う退廃的な雰囲気がさらに暗鬱なものとなる。



「世界が変わるのが先か、あなたが私のものになるのが先か……。でも、私としては先にあなたを私のものにしたいわ。そしてあなたと一緒にこの世界が地獄に堕ちるのを見る。それが楽しみだわ。」



 その楽しそうな口調・台詞とは裏腹に暗鬱な気配はどんどんと強さを増す。



「愛しているわ、一哉。ずっと…………ずっと………………。」



 神流は自らの双眸から落ちる雫の意味を理解しない。

 煩わしそうに涙を拭うと、人間とは思えぬ跳躍力で跳び、闇の中に消えていった。



~~~ 第2章 炎獄の亡霊 完 ~~~

これにて第2章「炎獄の亡霊」編は完結です。

次回より第3章「闇からの挑戦」編が始まります。


誠に勝手ではございますが、第3章零ノ舞は2019/3/1 21:00投稿とさせて頂きます。

私の都合ですが、仕事がかなり忙しくなってきており、オリジナル掲載元のtaka city様での執筆分に遅れが生じてきており、連載版の修正が難しい為です。

正直に言うと、連載版の展開が追い付いちゃいました。


第3章零ノ舞は既に予約投稿済みですので、よろしければ3/1 21:00~、また読んでくださいますと幸いです。

それではまたよろしくお願いいたします。

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