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鬼闘神楽  作者: 武神
第2章 炎獄の亡霊
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extra episode 07【巫女少女の対抗心】

一哉達が泊まった湯西川温泉

その時女の子たちは……

「わぁ~、いいお部屋だね~。」



 東雲結衣が部屋の窓際で楽しそうに伸びをしている。

 黒のノースリーブのシャツの上から薄手の黒いカーディガンを羽織り、白のフレアのロングスカートという、いつものモノクロームコーデな彼女は、女の私でも可憐だと思ってしまうものだった。


 何となくだけど、私にも一哉お兄ちゃんが東雲結衣を手元に置く理由がわかる気がするわ。あの人、何だかんだと清楚な感じの女の子好きだものね。多分、一哉お兄ちゃん自身が全く自覚していないのだろうけども、そういった感じの子と接する時だけ、ほんの少し目付きが優しい気がする。

 佐奈はその理由も知っているみたいだけど、教えてはくれない。佐奈曰く、「お兄ちゃんに絶対知られちゃいけない」らしく、幼馴染みの私にすら秘密なんだとか。

 まったく、兄妹揃ってよくわからない。難儀な人達だわ。

 妹の方は実の兄に恋愛感情を抱いているっぽいくせに、何かと私にお節介を焼こうとするし、兄の方は思わせ振りなことを言うくせには、本人に自覚は無いみたいだし。


 実はたまに、一哉お兄ちゃんが実は同性愛者じゃないかと疑うこともある。

 いや、私は別に良いと思うのよ……?

 そういう愛の形だってあるでしょうし、彼が男性を好きだったとしても私にそれを止める権利は無いのだから。

 でも、たまには幼馴染みの私の事も見てくれても良いじゃない……。



 そんな風に物思いに耽る私を尻目に、東雲結衣は手早く浴衣に着替えていた。

 は、早いわね……。さっき荷物置いたばかりなのに、いつ着替えたのかしら、この人。



「咲良ちゃん、早速温泉行きましょう?」



 今日の東雲結衣はやたらとテンションが高い。

 こんな彼女は一度も見たことが無いぐらいだ。まあ、まだ顔見知りになって1ヶ月程なのだから、彼女の事をよく知っているわけじゃないけども。

 それにしても、普段はあまり話しかけてこない彼女が自分から私に声をかけてくるなんて、どんだけテンション上がってるのよ。


 と言いつつも、実は私もにやける顔が実は抑えきれていない。

 ま、まあ?

 私も一哉お兄ちゃんに誘われたのが嬉しくて、詳しい話を何も聞かないままホイホイついてきちゃったクチだし?

 テンション上がるっていうのもわからない話じゃないわよ……?


 そんな、誰に対しての言い訳なのかよくわからない言い訳を内心しつつ、私は東雲結衣に静かに頷く。



「決まりですね。じゃあ、ご飯の前にチャチャっと温泉入っちゃいましょう!」



 今にもスキップでも始めそうな位テンションの上がった、東雲結衣の後に続いて、私は部屋を出る。私はあくまでも佐奈の補欠要因として誘われたから、今日泊まる宿とか全然知らなかったけども、いいお宿じゃない。

 木の床、木の柱という旧き良き造りは、生まれてこの方神社暮らしの私にとっては実家のような安心感があるし、渡り廊下に敷かれた黒い石畳も新鮮かつお洒落で見ていて楽しい。

 一哉お兄ちゃんに、こういった宿を選ぶセンスがあるとは知らなかったわ。これも天才の為せる技かしらね。多分関係ないと思うけども。

 そんな事を考えていたら、浴場に着いていた。



 この宿の温泉は、露天と内湯の二つの浴槽がある。

 そして泉質は単純温泉。家庭のお風呂にわりと近い、優しいお湯だ。本当はドギツく鉄臭い鉄泉が一番好きなのだが、疲労回復には何だかんだと刺激の少ない単純温泉が良かったりする。

 ちなみに、私は断然露天風呂派だ。

 実は私は、バリバリの温泉好きでもあるのだ。



「はああぁぁ…………。湯加減も良くて中々良いじゃない。柔らかいお湯で体の疲れも取れそうだし。匂いが無い分、うんとリラックスできるし、宿の雰囲気も良し。うん、気に入ったわ。」



 そんな感じで、ついいつものように温泉論評をしていたら、東雲結衣がクスクスと、面白そうに笑いながら此方を見ているのに気付いた。



「な、何よ……?」


「ううん、ごめんね、咲良ちゃん。咲良ちゃんって温泉好きなんですか?」


「別に良いじゃない……。そんなに私が温泉好きなのが不思議?」


「う~ん、少しそうかも。咲良ちゃんってもっと街に出て遊ぶ方が好きなタイプの子かと思ってましたから。いつも、おしゃれな服着てますし、咲良ちゃんかわいいですから。おっぱいも大きいですし。」



 何なのこの人!

 そこで私のおっぱいの話とか関係無くない?!

 私としてはこんな脂肪の塊、邪魔で仕方がないのだけれど。頼んでないのに大きくなるし、もうE位までいくと可愛いデザインのブラが無くて困るし、体型変わってないのにゴシックドレスが着れなくなるし……。

 良いことなんて一つもないわよ。


 でも、なるほどね。それでそんな事を言い出したわけだ。

 だけど、街中で買い物をするのが好きなのと、温泉が好きなのとには何の関係性も無いんじゃないかしら。

 実際の所、私は趣味らしい趣味も持っていないし、この人の前で何かそれらしい事をした覚えもない。服だって殆ど私服を着ないから、本当に簡単な部屋着程度しか持っていないし、何ならあまりの服の無さに、この前の一哉お兄ちゃんとのデートの時に慌てて渋谷に買いに行ったほどだ。

 ――――――まあ、あれから3着程買い足したのはここだけの話だけれども。


 それにしてもいつも思うけど、この人、何で3つも年下の私に敬語で話すのかしら。一哉お兄ちゃんと佐奈にはタメ口で話すくせに。なんか、この人のこういった態度、卑屈な感じがして好きじゃないのよね。

 そして今気がついたけど、この人の体、滅茶苦茶細いわね。腰のラインが凄くキレイ。手足も、一体どういうケアしてるのっていう位白くて少し遠目に見ても肌がキレイだ。

 だいぶ控えめなおっぱいを除いたら、グラドルでもやっていけるんじゃないかしら。まあ、佐奈の絶壁ぶりに比べるとだいぶ大きいとは思うけども。

 そんな羨ましいプロポーションの持ち主を、半分羨望の目で睨みながら私は答えを返す。



「生憎ね。ファッションは興味が無いわけじゃないけど、正直疎いのよ。全くと言っていい程着る機会も無くて、あまり着る意味が無いから。」



 そう、一部誤魔化し、無視しながら事実を伝える。

 それにお洒落だとか、お洒落じゃないだとか言うのであれば、東雲結衣の方が絶対に上の筈だ。あそこまでモノクロームコーデにこだわるのであれば、それは何かしらこだわりがあるのだろうし、実際似合っているのは間違いない。

 そもそも彼女は先日の【鵺】の一件で私物をすべて失っているはずだ。だったら、この短期間の間に何着も揃えて、しかも全て同じ系統という事は、余程気に入っているのでしょう。

 だが、私の返答を聞いた東雲結衣はあまり納得していない顔だ。

 まったく、何が不満なのよ。



「そんな事無いと思いますけどねー。だって咲良ちゃん、たまに一哉君のお家に私服で来るとき、結構気合い入れてないですか? 私、てっきり一哉君に会うのに、気合い入れて選んでるのかと思ってましたよ。」


「はぁ…………っ?! バカな事言わないでくれる?!」



 これに関しては図星だった。

 実際問題として、一哉お兄ちゃんに会いに来る以外の理由であんなバカみたいに値の張る服を着て汚しでもしたら大変だ。それこそ数日は立ち直れないレベルで。

 ともかく、いつもの癖で私は必死に否定するが、どうも目の前の東雲結衣には隠しきれていないように思う。私が恥ずかしくて思わず一哉お兄ちゃんの事を突き放すような事を言う時、決まって笑うからだ。

 今もそうだ。微笑ましいものを見るかのような視線を私に向けてきている。



「うぅ…………何よぉ………。ほ、ほっときなさいよ……! それに、それを言うんだったらアンタの方がお洒落じゃない…………。」


「そ、そうかな? 私なんか全然ですよ。基本的に安い所でしかお買い物しないですし。」



 いや、そういう事じゃないでしょう……。

 別に今に始まった話ではないけれども、この人の感覚とは徹底的に合わない気がする。

 私はそんな彼女と同じ風呂に入っているのが何だか居た堪れなくて、温泉をしっかりと堪能することなく出る事になってしまった。



● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇



 結局、私は夕食の後も温泉に浸かりに来ている。

 さっき邪魔が入った分、ゆっくり入るのだ。

 部屋に戻った後はすぐに夕食。囲炉裏を囲んで食べる食事は、何だか新鮮な上に、昔ながらの情緒というか、風情があって、あるいは食事の質以上に楽しませてくれた。これは間違いなく一哉お兄ちゃんの趣味ね。あの人、こういった昔ながらの~とか、風情が~っていうの好きだもの。

 食事は囲炉裏料理に山菜の膳がいくつか並んだものだった。まあ、山奥だから仕方ないとはいえ、山菜ばっかりの料理だったのは私には少し物足りなかったもの。あの囲炉裏料理の一つ、鳥のつくねなんか凄くおいしかったわね。


 私はお湯に浸かりながら、大きく一つ伸びをする。あぁ、少し温めのお湯がとても気持ちいい……。

 そこで、私は自分の顔が自然と綻んでいる事に気がついた。

 私、何だかんだとこの旅行を楽しんでいる…………?

 少し考えてみて納得。今まで、こんな風に旅行に来るなんて考えられなかった。お爺ちゃんが亡くなる前は家から殆ど出してもらえなかったし、一哉お兄ちゃんとギクシャクしだしてからは、祈祷師の修行に明け暮れていたわけだし。

 今思い返せば、この5年、こんなにも心安らぐ時を過ごした事は一度も無かったかもしれないわね。


 それに実は、何だかんだ言って、私はちょっと不思議系の南条家の居候――――――東雲結衣の事は嫌いじゃない。別に好きだとか、仲良くしたいだとか思ってる訳じゃないけども、少なくとも嫌ってはいない。

 私としては、彼女の一哉お兄ちゃんに対する真っ直ぐな好意には好感が持てるし、敬意すら表する。だって東雲結衣は、素直になれない私と違って、しっかりと彼と向き合っている。

 佐奈は色々と気に入らないみたいだけど、私はそうじゃない。ただ、そんな真っ直ぐな人が私と同じ人を好きだという事実に少し焦っているだけ―――――――

 まあ、少し付き合いづらいというのはあるけどね。


 そんな東雲結衣はさっきまで、フラフラとしながら内湯に浸かっていた。今はもう上がってしまっている。

 私はお酒をまだ年齢的に飲めないわけだし、よくはわからないけども、食事時の東雲結衣のお酒の飲み方は驚きを通り越して恐怖すら感じたわ。彼女、全く止まらないんだもの。

 そして、そんな彼女と話す一哉お兄ちゃんも凄く楽しそうだった。やはり、大人同士のお酒の付き合いっていうのは大きいのかしら。

 ちなみに、そんな二人の様子に嫉妬して、密かに盃を拝借しようとしたら、東雲結衣に怒られた。くそぅ…………アンタばっかズルいのよ。


 せめてもの悪あがきとして、今夜は一哉お兄ちゃんと同室で寝ようと思う。どうも、東雲結衣が一哉お兄ちゃんの彼女だと思われたらしく、一哉お兄ちゃんの一人部屋には布団が二枚敷いてあった。私達の部屋は一枚だ。

 最初はふざけないでよ、とも思ったのだが、これは素直になれない私を、一哉お兄ちゃんに意識させて、向こうから好きにさせるというチャンスでもある。正直、滅茶苦茶恥ずかしいけど、この際、背に腹は代えられないわ。

 東雲結衣は元に戻そうと言っていたけど、冗談じゃない。一哉お兄ちゃんと同じ部屋で寝るチャンスと言ったら、アッサリと陥落した。チョロいわね。


 と、そんな事を考えていたら、風呂に浸かっているせいもあってか、体がとても熱くなっていた。多分顔も真っ赤だ。

 自分でやっておきながら、何言ってるのよって感じだけど、やってしまったからには、もう後には引けないのよ。それに、このまま東雲結衣に一哉お兄ちゃんを取られちゃうのも絶対ヤだ。


 今夜はどっちに転んでも、心穏やかに過ごせそうにないわね。 

いつも読んでいただきましてありがとうございます。


今回のお話は殆ど私の趣味です。

が、滅茶苦茶書くのに時間かかりました。女の子同士の会話ってなんでこんなムズいんだ……?


次回から再び本編に戻ります。

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