表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼闘神楽  作者: 武神
第2章 炎獄の亡霊
34/133

extra episode 06【西薗一】

初ブックマーク頂いておりました。

ありがとうございます!



初めてのヒロインズ以外の視点のextra episodeです。

「読まなくても本編についてこれるけど、読んだ方がよりわかる」というコンセプトのショートストーリーになっています。

 遂に完成したぞ。夢への第一歩だ。

 これこそが画期的な発明、歴史を塗り替える至高の研究だ。

 今まで散々(ひじり)の奴には水をあけられていたが、これで追いついた。

 いや、遥かに凌駕すらしているだろう。

 そもそもこの時代に何でもかんでも暴力で解決しようってのが間違っているんだ。

 知識だ。知識がこの世界を救うんだ。

 南条なんてあんな脳筋一族が日本を護る時代なんて、とっくに終わっているという事を上層部の連中に思い知らせてやる。



「西薗君。君は我々が人造怪魔なんてものを本当に認可すると思って来たのか? だとすれば、君はとんだ愚か者だよ。」



 ――――――は?



「今の時代、そんな非人道的な事が許されるとでも思っているのかね? そもそも、アメリカや中国の目が光るこの時代にそんなものを実現できるわけがないだろう。しっかりしてくれ給えよ、西薗調査局局長。」



 なぜだ…………!!

 どうしてなんだ…………!

 この私の研究の成果が、聖に追いつくどころか、非人道的で忌むべきものだと…………?!


 死刑宣告を受けた死刑囚の魂を、死刑執行の代わりに対怪魔戦闘用兵器に転用する事の何が悪いと言うんだ。

 元々死ぬ予定だった筈の奴らだ。元々死んで当然だった筈の奴らだ。そういったゴミみたいな奴らを可能な限り役に立つ様にして死なせてやるんだから、感謝されこそすれ、私が異常者であるかのように見られる筋合いは無いのだ。

 私からすれば、あまりにも贅沢な死だと私は思うがね。


 それに、非人道的と言うのであれば、私達対策院の人間に与えられている幾つかの超法規的権限はどうなるんだ。機密情報を知られたからといって、口封じに殺人が許容されていることの方が余程、非人道的ではないか。



「人間を、人間が操作可能な怪魔に作り替えるだと……?! バカな、お前は一体何を考えてやがんだ!」



 だって当然のことだろう?

 今の時代、資源や自然だけじゃない。私達のような「能力者」だって、今や貴重な存在なんだ。だけど、資源と違って人間はリサイクルできない。だったら、作るしかないじゃないか。


 強大な存在に、バカみたいに人員をつぎ込んで人海戦術と力押しで立ち向かう時代はもう終わったんだ。これからの時代、私達「能力者」は、後方で機械や人形を産み出し、運用する存在であればいいんだ。

 現代の戦争が良い証拠じゃないか。指揮官は戦地に赴かない。モニターを見て談笑しながらボタンを押せば、何万という人間を一瞬で消し飛ばせる。これからは我々もそうあるべきだ。



「だったら、新しい霊具を開発すれば良いだろうが……!! どうして態々人間を……!」



 馬鹿じゃないのか、お前は。

 霊具一つ作るのにどれだけ時間とコストがかかるか、お前だって知らぬわけでもあるまい、聖?

 しかも、そこまでして作った霊具の戦果が怪魔に傷一つなんて日には、バカバカしくて笑えてくるじゃないか。その点、私の作り出す人造怪魔は理論上、汚染重度S-~S程度の強さが見込める。まあ、特級鬼闘師には及ばないが、量産すればそんなものは有って無いようなものさ。私達は本部で事の運びを見ていればそれで良い。

 誰の犠牲も出ない。誰も悲しむことも無い。お前はこれを、素晴らしい構想だと思わんのか?


 とにかくここでお前と、人道的だとか非人道的だとかそんな事を議論するつもりは無いよ。

 私は上層部の連中に必ず認めさせてやる。私の研究がいかに有用であるかを。








「だから何度も言っているだろう。君の研究は採用しないと。」



 クソっ……!

 クソが…………っ!

 私の研究の有用性はその目で確かめて実感した筈だ……っ!

 現に、上級鬼闘師では手も足も出なかった怪魔を、私の人造怪魔が葬ったじゃないか。仲間の誰も、傷一つ負っていないじゃないか。

 私は不要な存在をフルに活用し、護るべき生命を護ったのだ。

 私は何も間違っていない。不要なものを用いる事で、護るべき生命を護れるのに、それをしないというのは、護るべき生命を見棄てたのと同義だ。

 だと言うのに、これの何がそんなにも不満だというのか。私には貴殿方の考えがわかりませんよ、官僚の皆様方。









「対策院を辞めるのか、(はじめ)。」



 そうだ。この組織に私の居場所は無い。だったら、自分から去るしかないだろう。



「対策院を辞めても、監視の目が増えるだけだぞ。今ここから去ったとしても、結局、俺達は一生ここに縛られ続ける。」



 勘違いするなよ、聖。

 私は私の研究を諦めた訳じゃないんだ。必ず外から働き掛けて、私の研究を連中に認めさせる。


 何だその顔は?

 無理だと思っているんだろう?

 ふん。お前はこの国家機関の暗部という闇で踞って見ているが良い。私は必ず私が正しいという事を証明してみせる。



(はじめ)、お前…………。まだ人造怪魔の研究を続けるつもりか? 何故わからないんだ。お前のそれは、人の魂を弄ぶ行為だ。俺達人間に、人の生き死にを越えて、魂の在り方や行く末を決める権利は無い。それに……それにだ。万が一悪用されればどうなる。こんなものは一種の兵器だ。この国だけじゃねぇ、世界中が容易に蹂躙されるぞ。お前はそれをわかってるのか?」



 見解の相違というやつだな。

 魂など、精神体がへばりついた霊力の塊にすぎん。それをまるで神聖な不可侵なものとして捉えるお前の考えが理解できないよ。

 そして仮に、もしこの技術を私以外の誰かが扱えたとして、人造怪魔が悪用されたとして何か問題があるのか?

 そんなもの、更なる改良版にて敵ごと叩き潰せば良いだけの話さ。



(はじめ)…………っ!!!!」



 だから、もういいさ。私とお前がわかりあう時は永遠に訪れないよ、聖。

 ずっと言った事は無かったが、私はお前の事が嫌いだった。

 聖。幼なじみのよしみとして最後に言っておくが、私の邪魔だけはしてくれるなよ?





「ねえ、パパ、一体どうしちゃったの?! ボク、こんなの嫌だよ……っ!!」



 五月蝿いな。お前は黙って私の言うことを聞いていれば良いんだ。それが娘たるお前の役目であり、義務だろう。

 そもそも、お前は人を越える力を身に付けるんだ。つまり、お前は人間を越える存在になる。人間よりも高次の存在となり、より下等な人間共を護るのだ。それにより、私の夢「この国と人を護る存在となる」に近づくのだ。

 喜べ。


 なんだアイナ、そんな目で私を見るな。

 お前は一歩下がって私についてくればそれで良いんだ。

 そもそも、私の夢に賛同してくれたのはお前じゃないか。お前に私を非難する権利など有りはしない。


 アイナ。お前がもたらしたこの「真竜の血」は本来、高位の神聖魔法の魔術触媒となるもの。だが、私はここに霊術を混ぜ用いて「龍の力」を引き出す鍵にしようと思う。

 世界中の魔術を研究し、縒り合わせ、霊術を混ぜ混んで作った私の固有霊術。人類よりも高位の存在の一部を人間に取り込ませ、対象の存在と力を引き上げる、唯一無二の術だ。

 私はこれを私の、私達の娘に行使する。



「アナタは……アナタは本気なのですね…………?」



 今更何を言うのか、アイナ。

 私は何時だって私の夢に本気だ。冗談など言う筈もない。



「パパ…………。お願い、助けて…………!」



 何を怖がることがある。お前は人を越える、絶対的な存在となるのだ。







 よくわかったよ。お前達がどうあっても私を認めようとしないということが。



 「遂に自分の娘までも使うとは、いよいよ気が狂ったか西薗……!?」



 おいおい、何を言っているんだ。

 魂の高位次元遷移処理を施しただけじゃないか。人をマッドサイエンティストみたいに言うのはやめてくれ給え。


 この数ヶ月で悟ったよ。お前達を変えるためには、それこそ世界を変えなきゃならない、とな。だから私はなるよ、世界を変える存在に。

 例えば神――――――

 そうだ、神が良いじゃないか。

 私は神になるよ。この世界の生きとし生ける者全ての生と死を管理し、私の理想を世界に具現する神となる。そうすれば、自動的に私が「世界を護る者」となる事ができるじゃないか。

 そうして、私の夢は叶えられる。





 もうそろそろ良いだろう。かれこれ5年も待ったのだ。

 手始めに、この国で最も深い病巣の対策院の人間を一人残らず抹殺し、私がこの日本を管理する。そのための準備は既に8割方終わっている。

 ほぼ全ての西薗の人間が、神になるべき私の元に集った。

 私の人造怪魔研究の全ての粋を集めて作り出した【地獄蟷螂(ヘル・マンティス)】、そして龍の娘と化した我が娘・リーサ。

 この2枚のカードが手元に有る限り、私の態勢は磐石だ。


 後の2割は、地下に幽閉している栞那をどうするかだが…………。

 まあ、こちらに関してはあまり心配していない。新たな人造怪魔へと転化させても良いし、殺したあとでその魂を元の肉体に戻しても面白そうだ。

 どちらを試してもそれなりのモノになる筈だ。あれでも西薗の血を引く人間なのだ。ここで凡百の存在となられても、むしろ困る。

 それにしても、栞那も運の無いやつだ。

 お前の両親が私に歯向かったばかりに、西薗の一員ではなく、西薗の使役する道具に堕ちたのだから。



「御屋形様…………御屋形様――――――っ!!」



 ん、何だ?

 表門の方が騒がしいな。まったく、無粋な客も居たもんだ。



「御屋形様…………ぐあっ?!」


「よう、(はじめ)。悪いがお前を止めに来たぜ。」




 聖、お前の事、やっぱり嫌いだよ。

いつもお読みいただきましてありがとうございます。

今回は作中で出てきた、過去の人物「西薗一」の短編でした。



次回、久々の日常回です。

お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ