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鬼闘神楽  作者: 武神
第2章 炎獄の亡霊
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拾弐ノ舞 御霊降ろし

会議第2話です。

前の話で書いている特級の二つ名はもしかしたら変更するかもしれません。

「それではここからは、私、霧谷糸刀(いと)がお話しさせていただきます。」



 会議の始まりと同時に口を開いたのは重蔵ではなく、中学生かと見紛う小柄な少女だった。黒髪のおさげの髪に驚くほどの童顔、起伏の少ない体、高いソプラノボイス。どこからどう見ても子供にしか見えない。

 だが少女という表現は正確には正しくないだろう。霧谷糸刀の年齢は29、成人して9年経ち、十分に社会人として過ごしているのだ。

 名を霧谷糸刀といい、対策院執行局局長たる八重樫重蔵の個人的懐刀兼秘書を務める女性だ。


 糸刀は会議出席者を一瞥すると、スクリーンに写真付き資料を映し出す。

 そこには、一哉が1週間前に戦った【焼鬼】の姿が映し出されていた。



「本日は皆様お集まりいただきましてありがとうございます。さて早速本題に入りますが、この度10年振りの対策会議を開かせて頂きましたのは、ここ数日関東近郊で発生している異常熱波に関して、今後の活動方針について議論・共有させていただきたいためです。皆様の中には異常気象など我々の仕事の管轄ではないと思っておられる方もいらっしゃるようですが――――――」



 そこで一度言葉を切った糸刀は、スマホを弄って明らかに話を聞く気が無さそうな加島尊雄を睨んだ。

 睨まれた加島は思わずスマホを落とし慌てており、その様子を見た西薗彩乃が嘲笑を送っている。



「――――――この異常熱波、調査局からの報告によれば自然現象ではなく、意図的に起こされたものである事が判明しております。まず、前方のスクリーンをご覧ください。現在スクリーンに映っているのは、先日南条特級鬼闘師と北神1級祈祷師が東京都西部で交戦・殲滅した【焼鬼】と名乗る怪魔です。異常熱波がこの怪魔が倒されてから発生した事は皆さまご存じでしょうが、その主たる原因がこの【焼鬼】が倒されて発生した、とこの度判明したのです。」



 そういった話は聞いていない。一哉が病院に軟禁されていた間に、色々と状況は動いていたようだ。それにしても、怪魔を倒したことが影響で猛暑が発生するとはどういう事か。それをひも解くにはとにかく報告を聞くしかない。

 だが、そういった殊勝な態度で聞けないのが特級鬼闘師達――――――強大な力を持つ人間が故か、常識的に見れば唯の問題児集団だ。



「なんや南条のボウズ、敵ば殲滅した言うといて、すらごとやなかか。」


「まったくですわ。一度手を付けたら、最後まで対処するのが我々の務めでなくて?」



 元から一哉の事を嫌っている彩乃はともかく、源治まで一哉の事を責める。

 基本的に特級鬼闘師同士で仲間意識は薄い。各々が自身の腕に絶対的な自信を持っており、「自分だったらできる」といった思い上がりにも近い思想を抱きがちなのである。仲間意識だとかそういった事を持っているとしたら、現状のメンバーだと一哉を除けば神坂美麻と咲坂敏夫位のものだろう。

 そしてその言い草は横で聞いていた咲良の癇に障ったらしい。

 突然立ち上がって、二人に抗議する。



「ちょっと! 荒川さんも西薗さんも勝手な事言わないでください! 一哉兄ぃがどれだけ苦労して……っ!」


「でも、結果伴ってへんのやったら意味無いんちゃうか?」


「そうや、儂等は結果が全てだ。北神の娘よ、儂には言い訳にしか聞こえん。」


「―――――――~~~っ!」



 加島と源治の指摘に咲良は唇を噛むしかない。

 そんな咲良を見て、彩乃も明らかにバカにした態度で言葉を発する。



「あら咲良。貴女、南条一哉の事を嫌っていたのではなくて? かつては貴女が一番遠ざけていたというのに。それがその擁護の仕方、まさか一緒に戦っただけで絆されてしまったのかしら? 結局、貴女も結局は尻軽だったって事ですわね。」


「なっ……?! アンタねぇ…………っ!! ふざけんのも大概にしなさいよ?!」


「その反応、図星のようね。まったく、自分の失態も素直に認められないのかしら。私、貴女の事はそれなりに評価できる娘だと思っていたのだけれども、とんだ見込み違いだった様ですわ。」


「いい加減にしなさいよっ……!! だったらアンタが戦ってみなさいよ…………!」



 咲良は顔を真っ赤にして怒っている。

 一哉としてもそこまで言われる筋合いは無いし、一哉の見立てとしても、少なくとも加島尊雄と西薗彩乃の2人は単独で戦ったとしてもまるで勝てる見込みは無いのだが、その事を指摘したところで会議はまたあらぬ方向へと走り出すだろう。スタートから大脱線している会議をさらに横道に逸らせる必要は無いのだ。



「咲良、もういいやめろ。糸刀さん、続けてください。」



 一哉は咲良を宥めて会議の進行を促す。



「うん、ありがとうね一哉君。それでは会議を続けます。まず調査局が【焼鬼】が倒された事が原因で異常熱波が発生したと断定した事件の映像があります。まずはご覧ください。」



 糸刀はパソコンを操作すると、一つの動画を再生し始める。

 そこに映っていたのは、1週間前、一哉と咲良が【焼鬼】と戦った公園だった。一哉には戦闘中気にしているような余裕は無かったが、やはり凄まじいまでの破壊状況だった。森は焼き尽くされ、地面は霊術と【焼鬼】の爆破の影響で原型を保っている場所がない。



「今ご覧いただいている映像は、南条特級が【焼鬼】を倒した翌朝、調査局の事後処理班が現場の証拠隠滅に向かった際の映像です。問題の現象は【焼鬼】が倒された場所に局員が向かい、残留物の回収作業を行っている際に起こります。」



 一同は映像を見る。

 映像の中では、白い防護服に身を包んだ一団が現場を歩き、霊術で破壊痕を可能な限り隠滅している。そして近づいていくのは最後に一哉が【焼鬼】を殲滅した場所――――――



『本部、こちら桝谷。敵怪魔の消滅ポイントに到着しました。これより対象の残留物及び細胞片の回収に入ります。』


『こちら本部。了解。桝谷2級、報告では対象は今までにない特徴を持った怪魔との事。十分に気を付けて回収に当たるように。』


『了解。』



 桝谷と呼ばれた局員は紅い破片を集め始める。それは一哉が霊術『相理合崩』で破壊した【焼鬼】の核。映像の中では桝谷が順調に欠片を拾い集めていく。『相理合崩』によって粉々に砕かれた核石は殆ど砂利サイズにまでなっており、動画からでも拾うのに苦労している様子が伝わってくる。

動画はひたすら桝谷が欠片を拾い集める様子を映し続ける。元からやる気の無さそうな加島でなくとも欠伸が出そうな位退屈な動画だ。

 そしてそれは他の局員も思っているのだろう。酔っぱらっている源治などは舟を漕ぎ始めたぐらいだ。


 そうして3分程続いたところだった。

 突如、糸刀が口を開く。



「ここです。問題の場面は。」



 動画は相変わらず欠片を回収するシーンが映っている。

 だが、先程と僅かに状況が違う。紅い石が僅かに燐光を放っているのだ。

 そして動画の中の桝谷はそれに全く気付く様子がない。

 紅い石の欠片が放つ光はどんどん強くなっていく。



『おい、桝谷……っ!! すぐにそいつから離れるんだっ!!!!!!』



 誰かの声がした瞬間、赤い石の欠片から蒼い炎が噴き出し――――――スノーノイズまみれになって動画は終了した。



「…………。」



 一瞬にして重苦しい雰囲気が会議室を支配する。



「見て頂いてわかると思いますが、この後桝谷2級祈祷師は灰も残さず燃やし尽くされて死亡しました。」



 一哉は唖然とする。

 あれ程自分と咲良が苦労して倒した敵があっさり復活し、対策院の局員を殺したのだとしたらあの苦労は何だったのだろうか。そして【焼鬼】はどうなったのか――――――



「糸刀さん…………。まさか奴は――――――、【焼鬼】は生きているんですか……?」



 それだけは確認しなければならない。

 先程の問答ではないが、自分も討ち漏らしが原因でこの事態を引き起こしたのであれば、自分で事態の収拾をしなければならない。

 そしてそれを成し遂げる気概と実力を一哉は持っている。



「その可能性は捨てきれないけど、それは無いと思います。――――――まあ、それに関しては次の動画をご覧いただければわかるでしょう。」



 糸刀はそう言うと再びパソコンを操作し、次の動画を再生する。

 次の動画は違う局員の視点の動画だった。

 先程焼死した桝谷が生きたままの姿でスクリーンに映し出され、相変わらず紅い石の欠片を拾っている。


 先程と変わり、動画冒頭から紅い石が燐光を放ち始め、それがどんどん強くなり、最後には蒼炎が噴き出す。桝谷の身体を蒼炎が包み、焼き尽くす。その後には何も残っていない。ただ桝谷が集めていた欠片が再び散らばっているだけだ。だが、光はますます強くなっている。



『総員急ぎ退避せよっ―――――――! 戦闘可能なものは怪魔の出現に備えよ!!!』


『おいどうなっているんだ?! こんなの報告に無かったぞ!!!』



 映像の中の現場は混乱を極めている。

 それもそうだろう。倒したはずの怪魔の残骸から置き土産のように炎が噴き出すというのはこれまた怪魔の常識から大きく外れている。

 実際に【焼鬼】と交戦した一哉ですら驚くのだ。この場の他のメンツも食い入るように動画を見ている。


 動画の中では紅い石の光はさらに強くなり、強烈なスポットライトのようになっていた。



『おい、あれを見ろ……っ!!!』


『なっ…………?! 浮いてる?!』



 全ての欠片は宙に浮いていた。

 一哉の脳裏に【焼鬼】が現れた時の事が駆け巡る。

 あの時もそうだった。紅い石が宙に浮いていて、怪魔【焼鬼】が展開されて――――――


 そして次の瞬間、欠片から光が消えたかと思うと、再び全ての欠片が蒼炎に包まれた。

 あまりの炎の勢いに動画の中の局員は誰も近づけないでいる。

 実際、動画で見ても凄まじい炎であった。間違いなく【焼鬼】が放っていたものよりも強力な炎。

 呆気に取られる中、炎が消えると、そこには元のサイズに戻った紅い水晶柱があった。



「――――――――くっ……!」



 その光景に思わず一哉は歯噛みする。

 苦労して破壊した筈の【焼鬼】の核が復活している。それではあの戦いは何だったのか。



『結晶体の再生を確認――――――! 至急応援を……』



 動画の中の水晶柱はそんな一哉の心中を嘲るかのように、紅い光の柱を生じさせて上空へと飛び去り、画面上から姿を消した。

 動画はそこで終了する。



「――――――…………。」



 何とも言えない沈黙が会議室を支配する。

 最初に口を開いたのはもちろん糸刀であった。



「ご覧になって頂いた通り、北神1級祈祷師から報告のあった紅い水晶体が突如復活し、それが上空へと消え去りました。復活した原因は不明ですが、恐らく外部からの干渉の可能性が高いでしょう。南条特級からの報告を聞く限りは、自己再生可能なのだとしたら、もっと早くにしているでしょうし。異常熱波が発生したのはこの直後からです。ゆえに対策院では、この一連の流れが怪魔出現の影響と考えています。」



 糸刀はパソコンのスクリーンへの接続を切ると、話を続ける。



「現在、消え去った紅い水晶体の所在は不明です。水晶体自体は陰の気を全く放っておらず、また復活後は放熱なども確認されていないため、各種探査に引っ掛かりません。今後、南条特級が遭遇した時のように、奇襲を受ける可能性も十分に考慮すべきでしょう。」


「――――――。」


「また、皆様もお気づきだと思いますが、今回の怪魔は今までの常識が全く通用しない敵です。無機物を媒体として現れ、我々が識別名称(レジストレーションコード)」を付ける前に自らを名乗りを上げた。詳細は後程南条特級から報告して頂くとして、通常の対処では返り討ちに会うのが関の山でしょうが、目下のところ有効な対策手段はありません。」


「おいおい、なんだよそれ。それじゃあこの会議自体、唯の情報交換会って事じゃないか。とんだ無駄足だぜ、全くよぉ……。」



 敏夫がうんざりした顔で不満を洩らす。

 確かに敏夫にとっては、子細不明の情報を聞くためだけに北海道から呼ばれたようなものだ。これだけの連絡であれば電話で事足りる筈だ。彼の不満も理解はできる。



「咲坂特級、勿論それだけではありませんよ。本日皆様をお呼びさせていただいたのには当然ながらそれ相応の理由があります。」



 対する糸刀は童顔を可愛らしく笑顔にして咲坂の不満に返答を返すと、会議に出席していた局員に合図を送り、巻物の様な物を持ってこさせる。

 巻物を受け取った糸刀は一哉の方を見ながら巻物を広げると、再び真剣な表情となった。



「先の南条特級鬼闘師と北神1級祈祷師の【焼鬼】の戦いで明らかに見過ごせない点がありました。それは突如街中に現れてあれだけ大規模な戦闘を繰り広げたにも関わらず、誰にも目撃されていないこと。」



 糸刀は片手の指を折りながら説明する。



「そして現場にいた南条特級達以外、対策院の誰も事態に気がつかなかった事です。そしてもう一つ、【焼鬼】の正体は結局不明ですが、『御霊降ろし』が使用された可能性があります。つまり、本件は悪意を持った何者かにより引き起こされた、意図的な事件だという可能性が高いということです。」



 糸刀のそんな発言に、会議室全体に動揺が走った。

西薗彩乃ですが、テンプレでこの後デレるとか一切ないです。

安心してください!(?)


次回も会議回です。

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