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鬼闘神楽  作者: 武神
第2章 炎獄の亡霊
31/133

拾壱ノ舞 対策会議

今回で特級8人の名前が全員判明します。

この後何人が再登場するかどうかは……。今のところわからん!(笑)

 一哉が退院したその日の午後、5月上旬にもかかわらず真夏の様な炎天下の中、一哉は対策院の本部へと赴いていた。

 それは滅多にない、対策院執行局実務処理班の特級鬼闘師会議への招集があったため。

 通常、鬼闘師達の活動は怪魔への遭遇時の即時対応か、対策院調査局からの指示があった場合にほとんど限られている。基本的に活動方針の会議は局上層部で行われ、各班へは通達のみの為、鬼闘師にとって会議というのは出席するものというイメージのあるものではない。

 しかし、可及的速やかに解決すべき有事が発生した場合はその限りではない。特に強大な怪魔の出現等、上級以下の鬼闘師の手に余る案件が発生した場合に、現役の特級鬼闘師が集い、対策方針を決めるための会議を執り行う。通称「対策会議」。開催されるのは実に10年ぶりとなるらしい。

 なお、前回の対策会議はとある対策院の裏切り者の暴走時の対処の為に開かれたものであり、それ以降一度も開かれていなかった。


 一哉は対策院本部の緊急対策会議室へと到着すると、開けっ放しの扉から中に入室した。

 会議室の中は20人程が一堂に会する事ができる様な大きな円卓が一つ置いてあり、プロジェクターが稼働して会議室奥のスクリーンへとパソコンのデスクトップ画面を映し出している。席は15席用意されており、席は既に5人が席に着いていた。

 一哉も自らの席へと着席する。



「南条、見る限りもう怪我は大丈夫そうだな。とにかく無事で何よりだ。」


「咲坂さん、お久しぶりです。少し病院が大げさなんですよ。3日目で怪我は治っていたんです。」


「そうは言ってもな南条、あまり怪我を嘗めん方が良いぞ。見た目が治っていても、案外中はまだまだなんて事も多いもんだ。俺も昔は無茶を繰り返してたが、今思えば良い事は無かったぞ。」



 声をかけてきたのは隣の席に座る男―――咲坂敏夫。

 42歳のベテランの鬼闘師で特級に昇進したての頃に一哉がよく世話になった男だ。現在、北海道・東北地区担当の鬼闘師。妻と二人の娘と一緒に、鬼闘師の隠れ蓑として札幌市の隣町・江別市で農業を営んでいるらしい。

 実務処理班の中でも特級鬼闘師は任務により担当各地方に散っている事が多いため、お互いが顔を合わせる事は少ない。特に北海道担当の咲坂は先日の佐奈の任官式の際も欠席しており、一哉が咲坂と会うのは実に1年ぶりである。



「咲坂さん。そんな事若い男の子に言っても説教臭いだけよ~? 男の子はもっとアグレッシブに行かなきゃ。ねぇ~、一哉君?」



 二人の会話に割り込んできたのは、明るいロングの茶髪を緩いウェーブにした女―――中国・四国地区担当鬼闘師である神坂美麻だった。見た目は20代後半の癒し系お姉さんといったところだが、年齢は37。しかも見た目に反して超肉食系美魔女として有名で、気に入った対策院若手職員を味見と称して密かに手を出しているらしい。そんな話のある女でなので、男との交際も長く続かずに未だに独身らしく、以前酒の席で聞いた話によれば本人も流石にヤバいと思っているらしい。

 ちなみに、一哉に手を出さないのは佐奈が怖いからだとか。



「美麻様。この方にその様な事を仰ったら、水を得た魚の様に嬉々として出撃して、その命無駄に散らせるだけですわ。まったく、自分の体もしっかり管理できない様な方が特級の実質No.3だなんて、特級鬼闘師の恥ですわ。もうどうでも良いから死んでくださらないかしら、南条一哉。」


「随分言ってくれるじゃないか、彩乃」


「気安く名前で呼ばないで頂けますでしょうか? 不愉快ですわ。」



 一哉へと罵声を浴びせるのは、茶色がかった長い黒髪をツインテールにしている少し幼い風貌の女―――西薗彩乃。こう見えても25歳であり、一哉に次いで若く、半年前に特級に昇格したばかりの特級としては新米の鬼闘師である。一哉にとっては後輩にあたる。

 美人と言える顔つきであるが、目付きの悪さとお嬢様口調から放たれる毒舌は他人を寄せ付けない。なお、一部の局員には絶大な人気を誇るらしい。

 彩乃の姓である西薗家は、一哉の南条家、咲良の北神家と並ぶ鬼闘師の伝統的一族であったが、10年前に没落。本家は既に断絶しており、彼女は分家の末端の血筋である。彩乃は没落した西薗家を再興する事を目標としている。実際、日々努力を欠かさずに鍛練し続け、つい半年前に鬼闘師の頂点階級に上り詰めた努力家でもある。

 それ故に天才肌の一哉とはウマが合わないのか、昇格直後から一哉に対してはずっとこんな感じである。もっとも、彩乃が一哉を嫌っている理由はそれだけでは無いのだが、その理由を自他共に逆恨みと認めているので、彩乃自身が大きな声でそれを口に出す事はない。

 彼女の担当地区は中部・北陸・甲信越地方である。



「彩乃ぉっ! それは先輩に対する態度じゃなか!! はよう謝りんしゃいっ!!!!」



 不必要な大声で彩乃を叱るのは、九州・沖縄地方担当の荒川源治。巨大な熊の様な風貌の九州男児を地でいく中年の男である。現在の特級鬼闘師の中では最もベテランで、数々の逸話を持つ生粋の武人である。ついでに、その風貌が与える印象と寸分違わず、対策局一の脳筋である。

 源治は昼間にも関わらず、赤霧島の瓶をらっぱ飲みで飲んでおり、いい感じに酔っぱらっている。これで職務が務まるのだから対策院というところは不思議だ。



「まあまあ、折角集まったんだし、喧嘩はやめたまえよ。たまにしか顔を合わせないんだから、仲良くしてくれたまえ。」



 苦笑しながら仲裁に入るのは局長の八重樫重蔵だ。

 彩乃が明らかに不満そうな顔で重蔵と源氏を睨むが、重蔵はそれを無視すると、皆を見回し、未だ空席の部分を見やる。



「さて、一番この場に重要な一哉は来たわけだが……。おい、まだ来てない二人の事、誰か知らないか?」


「神藤さんは出張ですよね。佐奈の任官式の日に本人から聞きましたけど……。まさか局長、忘れてたんですか?」


「――――――おおっ! そうだったそうだった。すっかり忘れていたよ。」



 本当に忘れていたらしい。上司として大丈夫なのだろうかと一哉は心配になってしまう。

 だが、他の特級の面々も知らなかったらしい。確かにこういった集まりにすら集まらないのが神藤秀正だ。彼らにとって、神藤が居ない事こそ平常運転なのだろう。だれもその理由を気に留めようと

していない。



「まあ、あの方がいらっしゃらないのいつもの事ですわ。今更気にするほどの事でもないでしょうに。」


「ああ、神藤はそういう奴ばい。奴さんがなんばしよっと、儂らには関係なか。」


「そうね。あの子、もうちょっと顔が良かったら私が色々と面倒見てあげるのだけど。ウフフフ♪」


「おい、美麻。お前だけ論点ズレてないか……?」



 神童の不在については全会一致で平常運転という事となり、それ以上誰も追及しなかった。

 一哉はいくら彼の事が苦手とはいえ、もう少し彼が特級である事の意味を考えた方が良いのではないかとすら思ってしまう。

 そして話題の矛先はもう一人の欠席者へと向けられる。



「それで? 尊雄はどうした?」


「知りませんわ。加島様の事ですから、また海外旅行にでも行ってらっしゃるのでなくて?」


「俺も知らねえな。」


「私もよ。」


「儂も知らん。」



 8人いる特級鬼闘師最後の一人・加島尊雄に関しては誰も知らないという。

 確かに各々任務で忙しく、お互いに顔を合わせる事も少ないのだが、もう少し興味を持つのが普通ではないだろうか。だが一哉含めて特級鬼闘師は変人ばかりの集まりで、そういった考えは微塵もないらしい。



「遅れてすんませんっ!!」



 丁度そのタイミングで、会議室に飛び込んできた男が居た。

 その男こそ、関西地区担当の特級鬼闘師・加島尊雄。あまり鍛えている様には見えない、ひょろ長い関西弁を話す眼鏡をかけた男だ。



「いやー、東京なんか滅多に来んさかい、迷ってしもてな。えらいすんませんでした。」



 息を切らしながら席に着く加島尊雄。

 確かに本人の申告通り、加島は全くと言っていいほど関西から出ない。

 ただしそれは国内の話であって、決して出不精というわけではない。任務外では頻繁に海外旅行に出ているという事はかなり有名であり、中々の不良鬼闘師である。



「ふん……。と言っておいて、どうせお前の事だから今日海外旅行から帰って来て初めて今日の会議の連絡見た、とかそんなとこだろう?」


「んな?! 咲坂はん、何でわかりはったんや! ――――――もしかして、超能力とか持ってはんの?!」


「ただのカマかけだ、このはんかくさいっ! マジで海外旅行行ってやがったのか……。暢気な奴め、てめえなんざ旅行先で行方不明にでもなっちまえ――――――!!」



 不良鬼闘師の呆れた言い分に咲坂の堪忍袋の緒が切れる。

 咲坂はどちらかと言うと規律にも厳しく、真面目な姿勢を好む人間だ。それ故に一部を除けば基本的に真面目な一哉の事を気にかけていたのだが、目の前の加島という男はそれと正反対。癇に障るという事だろう。

 あくまでもふざけた態度を崩さない加島に対し、咲坂は青筋を立てて爆発寸前。会議室内の他の局員にも緊張が走る。



「咲坂はん、確かに遅れてきたのは悪う思てますけど、そこまで言われる筋合いはあらしませんで。」


「てめえの方こそ、そのクソみたいな思考回路を何とかしやがれ。自分の態度がいかに特級に相応しくないかをいい加減自覚しろ。」



 加島の逆ギレに咲坂の堪忍袋の緒が切れる。

 咲坂は懐から拳銃―――ベレッタM92を取り出すと銃口を加島に向かって突き付けた。咲坂の目は完全に人を殺しそうな目になっている。以前から二人は何かと衝突しがちだったが、咲坂の方に限界が訪れたらしい。



「相変わらずのサイコ思考やね、咲坂はん。こんなとこで人にそんなもん突き付けるなんて、ヤクザと何も変わらへんで?」


「――――――黙れ。」



 この状況でまだ煽る加島に対し、咲坂は完全に殺す気だ。

 そのまま引き金を引き弾丸が飛び出し、床に加島の脳漿が飛び散る―――――――筈も無く、寸前で止めが入る。



「やめろお前たち。これ以上続けるなら、完膚なきまでに叩きのめすが――――――?」



 それは獅子の威厳。絶対的強者による威圧だった。

 殺気にも似たそれを浴びせられた咲坂と加島はもちろん、一哉を含めた他4人もあまりの圧迫感に息を飲む。総身から、毛穴という毛穴から汗が噴き出る様な感覚。本能的に死を覚悟させられるような気配を一瞬で付きつけられた。

 その出本は八重樫重蔵。

 対策院執行局局長であり、現状の特級鬼闘師8人の中で最強の男。

 その重圧の前には誰一人として言葉を紡ぐことができなかった。



「うむ、わかってもらえたようで重畳。それでは全員揃ったようだし、会議を始めようか?」



 そんな緊張感も引かないうちから会議の開始を宣言する重蔵。

 合図に続いて何人かの人間が会議室へと入ってくる。 

 よく見れば、その面子の中には咲良も含まれていた。会議には先行処理班の祈祷師も一部参加するらしい。



 ――――――【八百万】八重樫重蔵。

 ――――――【一撃必殺】荒川源治。

 ――――――【微笑みの死神】神坂美麻。

 ――――――【神速の弾丸】咲坂敏夫。

 ――――――【狂気のもてなし】加島尊雄。

 ――――――【刺毒の令嬢】西薗彩乃。

 そして――――――【漆黒の剣客】南条一哉。


 【無双奇人】神藤秀正を除く7人の特級鬼闘師達による会議がようやく始まる。

次回は会議後編です。

ちなみに、加島クンの関西弁ですが、今時こんなコテコテの関西弁を使っている人なんかいません。

私、関西出身ですので…

ちょっとしたキャラ付けっつーことでよろしくお願いいたします。

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